表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/109

第六十六話 人は見かけによらないって言うけどさ!

「これは……?」


 剣を手にして、きょとんっとした顔をするデュラハン。

 彼女は剣を首の上に掲げると、脇に抱えた頭から刃を食い入るように見つめた。

 何か、思うことでもあるのだろうか?

 私たちの方には目もくれず、時が止まったように静止している。

 大きく開かれた瞳は、白銀の剣光をぼやーっと映し出していた。


 ……よくわからないけど、チャンスだ!

 私は近くに落ちていた剣――質まで見てる余裕はなかった――を手土産に、素早く山を下りる。

 そしてそのまま、石化しているデュラハンの隣をすり抜ける。

 ラッキー、やっぱり私はツイてる!

 日頃の行いの良さって、こういう時に出てくるのね!

 このまま一気に階段を上って入り口を再び塞いでしまえば、多少の時間稼ぎは出来るはずだ。

 そう思っていた矢先――


「おっと!」

「わッ!!」


 いきなり広場の奥の壁が割れて、通路が現れた。

 いざって時にすぐ駆けつけれらるよう、別の通路があったらしい。

 そこからヒョイッと飛び出してきた少女に、走っていた私は勢いを殺せずそのまま突っ込んでしまう。

 あわや――と思った瞬間。

 少女はタンッと地面を蹴ると、軽やかに宙返りをして私をかわした。

 その動きは何とも優雅で、称賛してしまいそうなほど。

 服装もフリルがいっぱいついた黒のドレスで、いかにも上流階層って雰囲気だ。

 ビスクドールのように整った顔立ちが、さらにそのような気配を際立たせている。


「へえ……ここを走ってるってことは、君が侵入者か」

「……あんた、それが分かるって何者!?」

「何者って、僕が聞きたいところなんだけどね。死蝕鬼が侵入者だったなんて、予想外もいいところだよ。どうやったかは知らないけど、お宝も盗んでるみたいだし」


 少女は軽く目を細めると、興味深そうに私が持ってきた剣を見た。

 途端に、ぞわりとした感触が背中を走る。

 気だるげな表情をしているようにしか見えないが、その眼力は半端なもんじゃない。

 こいつはまさか……!


「……あんた、タナトスね?」

「よくわかったね。でも、僕みたいな可愛い乙女にあんたはないんじゃないかな?」

「どうせ、歳が分からなくなるぐらい生きてるんでしょ? あんたで十分よ」

「辛辣だね。その口の利き方、嫌いじゃないよ。でも、見た目と声がなあ……。おっぱいだけでも大きかったら、かわいがってあげても良かったのに……!」


 そう言うと、タナトスは私のあばらが浮いた胸元を見てため息をついた。

 死蝕鬼の身体だから仕方ないとはいえ、胸を見て露骨にがっかりされると頭に来るわね……!

 言っとくけど、人間だった頃の私はHの称号を持ってたんだから!

 まだ十六歳だったから、もうちょっと大きくなれたはずだしッ!!


「というか、あんた女でしょ! なに言ってんのよッ!!」

「僕はただ、綺麗なものを最大限に愛でたいだけだよ。おっぱいは女性美の象徴じゃないか。それを存分に楽しんで何が悪いっていうのさ? 素晴らしいだろう?」

「芸術的な感じで、変態親父みたいなこと言うな! もう、関わってらんないわねッ!!」


 ゆっくり後ずさりをすると、私はそのままその場を去ろうとした。

 だがその時、タナトスの目つきがにわかに変わる。


「おっと。僕から逃げられると思わないでよ?」


 タナトスは人差し指を立てると、瞬時に魔力を集中させた。

 指先から黒い球体が浮かび上がり、火花を散らせる。

 あれは、闇の魔力の塊だ……ッ!

 それも、半端な代物じゃない。

 大抵の人や魔物なら、跡形もなく消し去ってしまうような代物だ。

 これだけのものを、あくびを出すような軽い感じで作るなんて…………ッ!!

 こいつ、正真正銘の化け物だわ……!


「とんでもないわね……ッ!」

「ありがとう、褒め言葉として受け取っておくよ。でも残念、君には死んでもらわないとね」

「そうそう簡単に、死んでたまるかッ!」


 そう吐き捨てると、すぐさま横に飛ぶ。

 指が振られた。

 黒い球が、スウッと音もなく宙を切る。

 私はさらに横へと移動すると、その軌道から逃れようとした。

 だが――

 

「まずッ!! 追いかけてくるッ!!」


 一直線に跳んでいたはずの球が、私を追いかけて急旋回した。

 こんなの予想外ッ!!

 これじゃ避け切れないッ!!

 最悪の瞬間を想像して、たまらず身がすくむ。

 しかしその時、何かが眼前で閃いた。


「これは……斬撃?」


 白い衝撃波が、黒い球を切り飛ばしてしまった。

 衝撃はそのまま壁まで伝わり、ドオンッと部屋全体を揺さぶる。

 慌てて斬撃を飛ばして来た方向を見やると、そこにはデュラハンが居た。

 が、いつもとは明らかに雰囲気が異なる。

 頭をきちんと被った彼女は、タナトスを射殺すような眼差しで睨みつけていた。

 その顔つきは険しく、額に刻まれたしわに途方もない憤怒が見て取れる。


「あらら、ずいぶんと厄介なことになってるね。思い出しちゃったのか」

「ああ! 我が愛剣を手にして、すべて思い出したさ。名前も、過去の思い出も。そして、お前を殺さなければならない理由もなッ!!」


 タナトスに剣を向けると、高らかに宣言するデュラハン。

 な、なにが起きたんだ……!?

 デュラハンとタナトスって、味方同士のはずじゃないの!?

 私が動揺していると、すぐさまタナトスがムッとした表情で言う。


「……やれやれ。せっかく人が記憶を封じていい子にしてあげたのに、元に戻っちゃうなんて! これで二度目じゃないか!」

「残念だったな。名を奪うことは出来ても、過去を奪うことまでは出来なかったということだッ!」

「ふうん。まあいいや、また前と同じことをすればいい。何度裏切っても、元に戻せば問題ないよ」

「出来るかな? 愛剣を手にした私は、千年前よりも遥かに強いぞ」

「問題ないさ。あの時は、君の味方に勇――」

「ちょ、ちょっと! 何がどうなってんのよッ!!」


 話についていけず、思わず叫んでしまった私の声が大きく響く。

 我ながら大した声を出したものだ、ぐわんぐわんって壁が唸ってる。

 すると声のデカさに閉口したらしいタナトスが、呆れた顔でこっちを見た。


「……なんだ、何も知らなかったのか。こいつの元の名前は、ディアナ・ファヴェーロ。オルドレンを守護する、最強の聖騎士とか言われてた女さ」

「聖騎士……! あのデュラハンさんがッ!?」


 あんまりにも、意外過ぎる過去。

 私はその場で絶句してしまったのだった――。


ブックマークが9000件を超えました!

目標にしていた10000件まであと少し、これからも頑張りますのでよろしくお願いします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ