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第五十二話 滅びちゃった町で

『シース、良かったのですか?』


 村を出て歩いていると、不意に精霊さんが念を飛ばして来た。

 ずいぶんとまた、不満そうな様子である。

 脳内に響く声が低い。

 村にいる間は気を使って話しかけて来なかったけど、結構言いたいことがあったみたいだ。


「何が?」

『村の人たちのことですよー! 助けなくていいのですか?』

「……言ったでしょ。割に合わないから助けないって」

『ホントに、それでいいのです? 村の人たち、パッと見は平気そうでしたけどやっぱり大変だと思うのですよ』

「私だってそれぐらい分かってる! けど、同情するたびに無茶してたらこっちの身が持たないわよ!」


 そう言うと、深くため息をついた。

 確かにあの村人たちのことは気の毒に思うけど、今の状態でタナトスとやり合うのはね……。

 話を聞く限り、相手はラーゼンなんかとは比べ物にならないほどの大物だ。

 どんな種族かは分からないけれど、村人たちの魂を支配していることからして莫大な魔力を持っているのは間違いない。

 中級魔法をやっと一つ習得したばかりの私が、まともにやって勝てる相手じゃあ絶対ないわね。

 そんなのとぶつかり合って、見ず知らずの人たちのために犠牲になるなんて私はごめんだ。

 なんてったって、自分を一番大切にしなきゃ。

 自分を大切に出来ないやつに、人を大切に出来るわけないんだし。


「……いずれにしても、今は強くなることが先決よ。早くクリスタル・スケルトンを倒して進化しなきゃ! もし、進化してめちゃくちゃ強い種族になれたら、タナトスを倒すことだって出来るかもしれないでしょ?」

『……それはそうなのですよ』


 しぶしぶと言った感じながらも、分かってくれたらしい精霊さん。

 よし、いい子だ。

 私は剣の鞘をポンポンと叩くと、再び周囲に意識を集中させる。

 村人が言うには、クリスタル・スケルトンは村を出てまっすぐ北に進んだ場所に生息しているらしい。

 大きな遺跡のような場所があって、そこが奴らの拠点になっているのだとか。

 人間じゃないタイプも生息してると良いんだけど……どうなっていることやら。

 神経を研ぎ澄ませながら、獣道を行く。


「お、ここが遺跡みたいね……!」


 しばらく森を行くと、一気に視界が開けて来た。

 石造建築の群れがたちまち周囲を埋め尽くす。

 町だ。

 さっきの村なんかよりも、よっぽど大きくて立派な町である。

 予想しなかった遺跡の規模に、口から思わず感嘆の息が漏れる。


「凄いわね。大きいとは聞いてたけど、こんなの思いもよらなかったわ」

『人の気配はしないですね。かなり前に死んだ町なのです』

「ずいぶんと時代がかった建築様式だけど、古代の町かしら? あ、何か書いてあるわよ!」


 町を貫く大通りの中央に、巨大な石柱が建てられていた。

 他の建物はみな白いのに、これだけ黒光りしているので異様に目立っている。

 近づいてみれば、柱の表面に大きく文字が刻まれていた。

 これは……古代文字だろうか?

 今の文字とは明らかに違う、ミミズが暴れたような字が描かれている。


「精霊さん、古代文字って読める?」

『だいたいは。鞘を取ってくれれば、すぐ読むのですよー』

「オッケー、分かったわ」


 剣を引き抜くと、碑文の前に刃をかざす。

 たちまち精霊さんから、念が送られてきた。


『うーん、これは古代文字じゃないのですよ。たぶんですが、魔族の文字なのです』

「ということは、この町は魔族の町ってこと?」

『そこまでは。人間の町の跡地に、魔族が石碑を立てただけかもしれないのです』

「魔族が石碑ねえ。ロクな記念じゃなさそうだわ。大虐殺記念とかかしら?」


 そうつぶやいたところで、どこからか足音が響いてきた。

 ガチャガチャと、何か硬いものが擦れ合うような音も聞こえる。

 これは……おいでなさったようね!

 すぐさま音のした方向へと振り向くと、そこには輝く骨格を持つスケルトンの姿があった。


「出たッ!! クリスタル・スケルトンッ!!」


 軽く舌なめずりをすると、すぐさま剣を手に距離を詰める。

 ほとんど一瞬で近づいた私に、敵の反応は遅かった。

 骨格こそ光り輝いているが、運動能力そのものは普通のスケルトンと大して変わらないらしい。

 鈍重で、キレのない動きだ。


「そりゃッ!!」


 比較的脆いとされる関節部分を狙って、刃を繰り出す。

 まずは敵の動きを封じるため、膝の関節を狙って。

 身を屈め、低い一から放たれた斬撃は正確に膝の皿の下へと吸い込まれた。

 すると――


「かったァッ!!」

『痛いのですッ!!』


 手に跳ね返ってきた、ズシンッとしびれるような感触。

 柔らかい部分を叩いたはずなのに、尋常でない反動だ。

 流石、硬いってだけでCランクに登録されていることはある!


『シース、こいつを斬っちゃダメなのです! 刃が欠けちゃいますッ!!』

「分かったわ! こういうときは――」


 剣を鞘に納めると、両手を高く掲げて何かを構えるような体勢を取る。

 そして、一息で――


「地に縛られし翼、紅をもってこれを穿つ。ファイアーランスッ!!」


 呪文を完成させると、すぐに炎の槍が完成した。

 それを思いっきり投げつけると、ドオンッと大気を揺さぶるような爆発音が轟く。

 骨格が一瞬にしてバラバラとなり、しゃれこうべが飛ぶ。

 さすがは岩をも穿つ中級魔法ッ!

 アホみたいに硬いこいつでも、一撃粉砕とは恐れ入る。


「やった! 一発じゃない! 人型だけど骨はもったいないし、回収して村で使おうかしらね……」

『感心してる場合じゃないのです! 新手が来るのですよ!』

「そうみたいねッ!!」


 建物の陰から、ガシャガシャと団体さんが姿を現す。

 町に侵入してきた私のことが、よっぽど気に入らないのか?

 衛兵よろしく、次から次へとクリスタル・スケルトンが湧いてくる。

 

「チッ、こんなにいるのに全部人型じゃない! 普通のスケルトンなら、ゴブリンの奴とかも居るのに!」

『もしかして、町の住民がクリスタル・スケルトンになってるのです?』

「そんなのわかんないわよ! それより今は、こいつらを倒すことに集中しないとね!」


 再び剣を引き抜くと、手を振り上げて接近してくるスケルトンたちに向けて構える。

 だがここで――


「ああッ!!!! 刃こぼれしてるゥッ!!!!」


 わずか。

 本当にわずかなのだけれど、掲げた刃の一部がポロっと欠けてしまっていた――。


いかん、寝過ごしてしまった……!

遅めというか、それを通り過ごして早めになりつつある時間ですが更新です……!

こんなおっちょこちょいな作者ですが、これからもどうかよろしくお願いいたします。

感想・評価など頂けると嬉しいです。

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