第七十二話 少しお話をしよう
「しっかし、凄いところね……」
そこかしこに溢れるマグマ。
赤茶けた地面は岩だらけで、平らなところなんてほとんどない。
遠くでは火山が噴火し、ドーンッと豪快に大気を揺らしていた。
それに合わせるように、赤い海がうねりを上げてマグマが岸へ押し寄せる。
この世が終わった直後とか、そんな感じの風景だ。
マグマは地下深くから噴き上がってくるものだとは聞いていたけど……その大元へと来ちゃったのかもしれない。
『シース、これからどうするのです?』
「どうするもこうするも、来ちゃったものは仕方ないわ。ディアナ、さっき荷物を持ってくるとか言ってたわよね?」
「ああ、私の身体がまだ第三階層にあるからな。それに荷物を持ってこさせるつもりだ」
「だったらついでにさ、涼しそうな服とか持って来てくれない? さすがにこの毛皮じゃ、暑くて死ぬわ」
毛皮の前を開き、パタパタとさせながら言う。
あまりにも猛烈な暑さのところではあえて長袖を着るのが良いとか言うけれど、毛皮はいくらなんでもやりすぎだった。
普段はカラカラのはずの肌がじっとりと汗を掻き、さらにその水分が湯気となって立ち上っている。
せっかく生えた髪も、中年のオッサンよろしくべたついてしまって何とも不快だ。
「……さて。荷物を待つ間に、話してもらうとしましょうか。勇者とあんたのことをさ」
『僕も聞きたいのですー!』
「そうだな。では、一番最初から話すとしよう。オルドレンを巡る魔王軍との戦いで討ち死にした私は、タナトスに無理やりデュラハンとして蘇生させられた。だが、タナトスに忠誠心なんて欠片も抱いていなかった私は問題ばかり起こしていてな。日々のほとんどを城の牢の中で過ごしていた」
「牢ねえ。わざわざそんなことしなくても、タナトスなら人の心ぐらい支配できそうなもんなのに」
「奴が言うには、あえて魔法を使わずに屈服させるのが楽しいのだそうだ」
「ああ、そういうこと……!」
いかにも、あの吸血鬼が言いそうなことだ。
昔っから今と変わらん趣味をしていたらしい。
三つ子の魂、百どころか千までって感じなんだろうか。
進歩がないって、つくづく恐ろしいわね……。
「話を続けるぞ。こうして牢に閉じ込められていた私のもとに、ある日、勇者がやってきたのだ。彼女が言うには、第三階層に侵入してきたところをいきなりタナトスに捕まえられたらしい」
「……勇者が捕まったの? あいつに?」
「うむ。勇者は先の魔王との戦いで無理をし過ぎたらしくてな。気安く本気を出すわけにはいかなかったそうだ」
「そんなこと初めて聞いたわね。精霊さん、知ってた?」
『知らなかったのですよー! フェイルはいつも元気いっぱいだったのです!』
「……きっと、心配かけたくなくてあんたには隠してたのね。でも納得だわ。勇者が本調子なら、ディアナが体を張って行かせる必要もなかったわけだし」
タナトスは強い。
ギルドの脅威度ランクで言ったら、間違いなくSだ。
自爆してくれなきゃ、私程度の強さじゃまず勝てなかったはずの相手だろう。
でも、勇者は何といっても魔王を倒した女だ。
普通の状態なら、例えSランクであろうがディアナにかばってもらうまでもなく正面から叩きのめせたはずなのよね。
「牢の中で意気投合した私と勇者は、脱獄してさっき通ってきた部屋へと向かった。そこで、脱獄に感づいたタナトスに発見されたという訳だ」
「……事情は分かったけど、あんたもたいがいお人よしねェ。勇者と言い、私と言いさ。付き合いの浅い他人をかばい過ぎよ。勇者とだって、そんなに長いこと一緒にいたわけではないんでしょ?」
「うむ、三日ほどだったかな。私のこれはうーむ、そういう性分なのだ。困っている者を見ると、助けたくてこううずうずしてくると言うか……! そわそわしてくるというか……!」
落ち着かない様子で、何かを我慢しているかのような表情を浮かべるディアナ。
お人よしもここまで来ると大したもんね……。
こりゃ、財布を預けたら一日ですっからかんにしてくるタイプだわ。
「……お、そろそろ身体が戻ってくるぞ!」
「ちょうどいいわね! やっとこれで、暑さがマシになるわ」
はるか上空から、荷物を背負った鎧が落っこちて来た。
わずかにだけど加速していくその姿に、私は冷や汗をかく。
荷物と鎧の重さで、ブレーキがかかりきらないんじゃないでしょうね……?
緊張して、たまらず唾を飲む。
そうしていると、鎧はいきなり手足を広げた。
手の先からつま先までがピンっと伸びる。
体積が増えたことで空気抵抗が大きくなり、その身体はマグマに触れないギリギリのところで止まった。
「ちょ、ちょっと! 危ないじゃないッ!!」
「すまんすまん、シースがあんまり暑そうだったからな。少し急ごうかと」
「急ぎ過ぎよ! まあいいわ、そういうことなら早く服を貰おうかしら」
「ああ、少し待っていてくれ」
私と同様に、平泳ぎの要領で移動してくるディアナの身体。
その上に頭をちょこんっとのっけてやると、彼女はすぐさまチョーカーを閉めて、調子を確かめるように首を回した。
記憶がなかった頃と違ってすぐに首をくっつけるのは、人間だった頃の名残だろうか?
まあ、そっちの方が見た目的に親しみやすくていいんだけどさ。
彼女はそのまま背中の荷物を卸すと、中から服を取り出す。
「これだ」
「ありがと! …………ありゃ?」
ディアナから手渡された服は、とんでもなく薄っぺらだった。
持ち上げてみれば、向こう側がほとんど透けて見えてしまっている。
裾には可愛らしいフリルがついていて、胸元には深い切れ込みとおっきなリボン。
さらに巨乳以外はお断りと言わんばかりに、胸のふくらみで前方支えるデザインをしていた。
これってさ、どこからどう見たって……!
「あんたねえ!! なんでよりにもよって、ベビードールなんかチョイスしてくんのよォ!!!!」
前途多難ッ!!
第四階層の空に、私の叫びが響いた――。
※ディアナは別に変態ではありません!
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