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第八十二話 敵が……消える!?

「とりゃアァッ!!」


 剣を高々と構え、一気に斬りかかる。

 それに応戦すべく、私に対峙する大猿もまた拳を構えた。

 だけど、動きが遅いのよねッ!!

 威力絶大ながらも、鈍重な攻撃。

 その合間をかいくぐり、接近したところで一閃。

 剣が分厚い胸板を裂き、鮮血が噴き出した。

 やがて大量の血を失った猿は、そのまま力なく倒れ伏す。


「よし、出来た! 石も落ちてないわッ!!」


 頭の上の石を確認すると、ほっと胸をなでおろす。

 ようやく、ようやく……石が落ちなくなった!!

 常日頃からの鍛錬に、高重力下での修行。

 それを繰り返すこと一か月近く、ようやく、ようやく戦いを終えても石が落ちなかったッ!

 ちょっぴり感動して、胸に熱いものがこみ上げる。

 最初のうちは、しょっちゅう落としそうになっては頭を押さえてたからね。

 我ながら良くここまで進歩したものだ。

 まさに、たゆまぬ努力の成果ね!


「やったではないかッ!!」

「ふふ! とうとうやったわ、これが天才ってものよ!」

『……ちょっと調子に乗ってるのですー!』

「いいじゃない! 凄いのは事実なんだから!」


 精霊さんの抗議に対して、ドーンっと胸を張る私。

 私はただ、事実を言っているだけなんだからね!

 何ら咎められることはないわ!


 ……さあってと!

 あとはこのお猿さんを調理してやらないとね。

 ナイフで肉をスイスイっと切り分けると、そのうちの一塊を紐で縛って背負う。

 このフレアモンキーってお猿さん、なかなか美味しいのよね。

 ちょっと筋張ったところがあるけど、肉本来の味が堪能できるって感じで。

 ああ……!

 味を想像するだけで、口の端から涎が出てきてしまう。


「しかし、シース。この間までずいぶんと焦ってたのに、最近はやけにじっくりと修行しているな?」


 スキップしながら歩いていると、不意にディアナが疑問をぶつけてくる。

 あれ、言わなかったっけ?

 私はすぐに振り向くと、軽く小首を傾げて言う。


「前にも言ったでしょ? 勇者の日記にさ、階層主は巨大な影って書いてあったじゃない。あの勇者がビビるぐらいの存在なんだから、鍛えないと勝負にならないわ。残念ながら、そこを急ぐことは出来ないかしらね」

「それについてなのだがな。巨大な影自体はたまに見るが、実際に魔物の姿を見たことはないぞ? ホントにいるのか、そんな巨大な魔物が?」

「……そうなのよね。私も、ドデカイ影は何回か見たことあるんだけどな。本体がどんな奴かは見おぼえないわね」


 重力が強くなるたび、遥か彼方に姿を現す巨大な影。

 最初にディアナが発見した時は、あまりの大きさに見間違いだって思ってたんだけど……。

 私も何回か目にしたので、存在していること自体は恐らく間違いがない。

 ただ、影の中身を私もディアナも見たことがないのだ。

 あれだけの大きさのものだから、逃げも隠れもできないと思うんだけど……うーん。

 普段は、マグマの海に潜ってしまっているのかもしれない。


「おっとッ!?」

「く、重力が強くなってきたな!」

『シース、影なのですよ! 近いのですッ!!』

「なッ!?」


 目の前に、いきなり巨大な影が姿を現した。

 黒々とした巨躯が、天を塞ぐように立ちはだかる。

 見ているだけで、恐怖すら感じる大きさ。

 それなりに距離があると言うのに、押しつぶされてしまいそうだと錯覚する。

 近くに聳える火山も、こいつと比べてしまうとちっぽけに見えた。


「なんだ、こいつは……!」

「どこから出て来たの!?」


 周囲を見渡すが、こいつが姿を隠せそうな場所なんて一切ない。

 マグマの海も遥か彼方で、そこから歩いてきたなんてこともなさそうだ。

 ――何もないところに、突然巨大な魔物が現れた。

 そうとしか言いようがなかった。


「精霊さん、魔力は感じる!?」

『反応はあるのですよ! かなり強いのですッ!』

「ち、張りぼてではないってことか……!」

「シース、とりあえず逃げるぞ! この状態で戦うのはまずい!」

「ええッ!!」


 結界の入口に立ったディアナが、額に汗しながら手を振る。

 洞穴に入ったところで、山ごと押しつぶされちゃいそうな大きさだけど……このままで居るよりはマシね!

 私はお肉をしっかりと背負い直すと、重い体を推して全力で走る。

 そのまま結界へと飛び込むと、大急ぎで洞穴の中に避難した。

 すると先に駆けこんでいたディアナが、すぐさま私に話しかけてくる。


「なんなんだ、あれは……! あれほど大きな魔物、見たことないぞ!」

「ベヒモスとか……かしら?」

「違うな。ベヒモスなら前に一度見たことがあるが、あんなとんでもない大きさではなかった」

「じゃあいったい……。こういう時は、大百科先生の出番か!」


 布袋から、魔物大百科を取り出してページを繰る。

 大きな魔物、大きな魔物っと!

 うーん、種類はいっぱい居るみたいだけど……それも大きさが足りないわね。

 一番デカいって言われてるアースドラゴンでも、せいぜいあの三分の一ってところか。

 むむ、大百科先生にも載っていないなんて……!

 あの山よりデッカイ魔物……いったい何なんだ?


「身体が軽くなってきたな」

「ええ。ちょっと、様子を見てみましょ」


 恐る恐る、洞穴の外へと顔を出す。

 すると、さっきの巨大な魔物は綺麗さっぱり消え失せていた。

 そんな嘘でしょ?

 あれだけの大きさの魔物が、わずか数分で姿を消したって言うの……!?


「……消失したわね」

「ああ。見える範囲には、影も形もないな……」

『でも、魔力ははっきりと感じたのですよ? あの魔物全体から』

「……これは、単純にデカいだけの魔物ってわけではなさそうね。今まで私たちが思ってたのより、さらに厄介な相手かもしれないわ……!」


 ゴクリ、と唾を飲む。

 こいつは、今まで戦った相手の中でも一番ヤバいかもしれない……!

 そんな予感が、私の中を駆け巡ったのだった――。


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