第三十八話 ドラゴンの巣を目指そう!
うっわー、たっかいわねッ!!
そそり立つ岩壁の高さに、思わず変な声が出た。
一階層の大空洞も大した天井の高さだったけど、第二階層はその比じゃない。
上の方は完全に霞んでしまっていて、夜の状態でははっきり見えないぐらいだ。
もしこの壁が地上に聳えてるなら、頂上のあたりは確実に雪を被ってるわね。
空気の薄さも心配になりそう。
『この岩壁のどこかに、あのドラゴンの巣があるの?』
『そうなのですよー。でも、どうしてこんなところに? ドラゴンさんに見つかったら、食べられちゃうのですーッ!』
『そうは言ってもさ。あんたが一番行かなさそうな場所がドラゴンの巣でしょ? だったら、ドラゴンの巣に下層への道があるって考えるのが自然じゃない?』
『これでも、一応はドラゴンの巣も見たのですよー! でも、そんなのなかったのです!』
よっぽど怖い思いをしたのか、剣を揺らして必死に抵抗する精霊さん。
でも、サラッと見たぐらいじゃ見落としがありそうなのよね。
隠し扉とか、そういうのだってあるかもしれない。
この迷宮を造った存在は、相当に意地が悪そうだしね。
『それで、この壁のどこにドラゴンが居るの? 壁のどこかってだけじゃ、流石に分かんないわよ!』
『僕の話を聞いていないのですか!? 嫌なのです、言わないのですーッ!』
『それじゃ始まらないでしょ! あんまりわがまま言ってるとね、お肉解体の刑よ!』
『ぐぐ……! で、でも言わないのですー! 僕の意志はとーっても堅いのです!』
ええい、しぶといわね!
普段はほわわーんってしてるくせに、こういうとこだけ頑固なんだから!
こうなったら、私の心がちょっと傷つくけど……!
剣を鞘から引き抜くと、胸板に押し付けてズリズリと擦る。
『とりゃッ! 胸板攻撃ッ!!』
『ぎゃあッ! やめるのですよー!! 視覚的暴力と物理的暴力の合わせ技なのです、凶悪過ぎるのですッ!!』
『だったら、ドラゴンの居場所を言いなさいッ!』
『わかったのです、降参なのです! ドラゴンはここから壁沿いにずーっと北方に行った、壁際の山のてっぺんに居るのです!』
『山? こんなところに?』
『はい、壁の一部が崩れて高い山になってるのですよ。ドラゴンはその頂上に住み着いているのです!』
ふーん、そういうことね。
やっぱりドラゴンって、山のてっぺんに住んでるんだ。
ドラゴンとバカは高いところが好きっていうけど、ホントかもしれない。
『よし、北の山にしゅっぱーっつ!!』
『ぐぐぐ……穢されちゃったのです……。あまりに残虐な刑罰なのです……』
『あんたねえ、もう少し柔らかく言うってことを覚えなさいよ……。言っとくけど! この私の胸を堪能するなんて、ホントは金貨貰っても足りないぐらいなんだからね!』
『そんなの、こっちが大金貨を貰っても嫌なのですよ……』
『カーッ! いつか絶対に見返してやるんだからね! 人間に戻った私の姿に、腰を抜かしなさいッ!!』
まったく、失礼しちゃうんだから!
えーっと、北は……こっちか!
私は剣を鞘に納めると、意気揚々と壁に沿って歩き始める。
しっかしこの迷宮、本当に大した広さだ。
小さな国ぐらいなら、中にすっぽり入っちゃうぐらいだもんね。
『ねえ、精霊さん』
『なんです?』
『精霊さんって、このダンジョンに千年ぐらいいるらしいけどさ。このダンジョンを誰が造ったのかとかは知らないの?』
『そこらへんのことは、まったくなのですよー。僕も、気が付いたらこの中に居たので。どこにあるのかすら、分からないのです』
『…………ちょっと待って。その言い方だと、精霊さんってもしかして外から来たの?』
私が尋ねると、精霊さんは「何を当たり前のことを」って感じで念を返して来た。
考えてみれば、そうか。
精霊さんは清浄な魔力から生まれる存在だ。
いくら魔力たっぷりとはいえ、まがまがしいダンジョンの中で発生するはずがない。
どこかからここに迷い込んで……あれ?
『ちょっと待って。外から来たならさ、どうしてこんな奥に居るの? あの長くて暗ーい通路を、延々と抜けて来たわけ?』
『通路? 僕の場合、森で寝ていたらいつの間にかこの階層に居たのです。たぶんですけど、魔法で連れてこられたのですよ』
『魔法でねえ。考えてみれば、モンスターは魔力で自然発生するにしても森はそういうわけにも行かないわ。もしかしてこの森、一から育てたんじゃなくてぜーんぶどっかから持ってきたってこと……?』
転移魔法陣とかを使えば、理論上は出来なくもない。
でもそんなことしようとしたら、それはもうとんでもない魔力が居るはずだ。
うーん、このダンジョンを造ったのはやっぱり魔王なのか?
となると、伝説に残されている「宝を隠した迷宮」ってのがここなんだろうか。
でも、それにしたっていくら何でも大規模過ぎる気がする。
お宝を隠すだけなら、地下深くに金庫でも埋めとけば十分だし。
こんなデカくて大掛かりなもの、造る必要がない。
『分からないわねえ。何の目的があってこんな場所を……。精霊さん、どう思う?』
『うーん……。ここの作成者が魔族だってのは、雰囲気で分かるのです。魔族の考えなんて、僕らには分からないのですよ』
『そうね。なんてったって、魔族だからね』
魔族って、本能レベルで「世界を破滅させなきゃ!」って思ってる連中らしいからなあ。
人間にも悪い奴はいるけど、完全に次元が違う。
そんな奴らが何を考えてダンジョンを造ったのかなんて、やっぱ考えても無駄かも。
『あ、見えて来た! あれがドラゴンの住んでる山?』
『ですよー! あのてっぺん、ちょっと凹んでるところに巣があります!』
岩壁のすぐそばに聳える、巨大な山。
綺麗な円錐形をしたその裾野に向かって、私は勢いよく走りだした。
けれどここで――
『ド、ドラゴンッ!?』
『逃げるのですよーッ!!!!』
突如として現れた赤い影に、大慌てて身を隠すのだった――。
気が付いたら1万5千ポイントを超えておりました!
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