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第八十話 これは……発見かも!

 斜面を次々と転がり落ちてくる石。

 津波のように押し寄せるそれらを、次々と回避していく。

 く、身体が重い……ッ!!

 全身に鉛でも巻きつけたかのようだ。

 頭上の岩が、ずっしりと重くのしかかってくる。

 体重移動に失敗すれば、たちまちバランスを崩してひっくり返ってしまうだろう。

 そうしていると、いきなり頭上に突き出していた岩が崩れる。


「ちィッ!!」

『シースッ!!』

「しょうがないッ!!」


 回避しきれないと判断した私は、とっさに斬撃を放った。

 白い衝撃波が落下してきた岩を真っ二つに裂く。

 ふう、危ない……!

 すぐ脇を通り過ぎていった岩を見て、冷や汗を垂らす。

 だが息つく暇もなく、次の岩塊が迫ってきた。


「予想してたよりも……だいぶキツイわね!」

『シース、頑張るのですよ!』

「もちろんッ!!」

「デカい奴、行くぞ!」

「え?」


 視線を上げれば、いつの間にやらディアナが斜面の上に立っていた。

 何でそんなところに居るの?

 というか、いざという時は私を守ってくれるんじゃなかった?

 様々な疑問が脳裏をよぎるが、今はそれどころじゃない!

 ディアナはあろうことか、足元の大岩を思いっきり蹴飛ばしたのだ。


「おわッ!!」

「さあ、それを避けるんだッ!!」

「あ、あんたねえッ!!!!」


 優しそうに見えて、いきなりとんでもないことやるわよね!!

 いい奴なんだけど、こういうところがどうにも脳筋というか何というか……ッ!!

 ええい、考えてる暇もないわッ!!

 身体を前に傾けて、足腰に力を入れる。

 血管が脈打つように、全身を魔力が廻った。

 迫りくる大岩は、さながら天を遮る壁のような高さと大きさだ。

 頭に石を置き、さらに重力がかかった状態でこれを超えるには、一切無駄のない動きをせねばならない。

 体重を滑らかに移動させ、足の力を全身に無駄なく伝えて――跳ぶッ!!


「とりゃあァッ!!」


 叫ぶッ!!

 強靭な脚力によって、巨大な重力を振りほどくかのように身体が打ち上げられる。

 体重移動が上手く行ったのか、風を切って予想以上の高度に達した。

 私はそのままきれいな弧を描くと、ディアナのすぐ目の前へと着地する。


「ふう……ふう……」

『何とかなったのですよー!』

「上手く行ったな!」

「上手く行ったじゃないわよ! ったく、あともうちょっとで潰されるところだったじゃない!!」

「そう怒るな、これも修行のためだ。早く強くなりたいのだろう?」

「そりゃそうだけど、あんたは限度ってものを知らないわけ!?」


 私がそう言うと、ディアナは額にしわを寄せ、頬を膨らませた。

 そして、少しばかりむっとしたような声で言う。


「ここで修業すると言ったのはシースだろう? 私はその手伝いをしただけだ!」

「その気持ちはありがたいけど、あんなのいきなりやられても困るわよ! というか、騎士団ではいっつもこんな無茶な訓練をしてたわけ!?」

「騎士団か? ああ、みなあれぐらいはこなしていたぞ! 私も、先輩からあの手の修業は何度も受けているからな。猛獣をけしかけられたり、武器に小細工がされて居たり……凄いものだった!」

「…………それ、いじめられてたんじゃないの?」

 

 そう言うと、ディアナはまさかと笑い飛ばした。

 彼女は得意げな表情をすると、昔を思い出して語りだす。


「そんなことはない! 自分で言うのもなんだが、私は剣術に関しては天才でな。そのことを見込まれ、先輩方からは事あるごとに『天才様にはこれぐらいやってもらわないとな!』と言われて特別扱いしてもらっていたぐらいだ!」

「いや、それはどう考えてもね。脳筋もここまでくると偉大だわ……!」


 あっけらかんとした様子でいじめの詳細を語り出すディアナに、変な感心を抱く。

 普通、それだけやられたら気づくものよね……?

 ある意味、驚異的すぎる鈍感さだ。

 脳筋も、ここまでくると逆に偉大かもしれない。

 私もたいがいな精神力をしているけど、ディアナはそのさらに上を行きそうだ。

 どんな嫌がらせをしようが、気づかれないんじゃ無敵だからね。


「……お、身体が軽くなってきたわね」

「そうだな。いったん、修業は区切りにしよう。また重力が増加したら再開だ」

「了解。そうと決まったら、拠点捜しでもしましょうか。いつまでも野宿ってわけにも行かないでしょ?」

「うむ。寝床は必要だな」


 頷くと同時に、周囲を見渡すディアナ。

 彼女に続いて、私も適当な場所がないかあたりを見回す。

 すると、少し離れた場所にある火山にぽっかりと穴が開いていた。

 周囲の岩と比べても、かなりの大きさである。

 マグマが溢れている様子もなく、噴火口という訳ではなさそうだ。


「ディアナ、あそこに洞穴があるわ!」

「む、結構大きそうだな」

「行ってみましょ!」

「ああ!」


 こうして洞窟に接近していくと、途中で空気が変わった。

 これは、結界に入った時と同じだ!

 ダンジョン独特の澱んだ空気が、高原のように爽やかで静謐なものへと変化している。


『シース、これは……!』

「ええ、まちがいない! 結界が張られているわ!」

「これはまた……ううむ……」

「ディアナ、大丈夫?」


 表情を曇らせたディアナに、すぐさま声をかける。

 元聖騎士とはいえ、今はデュラハンだ。

 聖なるものに何故か耐性があるらしい私とは違って、この結界は身体に堪えるかもしれなかった。

 

「平気だ。少し、戸惑ってしまっただけだぞ」

「そう? ならいいんだけどさ」

「鎧のおかげで、ある程度はそういったものにも耐性があるからな。よほどでなければ大丈夫だ」


 ディアナはそうやって力強く答えると、洞穴に向かってズンズン歩き出した。

 私も彼女に続いて、すぐさま走り出す。

 結界が張られていた以上、何かがあるのは確かだ。

 その正体を一刻も早く突き止めなければいけない。

 自然と足取りは速くなる。

 やがて洞穴の入口へと達した私たちはそこで――予想外の光景を見た。


「これは……家だわッ!!」


 テーブルに寝床、石を使って作られた簡素な物置。

 そこには明らかに、人が暮らすための生活スペースがあった――。


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