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第八十一話 恐るべきダンジョンの正体

「明らかに人間の家ね」

「ああ。だが、相当な年月が経っているようだな」

『中に、人や魔物の魔力は感じないのですよ』


 石のテーブルに近づく。

 テーブルの端に、小さな穴が開いていた。

 見れば、天井の鍾乳石から水が滴っている。

 小さな水滴が、長い年月をかけて石の天板を貫いたようだ。

 このテーブルが置かれてから、相当な年月が経っているであろうことは明白だった。


「あの結界、第二階層の奴と感じが似てたわ。たぶんだけどここ、勇者の家よ!」

「考えてみればそうだな。この階層でこんな家に住む者など、勇者以外にはおるまい」

『おおお! フェイルの家なのです!? だったら、痕跡を捜してみるのですよ!』

「言われなくても!」


 何かめぼしいものはないかな……?

 どこぞの空き巣よろしく、洞穴の中を物色していく。

 第二階層の時とは異なり、生活感を感じさせるような品がいくつもあった。

 毛布に調理器具、筆記用具や本の類に至るまで。

 保存のために魔法が掛けられているらしいそれらは、埃にまみれているものの原形を保っていた。


「勇者って意外と勉強熱心だったみたいね。こんなところにまで本を持ち込んでるわ。えーっと、中身は……魔導書か」

「魔法の研究でもしていたのかもしれないな。城の牢に閉じ込められていた時も、タナトスの魔法にかなり興味があるようだった」

「へえ……」

『フェイルは精霊のことにも興味があったようなのですよ。僕のこともいろいろ聞いて来ましたし』

「そうなんだ。てっきり、勇者ってディアナみたいなタイプだと思ってたんだけどな」


 そう言ってディアナの方を見やると、彼女は「よくわからん」とばかりに首を傾げた。

 脳筋に脳筋の自覚は、やはりないらしい。

 自覚するほど考えていたら、そもそもそうはならないか。


「お! これ、日記帳ではないか!?」

「ホント!?」

「うむ。表紙には何も書かれていないが、日付とその日に起きたことが書かれている。間違いない!」

「やったじゃない! それがあれば、勇者の足取りが分かるわよ!」

「よし、ちょっと読んでみよう!」


 パラパラとページを繰るディアナ。

 彼女は朗々と、そこに書いてある内容を読み上げる。


「○月×日、第四階層について一週間が経過した。第三階層と違って食べ物がおいしいけど、ここで何をすればいいのか分からない。困ったもんだわ。

 ○月△日、今日も体が重くなった。たぶん、この現象にこの階層を突破するための鍵があるんだと思う。でも何が起こっているのかすら良くわからない。

 ○月□日、マグマの海の向こうに、でっかい影を見つけた。恐らく、あれがこの階層の主だ。予想していたよりもはるかに強そう、弱った私の力で倒せるかな? 仮に倒せたとしても、魔王との戦いに勝てるかどうか……」

「ちょっと待って! 魔王との戦い!?」


 この文面だと、これから魔王と戦うと言っているようにしか思えなかった。

 でも勇者は、魔王との戦いが終わった後にこのダンジョンへと足を踏み入れているはずだ。

 ディアナの言っていたこともあるし、状況的にもそう考えないとおかしい。

 まさか、魔王と呼ばれるような存在が当時は二人居たとか?

 いやいや、さすがにそれはありえないか。

 だとしたら……勇者は、魔王を倒せていなかったってことか?

 ……そうか、そういうことだったのかッ!

 やっと、この謎だらけのダンジョンの正体が分かったかもしれない!


「ねえディアナ、あんたってタナトスからこのダンジョンのことは何か聞かされてる?」

「そうだな、あるものを守るための施設だとは言っていたが……それが何なのかは教えられなかったな」

「なるほど。もしかしたらこのダンジョン……魔王の隠れ家かもしれないわね」

「なんだと!?」

『ま、まま魔王!?』


 揃って大声を出すディアナと精霊さん。

 無理もない、魔王は千年前に勇者によって確かに滅ぼされたはずなのだ。

 二人は勇者と直接会っているから、おそらく本人からそのことを聞かされているのだろう。

 でもこれまでのことからすると、こう考えるのが一番自然なのよね……。


「死の直前に、魔王は最も大事な宝をダンジョンに隠したって言われてるわ。その大切な物ってのは、他でもない自分自身だったのよ!」

「ならば、城で勇者と戦ったのは何者だ!? 勇者は確かに、魔王を倒したと言っていたぞッ!!」

「影武者よ。勇者本人も後でそのことに気づいて、ここへ来たんだと思うわ。ディアナにそう言わなかったのは、心配かけたくなかったからよ」

「むむッ……だとしたら、このダンジョンの構造はおかしくないか? 隠れるだけならば、もっとこじんまりとした施設の方が見つかりにくいだろう?」

『そうなのですよー! 現に、フェイルにはすぐにばれたのですー!』

「国よ」


 私がそう言うと、二人はすぐに言葉を返すことが出来なかった。

 ディアナなんて、形のいい唇が半開きになってしまっている。

 まったく、察しが悪いと言うかなんというか。

 やれやれと肩をすくめる。


「魔王が一時的にでも居なくなったら、魔族や魔物は勢いづいた人間に追われることになるわ。事実、魔王が居た頃に比べると大陸の魔物は激減してるって言うし。このダンジョンは、魔王が再び姿を現すまでの間、人間に追われた魔族や魔物たちを匿っておくための地下帝国でもあるんだと思う」

「……そういうことか! つまり、地下で力を蓄えて置いて魔王が復活したらまた地上に出て来ようという魂胆だったのだな!?」

「ええ、そのとおり! 各階層で環境が違うのも、いろいろな魔物を収容するためなんだと思うわ」

『恐ろしいのですよ! もしそんなことが実現したら、再び世界に闇の時代が訪れちゃうのですッ!!』


 精霊さんの恐怖を反映して、剣がガタガタと震えはじめる。 

 ディアナもまた、普段は亡者らしからぬほど血色のいい顔を、今は真っ青にしていた。

 聖騎士らしく恐怖心を表に出さないように頑張っているのだろうが、それでも隠し切れていない。

 指先が小刻みに震えているのが見えた。

 魔族全盛だった当時の人たちにしてみれば、やはり魔王とは恐怖の根源のような存在らしい。


「ああ、大丈夫よ! だって、魔王が健在なら千年も経つ前に出てきてるわよ。最深部に潜んで居たんだろうけど、とっくの昔に勇者が倒したんだと思うわ」

「それもそうか、そうだな!」

「……安心したのですよ! シースも人が悪いのです、そういうことは先に言ってほしいのですよ」

「言わなくたって気づかない? ま、この説も完全ってわけではないんだけどね」


 もしこのダンジョンが魔王や魔族の避難場所というだけなら、どうして侵入者に試練を与えるのだろう?

 その謎がどうしても残ってしまう。

 勇者をダンジョンの奥に誘い込んで、雪辱を果たそうとでも考えていたのだろうか?

 でも、それにしたってああいう試練の数々は不自然だ。

 明らかにそれだけではない何かがある。

 でもその何かっていうのがね……うーん……!


「ああ、もうわかんないわッ!! とにかく、最深部まで行けば良いのよ! 行けばッ!! ディアナ、続き読んで!」

「……すまん、日記はここで途切れている」

「え? もう、何でこうなのかなあ……ッ!!」


 これからってところなのにーッ!!

 私は盛大に頭を抱えると、その場にうずくまるのだった――。


とうとう、ダンジョンの正体が明らかになってきました!

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