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第七十三話 長いこと付き合ったけれど

「まったく。ちゃんとした服があるなら、最初から渡してよね」


 黒のソックスを手に、ふうっと息をつく。

 ベビードールを着られないと言った私に、ディアナはすぐにメイド服を渡してくれた。

 服の予備として、城のタンスからかっぱらってきたものらしい。

 そういうことなら家から何か持ってくればいいのにと思ったけど、ディアナは鎧以外の服をほとんど持っていないそうな。

 種族的なこともあるんだろうけど、女子力低いなんてレベルじゃないわね。

 ……まあ、そう言う私も冒険者時代はあんまり服なんてもってなかったけどさ。

 宿屋住まいで服をいっぱい買っちゃうと、置く場所に困るからねえ……。


「よし、お着替え完了! 来ていいわよ!」

「……女同士なんだから、わざわざ隠れなくても良かったんじゃないか?」

『僕も、シースの裸になんて興味ないのですよー』

「親しき仲にも礼儀ありって奴よ! あとそこ、興味ないとか言わないようにッ!!」


 剣の柄を指ではじくと、そのまま腕組みをする。

 そりゃ、客観的に見て今の私が裸になっても魅力なんてないけどさ。

 仮にも女の子に向かって、裸に興味ないなんて言わないでほしいもんだ。

 それなりに付き合いも長くなってきてるのに、こういう面で精霊さんは全然成長してない気がする。


「さてと。毛皮よりはだいぶマシになったわね。胸元がガッパガパなのが気分悪いけど」

「詰め物でもしたらどうだ?」

「嫌よ。邪魔臭いし、それをやったら取り返しのつかない敗北感を抱くことになりそうだわ!」

「……シースは妙なところでプライドが高いのだな」


 呆れたような顔をするディアナ。

 持つ者には、持たざる者の苦しみなど所詮は分からないということか。

 まして、失ってしまったものことなんてね……。

 人間だった頃なら、このメイド服もばっちり着こなせたんだろうけどなぁ。

 慣れてしまったからか二人とも何にも言わないけど、今の私ってすっごくシュールな見た目の気がする。

 ……うへえ。

 自分で自分の姿を想像して、変な声が出ちゃった。


「……ゴホンッ! 気を取り直して、行くわよッ!」

「行くって、どこに?」

「当てはないわ! でも、この場所にとどまっていたって何にもならないでしょ?」

「それはそうだが、やみくもに動いて何とかなるのか?」

「へーきへーき、これまでだってそれで何とかなってきたんだから。ご飯も探さないといけないしね」


 そう言ったところで、タイミングを合わせたかのようにお腹が鳴った。

 ……まあ、無理もないか。

 魔石の魔力は進化にすべて使っちゃったし、タナトスから強奪した分もお返しとしてぜーんぶ放出した。

 魔力に満ちて黒々としていた髪も、今はもうすっかり白髪に戻ってしまっている。

 ハードな戦闘もしたし、魔力不足をお腹が訴えて来ても仕方ない。


「タナトスの魔石があればなあ……惜しいことしたわ。魔法に吸い込まれてなければ、今頃しっかり回収できただろうに」

「仕方がないだろう。ああしなければ、私たちがやられていたしな」

「まあね。しょうがない、タナトスの魔石を手に入れられなかった分はここで頑張って取り返そうッ!!」


 気分を入れ替えた私は、拳を高々と空に突き上げた。

 魔石は惜しいけど、無くなってしまったものを悔いてもしょうがない!

 それよりも、今から頑張った方がよっぽど建設的だ。


「さあって、そうと決まったらやることがあるわね!」

「なんだ?」

『何ですー?』

「精霊さんのことよ。ほら、その剣からこっちに移って?」

「ああ、そういえばそうだったのですよ!! すぐにお引越しするのです!」


 精霊さんに了解を取ったところで、二本の剣を重ね合わせる。

 直後に淡い光が沸き上がり、古い剣から新しい剣へと吸い込まれるように移動した。

 光を受けた新しい剣は、その刃に宿す輝きをさらに強める。

 もともと冴えた光を放っていた剣だが、今ではそれ自体が光っているかのようだ。


『移動出来たのですよー!』

「よーし、これで万全だわ! あとは獲物を捜すだけ! ……あ、この剣をどうしようかしらね」


 もう一方の剣を手にすると、顎に手を当てて唸る。

 精霊さんが抜けたせいか、剣は見た目からしてすっかりくたびれてしまっていた。

 刃はあちこちかけて、柄も緩んでしまっている。

 側面に傷もつき、錆が浮いている箇所もあった。

 今までよくこの剣で戦えていたと、素直に感心してしまう。

 精霊さんの力って、意外と馬鹿に出来ないわね。


「思い入れはあるけど、ここまで痛んじゃってるとなあ。ディアナ、この剣どう思う?」

「うむ……さすがにこれは、もう寿命なのではないか? 金属疲労もしているようだし、いつポッキリ折れてもおかしくないと思うぞ」

「げ、そんなに? 予備として持って行こうかと思ってたんだけど……」


 さすがに、いつ折れてしまうかもわからない武器に命は預けられない。

 かといって、使いもしない剣を持ち歩くのはさすがに邪魔過ぎる。

 私はしばし逡巡すると、剣をここで供養する決心を固める。


「思えば結構長い付き合いだったけど、仕方ないわ。さようなら!」


 剣を天高く掲げると、そのままマグマの海へと放り投げる。

 風を受けて最初はフワリと舞い上がった剣であったが、すぐさま刃を下に向けて落ちていく。

 そのまま切っ先が水面へと達し、ダポンッと水音を立てて沈む。

 苦労して手に入れた剣だけど、こればっかりはね。

 せめて自然に帰って安らかに――ん?


「な、何か居るッ!!」

「なんだと! 水面が……ッ!!」

『不味いのですよ! 大きな魔力が浮き上がってくるのですーー!!』


 精霊さんがそうやって念を飛ばしてきた直後。

 マグマの海を割って――


「カニだわッ!!」


 巨大なハサミが、姿を現したのだった――!

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