第四十六話 少女よ、小石を抱け!
「それで、魔法の練習って何をすればいいの?」
どことなく自慢げな様子の精霊さんに、さっそく尋ねてみる。
ある程度は二階層から食料を持ってきているとはいえ、事は一刻を争うのだ。
ゴーストを倒せない場合、私の食生活はゾンビ肉一色になる。
それだけは、それだけは避けなければいけない!
私は二度の食事で悟ったのだ、ゾンビだけじゃやっぱり厳しいって。
人はゾンビだけで生きるにあらず、ゴーストも必要なのだッ!!
『そうですね、中級以上の魔法となると適性が重要なのです。シースは、自分がどの属性に適性があるのか知ってるのです?』
「……いいえ。そもそも、調べ方とか分からないし。私さ、人間だった頃は魔法をほとんど使えなかったからね。ぜんっぜんよ」
『なるほどー。魔法についてはシースって、子どもみたいなものなんですねー』
「言い方悪いわね! 実際そうだけどさ……」
使おうと必死ではあったけれど、いざ使えるようになったらってところまでは気が回らなかったからね。
魔法ギルドに行けば属性ぐらいすぐに調べてもらえたんだろうけど、思いもよらなかった。
『ではまず、適性から調べましょう。えーっとそうですね、とりあえず拳大ぐらいの石を探してくるのですー』
「石? そんなの何に使うのよ?」
『いいから、探すのですよ。弟子は師匠の言うことに素直に従うべきなのです!』
「いつから私はあんたの弟子になったのよ!!」
まったく、調子がいいんだから!
基本的には真面目なんだけど、変なところで緩いのよね。
ま、今だけは師匠ってことを認めてもいいか。
精霊って基本的に魔力のかたまりだから、魔法に関してはエキスパートみたいなもんだし。
落ちこぼれっぽいこいつでも、魔力さえあれば上級魔法ぐらいは使えるはずだ。
さてさて、どこかに石は……あった!
葉っぱの降り積もった地面から、ちょこんっと黒い石が顔をのぞかせている。
軽く掘り起こしてみれば、実にちょうどいいサイズだった。
手のひらを合わせると、すっぽり収まるぐらいの重量感である。
「これでいい?」
『はい、大丈夫ですー。ではその石を抱えて、しばらくジーッとしているのですよ』
「…………あんた、私をからかってない?」
『いえ、これが魔力の適性を探る時の正式なやり方なのですよー。生物の身体は魔力をほんの少しずつですが溢れさせているので、それに晒し続けることによって石に変化が現れるのです。その変化から、魔力の性質を読み解くのですよ』
へー、意外としっかりした理論だ。
もっと感覚的に来るかと思ったら、なかなかどうしていい感じじゃない。
こいつ、意外と物を教えるのが上手なのかな?
「それで、どれくらい抱えていればいいの?」
『しばらくですよー』
「しばらくって、具体的にはどれくらい?」
『えーっと……しばらくはしばらくなのです!』
……前言撤回、やっぱこいつ駄目!
知性派かと思ったら、典型的な感覚派の発言じゃない!
そういう天才肌の奴って、人に教えるとか苦手なのよね……。
前に聞いた、擬音語ばっかりの初心者講義を思い出す
元Aランクの人が講師をやってたんだけど、その人と来たら「敵を見つけたらとにかくズバーッとぶった切れ! 敵に切りつける時はバビュンッとやるのがコツだ!」とか言ってたのよね……。
バビュンッてなんだ、バビュンッて!
……あーでも、ここはこいつに従うしかないか。
私は石を手にすると、そのまま胡坐をかいて静止する。
こういうのって、東洋じゃ座禅って言うんだっけ?
心を無にするのが大切とか、どこかの偉そうな人が言ってたわね……。
大きく息を吸って、吐いて。
ゆっくりと精神を落ち着けていく。
『良い調子なのです。自然な感じで、魔力がちょっとずつ出てきたのですよ』
「静かに。今、いいところだから」
精霊さんに少し黙ってもらうと、さらに意識を心の底へと持っていく。
無の境地。
それを、ほんの一瞬だけだけど感じた気がした。
全身の感覚が冴えわたり、頬を撫でる風をしっかりと感じられる。
遠いところで、木の葉が地面に落ちる微かな音すら聞こえた。
……熱い。
不意に、手のひらの中に熱を感じた。
石だ、石が灼けているッ!
いつの間にか閉じてしまっていた瞳を開けば、手の上に置いた石が赤くなっていた。
炎に焼かれた木炭みたいな色をしている。
ど、どうしてこんな状態になるまで気づかなかった!?
あまりのことに動揺した私は、すぐさま石を放り投げてしまう。
『あ、そんなことしたらッ!!』
精霊さんの声が聞こえたけれど、もう遅い。
石は見事な放物線を描き、そのまま葉っぱの降り積もった地面へと落ちた。
たちまち炎が吹き上がり、みるみる大きくなる。
「あ、ありゃま……!」
『ありゃまじゃないのですー!? こんな大火事を起こすなんて!』
「しょ、しょうがないでしょ! 誰だって、あんなことになってたらビビるわよ! ま、まあこれで私が火の属性だってことは証明されたんだしさ! 良しとしようじゃない!」
『良くないのですよ! 環境破壊なのです!』
「そ、そう言われてもどうしようもないわよ!」
強引に言い切る私。
かなり激しく燃えちゃってるから、今更私の水魔法ぐらいじゃどうしようもない。
それに、ここはダンジョンの中だ。
外には燃え広がることはないし……こんな辛気臭い森の一つや二つ……燃えたってかまいやしないわよ!
どうせ、ゾンビたちが蠢いているくらいだし……ね?
燃えたって平気平気!
平気のはずよ!
「と、とにかく行きましょ! このままここにいるとさ、炎に巻き込まれそう!」
『そ、そうですね! 僕もその意見には賛成なのです!』
精霊さんも賛成してくれたので、すたこらさっさと逃げ始める私。
そうして森の入口に差し掛かったところで、思わぬ存在が現れる。
「貴様ら、ここで何をしている!」
「……げ、デュラハン!!」
不死族の中でもかなりの大物、首なし騎士の姿がそこにはあった――。
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