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最弱骨少女は進化したい! ――強くなれるならゾンビでもかじる!――  作者: kimimaro
序章 大ダンジョンのスケルトン
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第四話 隠し部屋

 本気になったネズミの俊敏さを、私はちょっと甘く見ていたようだ。

 いや、スケルトンの鈍足さを甘く見ていたと言うべきかな?

 私とネズミの追いかけっこは、当初の予想を裏切って意外なほどのデッドヒートとなっていた。

 私の体力は無尽蔵だが、ダンジョン育ちのネズミもそれに負けてはいない。

 ちっこい癖に、恐ろしいほどのタフさを発揮して私を見事に翻弄する。

 まったく、ネズミのくせに生意気なことこの上ない!


「……カカッ!」


 いい加減、しびれを切らした私は作戦を変えることにした。

 そこらに落ちている小石を拾うと、ネズミに向かって雨あられと投げまくる。

 それにはさすがのネズミもたまりかねたのか、スッと壁際によって隙間へと逃げ込んでいった。

 ふ、計算通り。

 これでネズミは、文字通り袋のネズミとなったわけだ。


「……スー!」


 さあ、とっ捕まえてやる!

 意気込んで隙間に手を差し込むと……予想したよりもずっと奥が深かった。

 第一関節まで全て入って行ってしまう。

 まずい、もげちゃう!

 変な音がした関節を無理に曲げないように、私は思いっきり前へと倒れ込んだ。

 すると、ネズミが入り込んだ隙間の向こうに微かながら光が見える。

 どうやら、壁の向こうにはちょっとした空間があるらしい。


 もしかして、隠し部屋を見つけた?

 怪しい、とても怪しい!

 これだけのダンジョンなのだから、隠し部屋の一つや二つあったとしたって不思議じゃない。

 そして、そういう部屋にはだいたい何か凄いものが隠されているのが常だ。

 聖剣とか、魔剣とか、封印されし魔導書とか。

 そーんなお宝が見つかれば、貧弱スケルトンな私だって無双出来るに違いない!


「カカカッ!」


 壁の隙間を、手の感覚を頼りにくまなく捜索する。

 こういう隠し部屋に入るための入口は、だいたい近くにあるものである。

 遠くにそんなもの設置したら、使う時に不便なことこの上ないからね。

 誰が造ったのか知らないけど、こんだけのモノを作るんだから馬鹿ではないだろう。

 そんなことを思って隙間をあれこれ漁っていると、いきなりガラガラッと壁の一部が崩れる。

 ――やば、巻き込まれる!

 とっさに手を引っ込めると、たちまち人が通れるほどの穴が開いた。


「……スー!」


 なるほど、もともと穴が開いていたのを後から埋め戻していたんだ。

 飛び散った石を拾うと、周囲の壁のものと明らかに色が異なっていた。

 無理に作り直していたので、軽く指先が触れただけでも積み木よろしく崩れてしまったらしい。


 さて、道もできたことだしお宝タイムだ!

 喜び勇んでほふく前進で穴へと潜ると、その先には大人が寝転がれるほどの小部屋があった。

 壁に光属性の魔鉱石が埋め込まれていて、結構明るい。

 さて、肝心の宝箱は……ない!

 どこにもない!

 その代わりに、ずいぶんと年季の入った布袋が端に転がっていた。

 見たところきったないし、あんまり期待できなさそうな感じだけど……。

 仕方なく中をのぞいてみると、ナイフに鉄なべに筆記用具などなどと生活用具一式が詰め込まれている。

恐らく、この荷物の持ち主は冒険者だったのだろう。

いずれもかなり使い込まれた様子だ。


 ……お宝はなかったが、まあこれらは結構使えるかな?

 特にナイフは、刃渡りも長くて丈夫そうである。

 ずーっと放置されていただろうに、特にさびてないところを見ると、一応は何かの魔法金属で出来ているようだし。


「チュウッ!」


 そうしたところで、生意気なネズミが視界の端で鳴いた。

 おおっと、すっかり存在を忘れていたけどこいつの始末もつけないと!

 私は手にしていたナイフをスッと投げつける。

 青光りする刃は、あっという間にネズミの身体を地面に縫い付けた。

 見たか、獣め!

 これが文明の力なのだッ!

 小石に比べて、何と圧倒的な攻撃力ッ!!!!

 思わず拳を握りしめると、腹の裂けたネズミを回収する。


 ――うっわあ!


 ネズミのどす黒い血が、はらわたと一緒くたになって白い指先を染める。

 腹を割かれたネズミの死体はらまさに惨状というのが相応しい、眼を覆いたくなるような状況を呈していた。

 魔物の解体ぐらいはやったことあるけど、あの時は別に解体した奴を食べなかったからね……。

 これからこれを食べると考えると、無いはずの腹が痛くなってくる。

 でも、我慢だ。

 生き延びていくためには、こいつを食わなきゃならんのである。

 この獣を、私は…………食うッ!!


 骨と内臓を出来るだけ綺麗に取り除くと、ネズミはちょうど一口サイズぐらいの肉塊になった。

 意を決して、それを口の中へと放り込む。

 ――ガブリッ!

 すると驚いたことに………味を感じた。

 いや、感じてしまった!

 変なところで高性能らしい我が骨の身体は、味覚を感じることが出来たのだッ!

 誠に遺憾なことにッ、最悪なことにッ!


「カハッ!!!! スホーッ!!」


 たちまち広がる鉄の味、鼻を抜ける血生臭さ。

 臓物の苦みが、舌どころか身体全体をしびれさせる。

 うげ、何だこれは!

 生ごみを凝縮して、腐肉をぶち込んだみたいだッ!

 死ぬ、死んでしまう!

 うぼァッ!!

 この世のものとは思えぬほどのまずさに、私はそのままひっくり返って天を仰ぐのだった――。


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