第四十四話 ゲテモノほど美味しいって言うけどさ
謎のきのこと一緒に、じっくりコトコト肉を煮込んでいく。
得体の知れないもの大集合って感じの割に、漂ってくる匂いは意外とまともだ。
……これ、案外いけるんじゃないかな?
煮汁の見た目も、出がらしの紅茶をさらに頑張らせてみたって感じでそんなにヤバそうじゃない。
浮かんでいる肉は、焦げのかたまりみたいに真っ黒で酷いもんだけどさ。
恐る恐る、スプーンで煮汁をすくってみる。
それをほんの一滴、猫が水を飲むようにして舌先で舐める。
すると、仄かにだが香しい風味が鼻を抜けた。
量が少なすぎて、味はあんまり感じられないけど……これはもしやおいしいのかッ!?
あんな得体の知れない材料から、まともなスープが出来たって言うの!?
自分で自分の才能に驚きながらも、さらにもう一口。
うん、おいしいッ!!
薄いけど、コンソメスープみたいな味わいになってる!!
「旨い! さすが私だわ! 不死族になっても衰えぬ圧倒的な女子力が、料理をおいしくしたのよッ!!」
『そ、そんな都合のいいことあるんです……?』
「ふ、女子力に不可能はないッ!!」
『そうでしょうか? そもそもシースって、女子力というよりはオバサン力を感じるのですよ……?』
「誰がおばさんよ! 私は花も恥じらう十六歳よッ!!」
ああ、もう腹が立つッ!!
剣を引き抜くと、強烈なデコピンを繰り出す。
ジーンッと空気がしびれるような音がした。
これが結構効いたのか、すぐに「痛いですーっ!」と念が返ってくる。
まったく!
乙女におばさんと言ったんだから、これぐらいでいい気味よッ!!
……さてと、気を取り直して。
本題のお肉を…………頂くとしましょうか。
さっきの失敗もあるからね。
ほんのちょびっと。
爪の先ぐらいの量をかじる。
すると――
「何とか食べられ――ダメ、まっずッ!! 後から来るわこれ!」
『大丈夫ですか!?』
「ええ。で、でも……噛めば噛むほど不味いのが……」
最初のうちは、肉に染みた煮汁が出て来てマシだった。
でもすぐに、煮汁の奥から腐った肉本来の味がしみ出してきてしまってもういけない。
最初に比べれば劇的に改善されてるけど、まだ人間の食べ物じゃないわね……。
ゴブリンがその辺に落ちていた適当な材料で作った、って感じの粗悪さだ。
やっぱり、このお肉を食べようってこと自体に無理があるのかな。
でも、肉を食べないとちっともパワーアップできないのよね……。
魔石を回収して吸収するにしても、魔石自体が結構なレアアイテムだし。
Cランクぐらいの相手だと、なかなか出てはくれないのだ。
かといってBランクを相手にするとなると、こちらもいろいろと準備が居るから効率が悪い。
はあ、どうしたもんかなあ……。
『こうなったら、雑草やきのこでも食べて凌ぐのですよ。生きるだけなら、雑草の魔力でも十分なのです』
「そんなの駄目よ! 私はね、早く進化してこの迷宮を出なきゃいけないの! 今頃ステーキでも食べてそうな貴族女をね、すぐにでもドカーンッとぶん殴ってやらなきゃ気が済まないのよッ!!」
『は、はあ……。わかったのですよー』
「とりあえず、次はもうちょっとデッカイ獲物を倒しましょ。肉がいっぱいあれば、いろいろとした処理の方法とかも試せるわ。それに、上手い具合に熟成してる部位とかもあるかもしれないし」
『了解なのですよー! ……むむむッ!!』
急に唸り始める精霊さん。
何か、危険が迫っているのか?
私もすぐさま周囲を見渡すけれど、特に何も見当たらない。
「どうかしたの?」
『ゴーストです! シースを狙って、いつの間にかゴーストが集まっているのですよッ!』
「ゴースト? でもそんなの、全然見えない……」
『エコーを撃つのです! そうすれば、魔力の反響で存在を感知できるはずですよ!』
「わかったわ!」
手のひらから魔力を放つ。
するとたちまち、何もないはずの場所から次々と反響があった。
視界の端に、数字がずらっと並んでいく。
102、122、98、142……。
一番強い奴でも、百五十未満ってとこか。
ちょっと前の私ならヤバいけど、今の私なら十分に何とかなる数字か。
『油断しちゃいけないのです! ゴーストたちには、物理攻撃が一切効かないのですよ!』
「それぐらい、知ってますっての!」
――サンダーボルトッ!!
指先から、お久しぶりの攻撃魔法を放つ。
ふ、これでどうよ!
物理攻撃が効かない代わりに、魔法攻撃には弱いって知ってるんだからね!
……って、あれ?
意外と効いてる気配が……ない!?
姿は見えないけれど、エコーを放てばすぐさま先ほどと同じ数の反響が返ってくる。
「ちょっと、魔法まで効かないわよ!?」
『単純に威力不足なのですよ! 初級魔法じゃ、このゴーストたちは仕留めきれないのです!』
「威力不足って、ちッ!!』
『まずい、実体化なのです!!』
精霊さんが叫んだ途端、視界が真っ白になった。
今まで透明だったゴーストたちが、一斉に実体化したのだ。
ちょ、ちょっと!
あっち行きなさいッ!!
いきなりのことに慌てて振り払おうとするけれど、ゴーストにそんなの通用するはずがない。
あっという間に、身体にまとわりつかれてしまう。
「モガ……ッ! い、息……ッ!!」
『シースッ!!』
「こう……なったら……ッ!!」
口をふさいでいる、白くて半透明なゴーストの腕。
私はそれにかぶりつくと、無理やりに吸い込んでみた。
ゴーストの肉体というのは、基本的には魔力で出来ている。
魔石を吸収できるこの身体なら、もしかしてゴーストだって食べられるかもしれない。
これはもう、一種の賭けだ。
「…………あれ?」
しばらくして。
ゴーストの腕を飲み干した私は、きょとんとした顔をした。
吸収できたのはもちろんだけど、意外とゴーストの身体って……!
「おいしーーいッ!!」
今日一日で、一番大きな声が出た――。
食べ物にめどがついたところで、そろそろ悪役令嬢関連の閑話を入れようかどうか悩んでいる作者です。
あった方が話に広がりが出てくるのではないかと思うのですが、いわゆる○○サイドの評判が良くないのも事実。
どうしたものかといろいろ思案しております。
もし、これについて意見などありましたら感想欄まで頂けるとありがたいです。
他にも感想・評価など頂けると、作者のやる気が出ます。




