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第六十五話 剣の選ぶ者

 結界の縁に立つ。

 古代文字と幾何学模様によって織りなされた魔法陣は、周囲が明るくなるほどの強い光を放っていた。

 これを造ったのは、よーっぽどの大魔導師なんだろう。

 未だにこれだけ光ってるなんて、周囲の魔力を吸収して結界を維持する術式が組み込まれているようだ。

 ざっと見た感じ、術式の密度とかも半端なもんじゃない。

 細かく刻まれた古代文字が、スパゲッティをぶちまけたみたいな感じになっている。

 

「……これだけのものを見ると、流石にちょーっとビビるわね」

『シ、シースがビビるのです?』

「何を引きつってるのよ! 私だって乙女なんだからね、たまには怖いことぐらいあるの!」

『その、死神みたいな顔で言われても……』

「ふんッ!」


 まったく、神妙な気分が台無しじゃない!

 心配する気が無くなったわよ!

 私は軽く肩を落とすと、再び前を見据える。

 そしてそのまま、つま先を出した。


「……何もないわね。そっちは?」

『僕も、特には』


 拍子抜けするほど、あっさりと結界の中に入れた。

 そよ風ほどの抵抗感すらなかった。

 千年の年月を経る間に結界が壊れたのかとも思ったけど、光を見るにそんなこともなさそう。

 やっぱり私には、魔よけとかそういうものが通じないらしいわね!


「ふ……! 見た目は鬼でも心は聖女だってことが、ここでも証明されたわね!」

『そういう問題なのです?』

「そういう問題なのよ! 私の神々しいまでの内面の美しさが、結界を一切寄せ付けなかったんだわ!」

『…………ホントに心が綺麗な人は、わざわざそれをアピールしない気がするのです』

「何か言った?」

『何もですよ!』


 すごーく生意気なことを言われたような気がしたけど……まあいいか。

 今はそれよりも、お宝さがしである。

 いくら私が欲深――ごほん!

 これまで清貧だったがゆえに物資を欲していたとしても!

 ここにある宝を全部持って帰ることなんて、不可能だからね。

 デュラハンに後でばれてはいけないことを考えても、持ち出せるのはせいぜい剣一本ぐらいだろう。

 この宝の山から、いっちばん価値のある剣を捜さなきゃ!!


「精霊さん、この中で一番いい剣ってどれかわかる?」

『さあ? 僕にはそういうスキルはないのですよー』

「うーん……」


 大切なものを、私だったらどこにしまうだろう?

 やっぱり山の一番奥に隠しておくかな?

 結界に宝を隠した連中が、私と似たような考えをしてるなら……!


「掘るわよ!」

『この山をですか!?』

「ええ! 一番いい剣は、たぶんこの底よ!」

『でもこの山、凄い量があるのですよ!』

「弱音を吐いてる暇なんてないわ! そりゃッ!!」


 近くにあった大剣をスコップ代わりにして、金貨の山を掘っていく。

 ザラザラザラッと気持ちのいい音を響かせながら、黄金が波を打った。

 うっひゃー、たまんない音ッ!!

 これが全部持って帰れたら、億万長者なんてもんじゃないんだけどなあッ!!

 爵位を買って、貴族にだってなれちゃうわよ!!

 ああ、ホントにこのお金……ッ!

 もったいないッ!


「くぅ……!」

『シース? 大丈夫です?』

「平気よ! ちょっと、悔しいだけッ!!」


 こうして金貨の山を掘り進んでいくと、カポンッと変な音がした。

 スコップ代わりにしていた大剣の鞘の先が、何かに触れたようだ。

 慌てて金貨をかき分けていくと、細長い木箱が出てくる。

 間違いない、宝だ!

 箱を引き上げると、すぐさま蓋に手を掛ける。

 するとそこには――


「綺麗……ッ!」


 磨き込まれた白銀の輝き。

 周囲の景色を映し出す刃に、うっとりとした声が漏れる。

 怪しさすら感じてしまうその美しさは、この世のものとは思えないほど。

 触れればすうっと消えてしまいそうな、非現実的な雰囲気がある。

 

『……すっごいのですよ! 剣身の付け根に、グラン・エルビスって刻んであるのです!』

「グラン・エルビスですって! 伝説クラスじゃないッ!!」


 これは、持って帰るしかないッ!!

 眼の色を変えた私は、すぐさま剣の柄を手にした。

 だがその途端、掌を強烈な痺れが走る。


「あたッ!」

『シースッ!?』

「大丈夫よ。でもこれ、私を受け付けない……!」


 恐る恐る指を伸ばすと、たちまち白い稲妻が飛んできた。

 これは……選ばれし者しか手に出来ないとかそういうやつか?

 かーッ、ここまで来てめんどくさいわねッ!!

 人がせっかく苦労したってのに、使わせないってか!

 そんなの、この私が認めるわけないでしょッ!!


「ええい、こうなったら箱ごと持って行ってやるッ!!」

『ダメです、無茶は良くないのですよッ!』

「知ったこっちゃないわ! 見てなさい、絶対にこの剣を使いこなして――」

「お前たち、何をしているッ!!」

「わッ!!」


 しまった、デュラハンが来ちゃったッ!!

 あまりのことに動揺した私は、剣の入った箱を落してしまった。

 箱は金貨の上をスルッと滑り落ちていき、そのまま勢いよく結界の外へと飛び出す。

 さらに倒れていた石像の腕に当たって蓋が開き――中身が出た。

 ヒュルンヒュルンッと、回転しながら剣が宙を舞う。

 デュラハンは自身に向かってきたそれを、驚きながらも白羽取りして――


「なんだ、これは?」


 柄を手に、ビュンッと軽く振るったのだった――。


デュラハンさんの正体が、次回明らかになります!

ご期待くださいッ!

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