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第八十三話 カニにリベンジしよう!

「なかなか釣れないわねーー!」


 額に汗をしながら、マグマの海に釣り糸を垂らす。

 炎で炙っても燃えない火炎蜘蛛の糸に、餌となる魔石を吊るした特別製の仕掛け。

 竿も、マグマの熱にも耐えられるようにサラマンダーの骨を使っている。

 だから、釣り道具が壊れてしまう心配はないのだけど……私たちの方が持たなかった。

 数分に一回のペースで水を飲んでいるものだから、お腹がタプタプしている。

 ああ、暑い!

 ただでさえ干からびそうな身体なのに、本格的な干物になっちゃうッ!


「くー、まさかここまで大変だとは!」


 修業もひと段落ついたことだし、とりあえずカニと再戦しようと考えたのが数日前のこと。

 階層主のこととかもあったんだけど、すぐには何もできないということでこっちを先にした。

 それからすぐに道具や餌となる魔石を準備して、釣りを始めたのだけど……これがどうして上手く行かない。

 カニの代わりに、得体の知れない魚のような魔物ばかりが釣れている。

 信じがたいことに、マグマの海の中は結構豊かな生態系があるようだ。


「……本当にこれでカニが釣れるのか? 魚は釣れるようだが」

「ええ、釣れるはずよ。大百科先生にヘルクラブは魔鉱石が大好物だって書いてあったからね。性質の似てる魔石を餌にすれば、間違いなく食いつくはずよ!」

「ううむ。シースがそう言うのなら、間違いないのだろうな……」


 訝しげな顔をしつつも、再び糸を垂らすディアナ。

 やがて彼女の竿が、ギュギュンッと揺れる。


「おお! これはなかなかの手ごたえだぞ!」

「早く引っ張ってッ!」

「ああッ!」


 ディアナはその場で立ち上がると、思いっ切り踏ん張る。

 ググッと足が地面へと食い込んでいった。

 サラマンダーの骨で造られた頑丈な竿が、ミシミシと音を立てながらしなる。

 これは……!

 私は自分の竿を放り出すと、すぐさまディアナの応援へと回った。

 腰に手を回すと、二人がかりで踏ん張る。


「どっせェッ!!」

「とりゃアァッ!!」


 声を張り上げ、お腹の底から力を絞り出す。

 すると、マグマの底から巨大な影が浮かび上がってきた。


『カニなのですよッ!!』

「ええ、分かってる!」

「おおおッ!!」


 紅く光る海面から、一気に巨体がせり上がってきた。

 ザブザブと波を立てながら、魔石を掴んだハサミが姿を現す。

 光沢のある甲羅、ニョキッと突き出た不思議と愛嬌のある眼。

 カニだ、それもあの時のやつッ!!

 片方のハサミが無くなっているのを見て、思わず興奮する。

 だが――


「いッ!?」

「食われてるぞッ!?」

『た、タコなのですよーッ!!』


 吸盤のついた触手が、カニの下半身を捕らえていた。

 やがてこちらに向かってくるカニに引きずられるようにして、本体が姿を現す。

 なんて大きな……タコ……ッ!!

 一軒家ほどもあるカニよりも、さらに一回りほど図体がデカい。

 脚一本であのカニを絡めとっているのだから、その大きさが分かろうというものだ。


「な、何だかすごいのが一緒に連れたなッ!!」

「聞いたことがあるわ……。タコって、カニが大好物らしいって」

『カニさん、食べられちゃうのです!?』


 精霊さんがそう言った途端、ミシリと何かが割れるような音がした。

 見れば、恐ろしく堅牢に出来ているはずのカニの甲羅にヒビが入っている。

 なんというパワーッ!!

 あまりの馬鹿力に呆れるが、それどころじゃない!

 このままじゃ、大事なカニ味噌がタコに吸われてしまうッ!!!!


「ディアナ、戦うわよ!」

「あのタコとか!?」

「ええ! このままじゃ、私たちのカニが食べられれちゃうッ!!」

「そうだ、カニは私たちのものだなッ!!」


 意気投合!

 二人はガチっと握手を交わすと、そのまままっすぐにタコを見据える。

 私たちのカニを横取りしようなんて、許さないわよッ!!

 すぐさま剣を構えると、完全に姿を現したタコの本体に向かって斬りかかる。


「せやァッ!!」


 振り落とされる剣。

 赤褐色の皮膚に、瞬く間に刃が食い込む。

 ずいぶん柔らかい……っと、最初のうちは思った。

 だがすぐに、考えが甘かったことに気づく。

 タコの身が締まって、剣をぎゅっと締め付けるのだ。

 マズイ、身動きがとれなくなるッ!!

 とっさに身体をひねり、何とか剣を引き抜く。


「ちッ、こいつはこいつでかなり厄介だわッ!!」

「ああ! 下手に切りつけると、剣を持っていかれるぞ!」

「来るッ!!」


 お返しとばかりに、タコの足が振るわれた。

 長大な足が、さながら鞭のように唸りを上げて風を切る。

 近くにあった岩が、たちまち砕け散った。

 私とディアナはすぐさま飛び退き、何とか事なきを得る。


「油断ならないわね!」

「シース、また来るぞッ!!」

「ええいッ!! 厄介ねッ!!」


 八本の足が、交差しながら次々に振るわれる。

 恐ろしい手数の多さだ。

 二人がかりだって言うのに、まったく隙をつくことができない。

 このままだと、近づくことすらままならないわね……!

 こうなったら、ここであれを見せるしかないかな!


「よし、こうなったら魔法剣よッ!」

「待てシース! あれは反動が大きいのだろう? それにこいつ、一撃で倒せるとは思えんぞ!」

「まあ見てて。反動を抑えるだけじゃなくて、威力だってだいぶ上がったんだから!」


 いったん大きく距離を取ると、深呼吸をする。

 体中を魔力が廻った。

 それと同時に、身体のブレが完全に制止する。

 深く根を下ろした巨木のように。

 わずかに曲がっていた身体の芯が、たちまち真っ直ぐになるのが分かる。


「狼牙……爆砕剣ッ!!!!」


 気迫の叫び。

 研ぎ澄まされた一撃が、いま放たれた――!

ついに生まれ変わった必殺技が出ました!

次回にご期待ください!

応援、よろしくお願いします。

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