表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/109

第五十三話 お金って大事よね

「やれやれ、ちゃんと鍛冶屋があって良かった……」


 やっとの思いで村まで帰還した私は、鍛冶屋の軒先でふっと息をついた。

 ゾンビの鍛冶屋さんに、私の剣をちゃんと直せるんだろうか?

 ちょっぴり不安だ。

 これから先、魔法だけで戦うとなるとさすがに不便だからね。

 スケルトン・クリスタルからの逃亡劇でも実感したけど、剣はやっぱり必要だ。

 魔法だけじゃ、不意に距離を詰められたら全く対応できない。

 あと、魔力の都合で中級以上の魔法だとそうそう連発するわけにも行かないし。


「おーい! 直ったぞー!」


 トンテンカンとうるさかった槌の音が止み、親父さんの声が響いてくる。

 お、上手く行ったみたいね!

 すぐさま戸を押し開き、建物の中へと入る。

 すると私の存在を感じた精霊さんが、凄い勢いで念を飛ばして来た。


『こ、怖かったのですよーッ! このおじさん、僕の身体を叩くんですよ!? 恐怖です、恐怖なのですよーッ!!』

「そりゃ、修理だから叩くぐらい当たり前でしょ」

「ん、なに独り言を言ってるんだ?」


 念に応じて言葉を発した私に、怪訝な表情をする親父さん。

 そうだそうだ、精霊さんのことはややこしくなりそうだから秘密にしておいたんだっけ。


「なんでもないわ、こっちの話。しかし、キレイに直ったものね……。見ただけじゃわからないわ」


 窓から差し込む光に、刃をかざす。

 磨き込まれた鋼が、光を青く滑らかに反射した。

 見た目だけなら、新品同様と言っても過言じゃない。

 下手をすれば、スケルトンウォリアーから奪った時よりもキレイかもしれない。


「なかなかいい仕事してるだろう? だが、直ったのは見た目だけだな。あんた、この剣でかなり無茶してただろう? 地金がかなり傷んでるぜ」

「そうなの?」


 私は眉をひそめると、ちょっと困った感じの声を出す。

 剣の中にはまだ精霊さんが入っている。

 置き去りにするわけにも行かないし、もう少しこの剣には頑張ってもらわないと。

 精霊さんの入っていない剣じゃ、魔法剣も放てないしね。


「ああ。あんまり無理なことすると、今度はきっとポッキリ折れちまうぜ。気を付けることだな」 

「分かったわ。スケルトン狩りは、魔法メインにするしかなさそうね……」

「それがいいぜ。多少の補強はしておいてやったが、どれだけ持つかわからんからな。じゃ、修理代として銀貨一枚!」

「……えッ!?」


 そう言って手を差し出してくる親父さんに、目をぱちくりとさせる。

 銀貨ですって……?

 こんなところでも、お金が流通してるっていうの!?

 参ったわね、流石にこれは予想外だわ。

 お手伝いとかで済まそうと思ってたから、お金なんて用意してないわよ……!


「銀貨……?」

「ああ。もしかしてあんた、金のこと知らないのか?」

「……恥ずかしながら」

「そうかい、まあ自我が芽生えたのが最近なら無理もねえな」


 親父さんはポケットに手をやると、銅貨を一枚取り出して見せた。

 意外と綺麗な円形をしたそれは、外で流通しているものと大きさはさほど変わらなかった。

 が、表面に刻まれている絵柄が違う。

 外の銅貨には花が刻まれているのに対して、ダンジョン製の銅貨には悪趣味な髑髏が刻まれていた。


「これが金だ。これさえあれば何とでも交換できるから、ホント便利なもんだぜ」

「なるほどねえ……」

「しかし困ったな。銀貨が貰えないとなると、代わりのものを請求しなきゃならねえが――」

「その代金、わしが建て替えよう!」


 いつの間にか、村長が私の後ろに立っていた。

 ……やれやれ、油断も隙もあったもんじゃないわね。

 このじいさん、村の中ならいつでもどこでも現れるのだろうか?


「そんなこと言って、建て替えてやったからタナトスを倒してくれとか言うんでしょ?」

「うむ。わしが銀貨一枚を建て替えてやるので、そなたは代わりにタナトス様を――」

「だれが倒すかッ!! 割に合わなさすぎるわよ!」

「何じゃと! では、代わりに払ってやろう!」

「なにそれ、最初は単に貸すつもりだったわけ!? どっちにしたって無理だからね! せめて全財産払う覚悟くらいしなさいッ!!」

「それは……のう。そなた、失敗するかもしれんし……」


 急に勢いがなくなって、声が小さくなる村長。

 この期に及んでお金大事って、どんだけがめついのよ!

 いや、私に対する期待値が異様に低いだけか……?

 いずれにしても、ロクな奴じゃないわね。

 すうっと入口を抜けていく村長に、呆れて物も言えない。


「何よあれ……」

「きもちはわかるが、あんまり村長のことを責めないでやってくれ。そろそろ御使いが来る時期だから、いろいろと気が立ってるんだ」

「……厄介そうなことが近づいてるってのは、何となく分かるんだけどさ。やっぱりあれはなあ……」

「それより、金はどうするんだ? こっちとしても、タダ働きは勘弁してほしいんだが?」

「あっと! えーっと、それは……。そうだ、クリスタル・スケルトンの素材じゃダメ? 鍛冶屋さんならさ、いろいろ使い道あるでしょ?」


 背負っていた布袋を広げて、中の骨をドサッと出してやる。

 これでも倒した奴は、もったいないから回収できるだけ回収してきたからね。

 三体分ぐらいはあるんじゃないだろうか?

 その量の多さに、たちまち親父さんの顔がほころんだ。


「これで十分だ! ありがとな!」

「こっちこそ、現物で悪いわね」

「いや、俺にはこっちの方が助かるくらいだ。ま、都なら金の方が喜ばれるだろうけどな」

「都? もしかして、おっきな町があるの!?」

「ああ、城の麓に城下町がある。半年に一回、そこから商隊も来るんだぜ」

「へえ……凄いわね」


 村だけでなく、城下町まであるとは。

 敵ながら大したもんである。

 思わず感心して、うんうんと頷く。

 すると親父さんは、急に渋い表情をしてこちらに顔を近づけて来た。


「興味を持つのは良いが、都には近づかない方が身のためだ。あの場所はここいらとは比べ物にならないほど管理が厳しいらしいからな。下手に近づけば、魔族のあんたでも捕まるぜ」

「捕まったらどうなるの?」

「即処刑だ、それも意味なくな。タナトス様の気まぐれで殺されるんだよ。それは優しい方で、酷い奴になると永遠に牢獄の中とも聞く」


 うわ、とんでもないな……!

 人間の貴族もたいがいだけど、それよりもさらにたちが悪いかもしれないね。

 もっと強くなるまでは、都へは近づかないでおこうっと……。

 私は親父さんの言葉に、軽く体を震わせながら頷きを返すのだった――。


感想・評価・ブクマなど頂けると作者のやる気が出ます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ