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第六十九話 行くか残るか!

 広々とした部屋全体に、熱が渦巻いている。

 その源は、床の中央に口を開けた大きな穴だった。

 そこからムワッとするような熱風が、轟々と吹き上げてきているのだ。

 酷い暑さだ。

 渇いた肌に汗が浮かぶ。

 ……いったい、この下には何があるんだろう?

 恐々と穴を覗き込んでみると、遥か彼方に紅い何かが見えた。

 この揺らめく光と灼けつくような熱は……まさか、マグマか!?


『シース、これが第四階層への道なのです……?』

「……たぶん」

『あの下にあるやつ、絶対にマグマなのですよー! 落ちたら死んじゃうのですッ!! 行きたくないのですよーッ!!』

「ぐぐッ……!」


 部屋の中を見渡してみるが、他に通路らしきものはなかった。

 状況的に考えて、ここに飛び込むしかなさそうだ。

 でも、下で光っている物体はまず間違いなくマグマ。

 もしあれに突っ込んでしまえば、流石の不死族でも命はない。

 前に自ら炎を纏ったことがあったけど、あれ以上の高温で焼け死ぬことだろう。

 ……ああ、やだ!

 クソ暑い部屋の中にいるって言うのに、変な寒気がしてきたッ!!


「……仕方ない、ロープを準備しましょ! 下まで降りて、詳しい様子を確認しないと!」

「残念。そんな時間はないよ」

「……くッ!」


 振り向けば、そこには扇子を手に笑うタナトスの姿があった。

 ディアナ……ッ!!

 やっぱり勝てなかったか……ッ!

 ドレスが少し乱れていること以外、ほとんどと言っていいほど変化のないタナトス。

 彼女の様子から戦いの展開を察した私は、強く唇を噛んだ。

 こいつ、変態的な趣味をしてる割には強いじゃないッ!!


「危ない危ない。まさかここまで来られるとはね」

「チッ! あともうちょっとだったのに……!」

「残念だったね。でも、そこを抜けた先はマグマの海さ。特別な準備をしない限りは、飛び込んだところで焼死するだけだったよ」

「特別な準備ねえ……! 手の込んだことで!」

「さ、こっちへおいで。大丈夫、殺しはしないよ。君のその性格、結構気に入ったからね。ディアナみたいに、記憶と名前を奪って下僕にしてあげる」


 タナトスは瞳を赤く光らせると、こちらに向かって手を伸ばして来た。

 マズイ、魔法だッ!

 明らかに怪しい瞳の輝きに、私はとっさに顔を手でガードしようとした。

 けれどその前に、身体が硬直して動かなくなる。

 これは……!

 かろうじて動く眼で、タナトスを睨みつける。


「どうだい、僕の魔眼は?」

「ぐ……! うぐ……!」

「あ、そっかしゃべれないか。口だけは動くようにして上げる」

「……はァッ! あんた、人を動けないようにするなんて趣味悪いわよ!」

「そうかい? 僕なんて、吸血鬼にしてはまだ健康的な趣味をしてる方だと思うけどね。さ、君を僕好みに作り替えてあげる」

「かッ! やめなさいよ……ッ!」


 白い指先が、ゆっくりと私の額に向かって伸びてくる。

 やがてそれは、水面に指でも突っ込むかのように私の頭の中へと侵入してきた。

 なにこれ、私の心を冒すつもり……!?

 身体の中へと侵入してくる指に、流石の私も本能的な恐怖を抱く。

 嫌だ、入ってこないで!

 こっちに来るんじゃない、この変態女……ッ!!


「ふふふ、良い顔だね。どれ、もっと……ん?」


 勝ち誇ったように笑っていたタナトスの表情が、不意に険しくなった。

 彼女は額にしわを寄せると、急に焦ったような声を出す。


「おかしいな……! 全く魂に侵入できないッ!! 君、やっぱりただの死蝕鬼じゃないね!!」

「あったり前でしょ! このシース・アルバランを、そこらの雑魚と一緒にしないでッ!!」

「しょうがない、やっぱり始末するしかないようだね! ……ぬッ!!」


 突然、しかめっ面をするタナトス。

 集中力が切れたのか、魔眼が解けて身体が自由になった。

 すぐさまタナトスの睨んだ方を見やれば、そこには――足に噛みついたディアナの首があった。


「ディアナッ!!」

「いけ、シース! 今のうちだッ!!」

「え? 行けって言われたってさァ……!!」


 吹き上げる熱風に顔をしかめながら、穴を見やる。

 赤熱したマグマが、遥かな暗闇の下にハッキリと見えた。

 こんなところへ飛び込んだら、どう考えても死しかない!


「大丈夫だ、飛び込め! 勇者も前にそこへ飛び込んだッ!! タナトスの言っていることなど、ただのハッタリだッ!!」

「勇者ですって!?」

「そうだ! 千年前、勇者はそこから第四階層へと向かった! だから、行けェッ!!!!」


 必死にタナトスの足へ噛みつきながら、ディアナは声を張り上げる。

 その叫びに、私の足は自然と穴の方へと引き寄せられていった。

 改めて……怖い。

 奥にマグマが控えているだけでなく、高さもある。

 吹き上げる風が、さらに恐怖感を煽った。

 少しでも気を抜けば、腰が抜けてその場で座り込んでしまいそうになる。


「……くッ!」

「何をためらっている! 時間はないのだぞ!」

『シース、時間がないのですよ! こうなったら、ディアナを信じるしかないのです!』

「そうだ、私を信じろ!! 信じてくれ!!」


 タナトスの足に噛みつきながらも、力強く叫ぶディアナ。

 その形相の必死さと来たら、半端なものではない。

 血走った眼、額に浮かび上がった血管、こわばった表情筋。

 彼女の痛切な思いが、その表情を見るだけでも痛いほど伝わってくる。

 そんな顔されちゃったらさ……私……!


「ディアナ、あんた馬鹿よ」

「な、いきなり何を!」

「付き合いは短かったわ。でも、私のことを思ってそんな表情されたらさ。そんなに必死で声を出されたらさ! 逆に一人でなんて行けないじゃないッ!! あんたを……見捨てられないじゃないッ!!!!」


 私はそう啖呵を切ると、穴の縁から身を引いた。

 そして改めてタナトスを見据えると、その額をまっすぐに指さす。


「……今からあんたを倒すわ」

「どうやって? 言っておくけど、僕、強いよ?」

「簡単よ。あんたより強くなればいいだけだわ。ディアナ、もうちょっとだけ頑張って!」


 そう言うと、私は懐から魔石を取り出して口に放り込んだのだった――!


前回のあとがきへの返答、ありがとうございました。

皆様のご意見を参考にしながら、今後の執筆を進めさせていただきます。

さて、次回はいよいよシースが三度目の進化を遂げます!

どうなるのかご期待ください!

応援よろしくお願いします!

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