第四十八話 ゴーストを釣ろう!
『何を作っているのですー?』
「見ればわかるでしょ、釣り竿よ」
森で拾って来た、とにかく丈夫で長い若木。
それに木を削って作った小さな輪っかを取り付けると、そこに大蜘蛛の巣から調達してきた糸を通す。
あとは虎の子のお肉を糸の先端に括り付けてやれば――
「どう? これで、ゴーストをおびき寄せられるわ」
『どうって、こんなのに引っかかるのです?』
「引っかかるわよ、確実にね」
ニタッと笑う私に、精霊さんはさらなる疑問の念を送ってきた。
やれやれ、どうやらこいつは気づいていないらしい。
「まあまあ。考えても見なさいよ、この森に居る他の不死族は全く襲われないのに、どうして私たちだけが襲われたと思う? 私だって死蝕鬼よ、見た目なら他のゾンビどもと大して変わらないわ。誠に遺憾だけど」
『そう言われれば、そうなのですよ』
「でね、さっきのデュラハンと話をして気づいたのよ。奴らは私たちが想像してるよりもずっと肉に飢えてて、しかも鼻が効くって!」
『言ってましたね、肉の匂いがするって』
「そう! だから、まず間違いなく肉に食いついてくるわよ! そうね、後は仕上げに――」
大きくて白いぼろきれを、お肉の周りに付ける。
さらに木の棒を入れて布地を軽く膨らませてやれば、これでよし。
竿を使って持ち上げれば、その辺にいるゴーストが実体化したかのようだ。
これで見た目の誤魔化しも効くだろう。
あとは、釣りに出かけるだけだ!
「よーし、これで完璧ッ! ではゴースト釣りに出発ッ!!」
『索敵は僕に任せてくださいなのです! いっぱいいるポイント、教えるのですよー!』
「はーい、任せたわ!」
意気揚々と、森の中へと戻っていく。
こうして十分ほど歩いたところで、精霊さんから念が飛んできた。
『あの木陰に、ゴーストが二体居るのですーッ!』
「オッケー、さっそく釣りましょ!」
竿を長く持って、すぐさまゴーストたちの前に肉入りの布を差し出す。
すると二体のゴーストは、何の疑いもなく実体化して肉に食らいつこうとした。
はいはい、食欲旺盛なことで。
でも、二体まとめてはちょっと困るのよね。
急いで竿を動かすと、ゴーストのうち一体を上手に引き離していく。
「食いついたわね……!」
そのまま走り出して、ゴーストを誘い出す。
すっかり肉の匂いに心を奪われたゴーストは、まったく疑うことなく私についてきた。
実に素直ないい子だ。
あとはこのまま、邪魔ものの少ない広い場所へと誘導して――
「ファイアーボールッ!!」
竿を引いて餌を引っ込めると、代わりに魔法をくれてやる。
いきなり肉が消えたことに戸惑うゴーストに、炎の塊が見事直撃した。
もちろん、一発で倒せるようなことはない。
こちらの攻撃に気づいたゴーストは、すぐさま反撃として風の刃を飛ばしてくる。
でも、相手が一体ならばいくらでも対応のしようはあるのだ。
私は風の刃が到達する前にその場を離脱すると、走りながら魔法を放つ。
――ファイアーボールッ!!
――ファイアーボールッ!!
木陰から次々と炎の球をくれてやる。
ゴーストは円を描くようにして進む私のスピードについてこられず、その場から魔法を撃ち返してくるのが精いっぱいだった。
もちろん、そんなものが私に当たるはずもない。
やがて下級とはいえ魔法攻撃を受け続けたゴーストは、ボロボロになっていく。
そろそろ頃合いか。
五発目のファイアーボールを当てたところで、私はあえて木陰からゴーストの前へと出た。
するとゴーストは、私に食いつくべく一心不乱にこちらへと向かってくる。
異様な絶叫を轟かせながら迫るその姿は、そこらの猛獣よりもよっぽど迫力があった。
でもね――食べるのは私の方なのよッ!!
実体化して、口を大きく開いたゴースト。
私もそれに負けじと口を開くと、ゴーストが食いついてくるよりも早く噛み付いた。
「ウオオオオオッ!!!!」
たちまち、ゴーストの口から耐えがたいほどの悲鳴が響く。
頭が割れそうなほどのそれに驚きつつも、さらに歯に力を籠める。
ここで一気に止めを刺さないと、逃げられて厄介だ。
それにこいつ……おいしいッ!!
相変わらず、高級なフルーツゼリーみたいで最高だわッ!
もっと、もっとこの食感を味合わせなさいッ!!
「スオオオ……!」
「逃すか、もっとッ!!」
最後のひと押し!
ゴーストの残っていた部分を、非実体化されないうちに一気に吸い上げた。
もともと薄っぺらかったゴーストが、さらに薄く小さくなる。
やがて実体かを解除せぬまま中身を吸い尽くされたゴーストは、しぼんだ風船のようになってしまった。
「ああ、美味しかったッ!」
『……容赦なさすぎなのですよ! 一滴残さず吸い尽くすなんて……』
「当たり前じゃない! ああいうのは、全部頂くべきなのよ! 残しておいたって、誰も得しないんだしさ」
『……さすがシース、徹底的な合理主義なのですー』
「それ、褒めてるの?」
『も、もちろんですよ!』
ずいぶんとまあ、焦った様子で答える精霊さん。
こいつ、私のことを一体何だと思っているんだか。
一本しかない大事な剣に宿っていなければ、今頃しばきた倒していたところだ。
ま、悪気はないようだし……。
ゾンビ解体の刑ぐらいで勘弁してやるとしよう。
「しかし、このやり方でも中級魔法はやっぱ必要ね。毎回これじゃ、魔力が持たないわよ」
『そうですね。暇がある時はしっかり修行するのです』
「りょーかい、よろしく頼むわ」
『そうと決まれば、さっそく呪文を唱えるのです! 出来るまでやりますよ! 勝利は努力の先に待っているのですーッ!!』
いきなり燃え始める精霊さん。
何だか、面倒な気配がしてきたわね……!
熱血過ぎる精霊さんのせいで、物理的な熱すら帯びる剣に、私はイヤーな汗をかくのだった――。
いよいよ二万ポイントが近づいてきて、ちょっと驚いている作者です。
最初の出だしが遅かったので、ここまで伸びるのは予想以上でした。
これも読者の方の応援のおかげです、これからもよろしくお願いします!
まずは年間を目指して、毎日更新続けます!




