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最弱骨少女は進化したい! ――強くなれるならゾンビでもかじる!――  作者: kimimaro
序章 大ダンジョンのスケルトン
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第三話 ネズミVS骨

 王国と帝国の国境沿いに広がる、峻険な山岳地帯。

 広大な面積を誇るそこは、大陸で最も探索の進んでいない秘境の地である。

 自然環境が過酷過ぎるせいもあるが、デリケートな場所ゆえに、両国の建国以来ずーっと大規模な調査が行われてこなかったのだ。

 おかげさまで、今なお未発見のダンジョンが大量に残されている冒険者にとっては美味しい場所なのだけど――。


「…………ッ!」


 首が痛くなるぐらいまで上を見て、ようやく天井の端が見えた。

 さらに奥行きも広く、途中から闇に紛れてしまってどこからが壁なのかがさっぱりわからない。

 かつて潜っていた街のダンジョンなどよりも、よっぽど広かった。

 もしかしたら、かの有名な世界一のダンジョン『ウィスク大迷宮』よりも広いかもしれない。

 こんなとんでもないものが眠っているなんて、まさに世紀の大発見だ。

 もし街に帰ることが出来たら、このダンジョンの情報だけでも一財産に化けるだろう。

 ……ま、スケルトンの身体じゃ情報なんて売れないけどね。

 だいたい骨じゃ、お金なんて貰っても使えないし。


 しっかし、こうなってくると逆に厄介な問題がある。

 ダンジョンに住むモンスターの強さは、ダンジョンの規模に比例するのだ。

 つまり、さっきのゴブリンなんかよりもはるかに強いモンスターどもが、このダンジョンにはうじゃうじゃしているってこと。

 最弱な今の私には、恐ろしいことこの上ない。

 いっそ外に出てしまえばいいのかもしれないんだけど、困ったことに無我夢中で走ったから道順なんて覚えてない。

 必死だったとはいえ、我ながら迂闊すぎる。


 ……ひとまず、どこか安全な場所を確保しなければ。

 後のことを落ち着いて考えることだってできやしない。

 第一、この身体でも睡眠は必要かもしれないしね。

 スケルトンが寝ていたなんて話は聞いたことがないけれど、まあ念のため。

 

 けど、どうやってそんな場所を捜そう?

 細い通路にはゴブリンが住み着いているようだし、この広い空間だって何が居るかわかりゃしない。

 こんな何もなくてだだっ広い場所じゃ、目立ちすぎて襲ってくれと言っているようなもんだし。

 スケルトンの真っ白な骨格は、深い闇の底ではなかなかに目立つのだ。

 いっそ、身体を黒く染めて迷彩にでもしてみようか?

 や、そんなことしたってすぐ色落ちするだろう。

 だいたい、こんな場所じゃ染料だって用意できない。

 

 そうだ、さっきと逆の手順をやればいいじゃない!

 魔物は魔力の多い場所を本能で探し当てて住み着く。

 だったら逆に、魔力の少ない場所を魔物は本能で避けるはずだ。

 よし、早速出来るだけ魔力の少ない場所を捜してみよう。

 まずは意識を集中させて、魔力の流れを探り――。


「……スー、スー!」


 しばらくして、私は息を荒くしながら座り込んだ。

 魔力の流れを感じるって、こんなに大変なことだったのね……!

 人間の時から、魔力を扱うのはそんなに得意じゃなかったけどさ。

 まさかこれほどとは思わなかった、繊細過ぎてさっぱりつかめやしない。

 頬っぺたの感覚だけで、綿毛が飛ぶか飛ばないかぐらいの風を正確に捉えようとしているぐらいの気分だ。


 しかも、スケルトンの私が疲れているということは、魔力を消費したということ。

 今は仕方がないとはいえ、多用してたらあっという間に魔力がそこを尽きてしまう。

 魔力の使い過ぎは、すなわち魔力を失って骨に戻ることを意味する

 こんな場所で文字通り骨を埋めるなんて……絶対に嫌だ。

 私は地上に戻って最低でもあいつらをぶん殴るまで、倒れないって決めてるんだから!

 こうなったら、何でもいいから適当に食べて魔力を補充しておくべきかもしれないわ。


 そうと決まったら、何を食べよう?

 スケルトン本来の食事はまだ分からないけど、この際、食べられそうなものなら何でもいいや。

 要は、お腹の中で魔力になってくれればいいのだから。

 幸いなことにこのダンジョンの中は魔力豊富だから、たぶん生き物なら何でも魔力になってくれることだろう。

 出来るだけ、食べ物っぽいものを食べたいのが本音だけどね。

 ゴブリンとか、仮に食べられるとしてもあんまり……というか、どう見ても不味そうだし。


 とはいえ、贅沢は言っていられない。

 魔力を消費してしまった以上は、いつまでもうだうだと言っていられないのだ。

 眼を皿のようにしながら、広々とした地下空間を探索する。

 すると、居た。

 地面をちょろちょろと、ネズミが走っている!

 魔物ではない普通のネズミだ。

 きっと、どこからか迷い込んできたのだろう。

 その後を少し追いかけていくと、岩の隙間に出来た巣穴を見つけることが出来た。


「……カカッ!」


 少しばかり、ご機嫌な声が漏れる。

 あとはここに手を突っ込んでやれば、ネズミの親子がどっさりだ。

 地面に横たわるような姿勢を取ると、肩まで手を突っ込む。

 たちまち指先がネズミの皮に触れ、呆気ないほど簡単に捕まえられた。


「……スースー」


 …………さてと。

 掌にネズミが一匹。

 こいつをいかにして、食べるべきだろう?

 火も起こせないし、刃物もないから……そのまま丸飲みかな?

 でも、女の子的にちょっとね。

 口の中で血がぶしゃって炸裂したら、普通なら軽く死ねるわ。

 スケルトンだから、雑菌だらけでもお腹壊したりはしないけどさ。

 それでもやっぱり……。


 ネズミを手にしたまま、悩み続ける私。

 優柔不断とか、うだうだしないと決めただろとかは言わないでほしい。

 いざ、ネズミを食うなんてことになったらさ……みんな悩むと思うんだよね?

 特に女の子は。

 むしろ、悩まないなんて人が居たらそれは原始人だ。

 文明的でかつ乙女なスケルトンとしては、ここは断固として悩みどころである。

 だがそうこうしているうちに――そいつは現れた。


「――カカカカッ!!」


 暗がりから、恐ろしく巨大なトカゲが現れた。

 私なんかよりもよっぽど大きく、小さめの馬車ぐらいのサイズ感である。

 色が鮮やかな緑でなければ、きっとサラマンダーか何かと見間違えたことだろう。

 それぐらい立派な体躯をしていた。

 種類は分からないが、間違いなく今の私よりは強い魔物だろう。

 軋む骨が、勝てないと言ってる。


 そいつはギョロリとした深海魚のような眼で周囲を見渡すと、さっき私が見つけたネズミの巣穴に、いきなりビョンッと長い舌を突っ込む。

 そして、中に居たネズミたちを根こそぎ舌で捕まえてしまった。

 やつは震える私を興味ないとばかりに無視すると、戦利品を掲げてそのままのっしのっしと闇に消えていく。

 ……やれやれ、この身体が骨で良かった。

 もし肉があったら、今頃は喰われていたに違いない。

 自分に肉がないことに、今だけは感謝しなきゃね。


 こうしてほっと一息ついたところで、重要なことに気づいた。

 恐怖のあまり、手にしていたネズミをいつの間にか離してしまっていたのだ!

 私のご飯が、ご飯が!!

 あれが無きゃ飢え死にする!

 慌てる私の耳に、チュウッとからかうような鳴き声が聞こえた。

 声のした方を見やれば、見事に逃げ出したネズミがこちらを振り向いていた。

 ……その一見して愛らしい眼に、どこかこちらを馬鹿にしたようなものを感じるのは私だけだろうか?


 ――あのクソネズミめ、絶対にまた捕まえてやる!


 こうして私は、ネズミを追いかけて走り出したのだった――。


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