第五話 将来について考える
……あれからしばらく経ったが、まだ口の中がマズイ。
このダンジョンに居る限り、この先もずーっとあんな感じの食事なのかな?
考えるだけで、頭が痛くなってきた。
もういっそ、死んでしまいたい。
いや、とっくの昔に死んでるんだけどさ。
気分的な問題というか……。
真面目に、これからどうしたものだろう。
スケルトンとして、このままずーっと細々生きるなんてのは絶対に嫌だ。
それに、私を殺した連中にキッチリ落とし前をつけさせないことには気が済まない。
あいつらには、この世のあらゆる拷問をフルコースで味合わせてやる!
特にあの高慢ちきな令嬢には、顔が引きつってそのまま固まっちゃうほどの恐怖と苦痛を……!
邪悪な笑みを浮かべることしばし。
令嬢を辱める妄想をたっぷりと楽しんだ私は、久々にゴロンッと横になった。
狭苦しいとはいえ、こうして住処を確保できたことはとりあえず大きな収穫である。
出入りに難があるが、逆に穴を塞いでしまえばほぼ安全だ。
あとは、ここを拠点としていかに過ごすか。
とにもかくにも、力をつけなければいけないのだけど――。
「…………スー……」
骨だけとなった手を見やって、深くため息をつく。
考えてみればこの身体、いったいどれだけ成長の余地があるんだろう?
人間だった頃は鍛えれば多少は筋肉が付いたし、魔力も伸びた。
肉体的にはあまり恵まれていなかったけれど、それでも多少は成長したのだ。
けど、骨だけの身体って果たして成長するんだろうか?
目いっぱい鍛えたところで、体の動かし方が上手くなるだけかもしれない。
――肉を取り戻さなきゃ!
力をつけるには、やっぱりそれしかなさそうだ。
そもそも、私はスレンダーすぎる身体は嫌いなんだよね。
女の子はボンキュボンに限るでしょ。
貧乳に希少価値があるなんて言ってる連中も居たけど、あんなの負け惜しみだ。
……現状、世界一おっぱいがなさそうな私が言ってもむなしくなるけれど。
人間だった頃はほんとにドッカンなサイズだったんだからね?
とにかく!
強くなるためにも、見た目を良くするためにも。
この骨格だけの体をもう少しマシにしなきゃいけない。
けど、どうしたらお肉なんて生えてくるんだろ?
魔物なんだし、肉をドカ食いしてたらそのうち生えてくるんだろうか?
単に骨が太くなるだけだったりしたら、困っちゃうな……。
そんなことを考えたところで、私はふとある物の存在を思い出した。
布袋を枕元へと引き寄せると、すぐさまその中を漁りだす。
そして、人をぶん殴るのにちょうどいいほどの厚さの本を見つける。
これこれ、『魔物大百科』だ!
早速、スケルトンの項目を目指して頁を繰る。
魔物大百科というのは、そこそこ金のある冒険者ならだいたいが持っている本である。
その名の通り、魔物に関するあらゆることが載っている。
この本の凄いところは、空間魔法を応用してページをぐぐーっと圧縮して詰め込んでいるところ。
おかげで、見た目は一千ページほどなのに実際には一万ページほどもある。
その知識の豊富さから、通称『大百科先生』とも呼ばれる優れものだ。
便利な分だけお高いのだけど、この荷物の持ち主が意外と金持ちで良かった。
私みたいな駆け出しじゃ、欲しくても個人じゃまず持ってないからね。
えーっと、スケルトンの項目はっと。
あった、ここだ!
『スケルトン
脅威度:Fランク
墓場や戦場跡などに発生しやすい不死族のモンスター。
人骨に負の魔力が宿ることで誕生するとされ、一度に数体ずつ産まれることが多い。
発生が確認されたころには既に大規模な群れとなっていることが多く、手が付けられないことも。
けれど個体としては非常に弱く、一対一ならば子どもでもまず負けない。
ただし、長い歳月を生きたスケルトンは大幅に能力が向上し、上位種へと進化する場合がある。
これは長年に渡り魔力を摂取し続けることにより、スケルトン自身を構成する魔力の質が上がることが原因とされている。
この質的向上は他の魔物にも起こることであるが、存在を魔力に依存する部分が大きいスケルトンは特に変化が顕著である。
理論上は脅威度Sランクオーバーの種まで進化すると言われているが、そこまで至った個体が存在しないため実証はされていない』
……来ちゃったんじゃない、私の時代が!
Sランクオーバーの不死族と言えば、いずれも強力なモンスターばかりである。
しかも、いかにも怪物って感じのおどろおどろしい容姿をしている下級種族とは異なり、人間に近い姿をしたものがほとんど。
吸血鬼などは人間に成りすまして暮らしていたという伝説がいくつもある。
伝説に残ってる吸血鬼とかって、だいたいが超美人なのよね。
私は人間だった頃からして超美少女だったけど、もっとすごくなったりするのかな?
案外、人間やめるのも悪くないかもしれないわね……うへへ!
っと、そんな妄想をしている場合じゃない。
強くなったうえに人間的な容姿を取り戻せるということは、連中に復讐するチャンスじゃないか。
今に見て居なさい、ルミーネ・フェル・パルドール!
今はネズミなんて食べてる私だけど、いずれあんたの家の財産をぜーんぶ奪って毎日フルコースを食べてやるんだから!
私は決意を新たにすると、とりあえず今日のところは休養を取るのだった――。




