第六十三話 さあ、お宝を頂こうじゃないッ!
『……どうして、この家に結界があることになるんです?』
「察しが悪いわねえ。まずは、この地図を見て」
ぽけーっとした口調の精霊さんに、軽くため息をつきながら地図を床に広げる。
紙の真ん中より少し上のあたり、中流地区の細い通り沿いにバツ印が打ってあった。
これが、この家の位置している場所である。
「この場所よ、ちょっと変だと思わない?」
『どこがです?』
「仮にも、この家の主は近衛騎士の筆頭なのよ? それがこんな、中流地区の真ん中あたりに住むと思う? 普通はさ、もっと城に近い上流地区じゃない? この街は綺麗に区分けされてるって言うのに」
『言われてみれば、そうなのですよ』
カタカタと剣を揺らして、同意を示す精霊さん。
その様子に、自然と私は得意げな顔で胸を張る。
……張っても揺れない胸に、ちょっとだけ傷ついた。
「でしょ? そこへきて、さっきのデュラハンさんの話よ。何かあった時はいつも自宅待機だって。これで大体わかったわ。この場所には、いざという時に守らなきゃいけないものがあるんだって」
『えーっと、それってつまり……この場所には何か大切なものがあって、デュラハンさんはその事実を知らずに守らされているということです?』
「そういうこと! たぶんタナトスは、情報が漏れるのを警戒してデュラハンさんには何も言ってないんでしょうね。デュラハンさんって、魔族とは思えないぐらい人が良いし……ちょっとねェ」
首を置き忘れて来た一件を思い出しながら、軽く肩をすくめる。
あのデュラハンに結界を秘密裏に管理しろなんて言っても、翌日には情報が漏れ出して居そうだ。
街でおばちゃんたちが「実はねェ!」ってノリで井戸端会議しているのが目に浮かぶ。
そんなおばちゃんなんて、この街には居ないんだろうけど。
「記憶がないってのも、おそらくはタナトスが消したんだと思うわ。この場所の秘密を守るためにね」
『おお! さすがシース、すべて説明がついたのですー!』
「まあ、私にかかればざっとこんなもんよ!!」
鼻を鳴らすと、腰に手を当ててさらに胸を張る。
この程度の推理もできないようじゃ、精霊さんもまだまだ甘い。
私の相棒を務めるなら、これぐらいは頭がキレなきゃ。
脳筋はあんまり好きじゃないのよねー。
……もっとも、謎がすべて解けたわけじゃない。
何でタナトスがデュラハンに新しい名前をつけなかったのかが、結構気にはなっている。
だけど……どんだけ考えてもそこだけは思いつかないし、しょうがないか。
私だって、専門の探偵ってわけじゃないからね。
「そんなにまでしてタナトスが守るものってさ。結界以外にないんじゃない? それに、私が投げた文書のこともあるしね。あれがちょっとでも気になるなら、絶対に結界を守らせるはず!」
『間違いないのですよ! 早く結界を捜すのです!!』
「そうね、では――」
「ただいま。む、そなたら何をしているのだ?」
不意に玄関の扉が開き、デュラハンが首をのぞかせた。
買い物かごに入れられた頭が、ぬうっとこちらを覗き込む。
げ、予想していたよりもずいぶんと早く帰ってきたわね……!
見た目は立派な女子の癖に、男子みたいな買い物時間の短さだ。
こいつ、いろいろ抜けてる割にお買い物に関してはなかなか堅実らしい!
「あ、ああ! これはね、明日どこへいこっかなーって相談してたのよ!」
『そうなのですー!』
「こんな時に、そんな相談をしていたのか。呑気な奴らだ」
そう言うと、デュラハンはどさっと買い物かごを置いた。
二つある買い物かごのうち、片方には彼女自身の首が。
そしてもう片方には――
「それ、ダイオウミミズなの?」
「いかにも」
「嘘! いくらなんでも大きすぎるわよッ!!」
かごの中でのたうち回る、人の腕ほどの何か。
ぬらぬらと光るそれが、イソギンチャクよろしく群れを成して暴れている。
卑猥な何かにさえ見えるそれに、私は女として顔を引きつらせるのだった――!
――○●○――
「どっこいしょっと。精霊さん、行くわよ」
『ふえ? もうそんな時間なのです?』
その日の夜遅く。
私が声をかけると、精霊さんは何ともふにゃーっとした念を返して来た。
精霊だと言うのに、ちょっと寝ぼけているらしい。
ほんとに、どこかのオッサンみたいなやつだ。
「そうよ。ちゃっちゃとシャキッとする!」
『はいなのですよ!』
「さてと。結界のある場所は、スペースの問題からしておそらく地下ね。だとすると、入り口は一階しかありえないから……」
慎重に、足音を立てないように。
階段を一歩一歩降りていく。
こうして一階にたどり着くと、ゆっくりと扉を開いてデュラハンの部屋を覗き込んだ。
するとベッドの上で、頭を抱きかかえた鎧の姿が目に飛び込んでくる。
夜寝るときまで鎧を着ているのは、やっぱり種族的なものなのかな?
「ぐっすりね」
『たくさん食べてましたからねー。お腹いっぱいで、よく眠れるのですよー』
「タナトス様……わ、わたしにはそういう趣味は……!」
「あ、夢を見てるわね。この様子ならしばらくは安心だわ。お酒もたっぷり飲ませたし」
ダイオウミミズをつまみにして、ドンドン酒を飲んでたからね。
ま、気持ちは分からないでもない。
私も怖いもの見たさで少し食べてみたけど、しびれるような辛みが意外とお酒に合っていた。
イカの塩辛みたいな感じかな?
特大サイズ過ぎて、ナイフで切り分けるのがちょっと面倒だったけどね。
「さて、どこかなー?」
怪しげな魔力がないかどうかを探りながら、壁や床をコンコンと叩く。
そうしていると、壁のあるところで明らかに音が変わった。
叩くたびに、ポンポンと抜けるような音が聞こえてくる。
これは間違いない、何かある!
慌てて当たりを探ると、壁を構成する石が一つだけ明らかに小さかった。
他は全部長方形なのに対して、それだけ小さな正方形なのだ。
「これがスイッチね!」
『さっそく押してみるのです!』
「分かってるわよ。よいしょ!」
指に力を入れると、驚くほど滑らかに壁が凹んだ。
ガラガラガラッと石臼を引くような音がして、周囲の壁が見る見るうちに変形していく。
壁の一部に隙間が出来て、それがどんどんと大きくなっていった。
やがて人が通れるぐらいになったところで、動きが止まる。
恐る恐る中を覗き込むと、そこには暗闇へと降りる階段があった。
「なるほど。結界はこの下ってわけか」
『シース、気を付けるのですよ』
「分かってるわよ」
湿った空気をかき分けるように、階段を下りる。
通路は意外と長く、地の果てを目指しているかのよう。
途中から足音が反響して響くようになり、何とも気味が悪い。
町の住民がここまで深く穴を掘れるとも思えないから、タナトスが後で地中へと埋めたんだろう。
つくづく用心深い奴だ。
「あれだわ。キレイ……」
『光ってるのですー!』
闇の先に、朧に光る魔法陣が見えた。
差し込んでくる光に、自然と私の足も速く動く。
こうして通路を抜け、広間に出たところで――
『シース、それ以上動いちゃダメなのですッ!!』
「へッ?」
私に向かって、巨大な石剣が振り落とされた――!
ドンドン盛り上がっていきますッ!!
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