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第七十九話 私に時間はないの!

 いろいろ思うところはあったけれど、狩りは終わった。

 狩りというか、後半はディアナ無双って言うべき状態だったかな?

 剣を振るうたびに血しぶきが舞い、サラマンダーが倒れるって感じだった。

 さすがは、元最強の聖騎士にして現デュラハン。

 剣技に関しては、私が今までに見て来たどんな奴よりもぶっちぎりで凄かった。

 風切音がキインッと後を引くなんて、今まで思いもよらなかったからね。


 あとは、こうして確保したお肉を――美味しく調理するだけ!

 サラマンダーの尻尾を切り落とし、焼石の上でじっくりと火を通していく。

 外皮が焦げて、断面から肉汁があふれ出せば食べ頃だ!


「できたッ!」

「おおおッ!! サラマンダーの尻尾ッ! 久しぶりだッ!!」

「ああ、ちょっと! いきなりがっついたら火傷するわよ!?」


 私の制止も聞かずに、ディアナは尻尾の丸焼きへとかぶりついた。

 そのまま豪快に肉をかみ切ると、もぐもぐと咀嚼して堪能する。

 たちまち頬っぺたが緩み、閉じられた瞳の端からは滴が落ちた。

 時折、口の動きを止めては「んーー!」と悶える。


「最高だ……ッ! 何百年ぶりだろうか、この味わいは!」

「そんなにすごいの?」

「ああ! これだけ美味いサラマンダーは、人間だった頃にも食べたことがないかも知れん!」

「へえ! どれどれ……」


 ディアナにならって肉にかじりつく。

 途端に、口の中で何かが爆発したかのような衝撃が走った。

 美味い!

 あまりにも美味いッ!

 噛めば噛むほど溢れ出す肉汁。

 上質な脂が溶けて、とろけるような食感だ。

 けれど最低限の歯ごたえは残されていて、肉本来の旨みもしっかりと味わえる。

 これほどまでに美味いサラマンダーは、私も初めてだ。


 一般に、サラマンダーは強い個体であればあるほどおいしいと言われる。

 このダンジョンは環境が過酷で、さらに成長に必要な魔力も濃い。

 サラマンダーが強くなるにはうってつけの場所だ。

 前のカニも美味しかったし、この階層はもしかしたらグルメ天国かもしれないわね……ッ!!


「……ふう、食べた食べた! もう食べられんな!」


 しばらくして。

 お腹をさすりながら、気持ちよさそうな顔でディアナが言う。

 下腹がポッコリしているのが、鎧越しにもわかった。

 継ぎ目部分の布がパッツンと張ってしまっている。

 そう言う私も、彼女に負けないほどの大食いをしてメイド服のベルトを緩めたんだけどね。

 普段は内臓の存在を忘れちゃったぐらい細い――というか、ホントにないのかも――腰周りが、今だけはふっくらとしている。


「さて、行動を再開するか。そろそろ、生活の拠点が欲しいところだな。家を捜すとしよう」

「ちょっと待って!」

「なんだ?」


 呼び止めた私に、ディアナはのほほんとした様子で返して来た。

 私が言わんとすることに、サッパリ思い当たる節がないらしい。

 なかなかの脳筋ぶりだ。


「この修行、どれぐらい続ければいいの? 石を頭に載せて生活してるだけだと、ディアナの領域に達するには年単位で時間がかかりそうだけど」

「そうだな……。シースは悪くない素質を持っているから、二十年もあればあれぐらいできるようになるんじゃないか?」

「に、二十年ッ!?」


 あまりの数字に、腰を抜かしそうになる。

 そりゃ、剣術が一朝一夕で究められるようなもんじゃないってことぐらいは分かって居た。

 天才が生涯をかけても究められないほど奥が深いものだし、基本を押さえるだけでも結構時間はかかるだろうと。

 でも、二十年はちょっとね……。

 剣術の基本だけでそんなに時間をかけてたら、ダンジョンを脱出するまでにどれだけほどの年月ががかかることか。

 ギルドカードはもちろん無効だろうし、知り合いだって何人かは死んでいるかもしれない。

 何より、あんの忌々しいルミーネが死んでたら元も子もないわッ!!

 あいつだけは、絶対に早いとこブッ飛ばさなきゃッ!!

 のうのうと生き延びるなんて許さないわよッ!!

 誰のせいでこの私が、この超美少女の私が苦労してると思ってるんだかッ!


「ディアナ、何とかもうちょっと早くならないの?」

「何を焦っているのだ? 私たちは不死族なのだから、時間はいくらでもあるだろう? 百年でも二百年でも」

「……そうじゃなくてさ。私、早く強くなってこのダンジョンから出たいの! 人間の姿を取り戻して、どうしても復讐したい相手がいるのよッ!!」

「復讐か。それなら急ぎたいと言うのも分からんでもないが……こればかりはなかなかな」


 腕組みをして、渋い顔をするディアナ。

 気持ちは分かってもらえたようだけど、彼女としても他の良い修業方法を思いつかないらしい。

 顔を下に向けて、どうしようとうんうん唸っている。


「普通に、素振りとかやるわけにはいかないの?」

「体幹を抑えないことにはどうにもならん。これは一番重要だからな」

「だったらさ、重りをもっと大きくしたら? そしたら修行効果も高いんじゃない?」

「あまりにも頭ばかりを重くしたら、それはそれで変な癖がつくからな。ダメだ」

「……意外と面倒なのね……。それなら、頭に合わせて全身を重くすればいいじゃない? バランスとれると思うけど」

「なるほど! 体重移動を鍛えると言うことでは、ありかもしれないな。動きにくくなれば、自然と最適な重心移動が身につきそうだ。しかし……」


 私の提案にポンッと手を叩いたディアナだったが、すぐさま元の渋い顔つきに戻ってしまった。

 彼女は周囲を見渡すと、ふうっと息をつく。


「重りの材料が問題だな。岩をつけても良いが、それだと逆にバランスが崩れるし動けないだろう」

「そうね……。ディアナの鎧、借りられない?」

「貸してやっても良いが、サイズが合わないだろう。ぶかぶかになるぞ?」

「あー……言われてみれば」


 いくらディアナが細身の女だと言っても、ちゃんと肉がついている。

 特に胸のあたりなんて、今の私の倍ぐらいは周囲がありそうだ。

 そんな彼女に合わせて造られた鎧なのだから、今の私にはぶかぶかだろう。

 着ることが出来るかどうかすら怪しい。


「ううーん……どうしたものかな」

「ここはやはり、気長にやれと言うことだろう。強さは一日にしてならず、だな!」

「だから、急ぎたいって言ってるでしょ? 何とかならないものかな……うおッ!?」


 地鳴りが轟くと同時に、いきなり身体が見えない何かに押さえつけられた。

 これは……また重力異常か!?

 突然のことに、私やディアナだけでなく今まで休んでいたらしい精霊さんまでもが声を上げる。


『な、何なのです!?』

「重力がまた増えたみたい! グ、身体が……」

「シース、不味いぞ! 山の斜面が少し崩れ始めた、ここは危険だッ!!」


 ディアナに促され、火山の方を見やる。

 すると上方の斜面から、バラバラと落石があった。

 人の頭ほどの石が、次々と雪崩を打って落ちてくる。

 対応できる範囲だけど、逃げるに越したことはなさそうだ。

 ……いや、これは使えるかもしれないぞ!


「そうだ! ディアナ、ここで修業しましょ!」

「な、なにを言っているッ!!」

「頭に石を載せた状態で、落ちてくる岩を避け続けるのよ! 今なら全身に重さがかかってるし、どこから落ちてくるかわからない岩は訓練にはうってつけだわッ!!」


 私は近くに置いていた石を拾い、頭の上に載せた。

 ディアナは私の決意が固いことを察すると、仕方ないとばかりに剣を抜き放つ。

 そして、それを構えると笑いながら言った。


「分かった! 大きすぎる岩が落ちて来た時は、私が斬るッ! だから存分にやれ!」

「オッケー、ありがと! さあ行くわよ、精霊さんッ!」

『了解なのです!』

 

 こうして、私の新しい修業が始まったのだった――。


気が付けば、二十万文字を突破してました!

これからもよろしくお願いいたします!

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