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最弱骨少女は進化したい! ――強くなれるならゾンビでもかじる!――  作者: kimimaro
第三章 はるか下を目指して!
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第三十七話 え、知らないの!?

『まったく、気づいたならさっさと言いなさいよ!』


 そういうと、葉っぱを纏った私は精霊さんの宿った剣をぶんぶん振り回した。

 突然血に飢えて剣を振り回したくなったとか、そういう危ない理由ではない。

 精霊さんが、とーっても大事なことを言わなかったからである。

 まったく、こいつときたらスケベなんだからッ!!


『だって、今までは全然気にしてなかったのですよー!』

『うるさい! お肉が付いたんだから、素っ裸なことを気にするのは当たり前でしょ!』

『でも、ついたといっても……。そんなしわしわでからからな裸、誰も興味ないのですよー』

『カーッ!! そういう問題じゃないわよッ!! この馬鹿精霊ッ!!』


 怒り心頭に発した私は、そのまま剣を鞘に納めた。

 まったく、ノートを書くときにたまたま「そういえば、装備をつけてない!」って気づかなかったら今頃どうなっていたことか。

 ずーっと裸のままで生活を続けていたかもしれない。

 骨だけならともかく、一応は肉のついた身体でそれはちょっとね。

 女の子として、沽券にかかわる問題なのだ。

 興奮のあまり気づかなかった私も悪いけど、気づいて黙っていたらしい精霊さんはもっと悪い!

 両性具有っぽい感じの癖に、女心って奴をぜんっぜん理解してないんだから!


 そうだ!

 毛皮も手に入ったことだし、下層を目指して出発する前に葉っぱじゃないちゃんとした服を作ろう。

 お裁縫ってほとんどやったことないけど、マントぐらいならどうにかなるかな?

 ラーゼンの毛皮なら、防御力だってそれなりにありそうだ。

 なんといってもフェンリル種、素材としては一級品だろう。


 そうと決まれば、さっそく死体の剥ぎ取りをしないとね。

 もったいないからって、ぜーんぶ運んで来ておいてよかったーッ!

 一部だけじゃ、マントなのに七分丈になっちゃうからね!


 ナイフを手にすると、すぐさま家の外に保管してあったラーゼンの死体の元へ行く。

 魔力をたっぷりと秘めた死体は、まだまだほとんど腐る気配がなかった。

 透明感の強く残る瞳や鈍く光る牙など、今にも噛みついてきそうである。

 それに戦々恐々としつつも、ナイフで肉を引き剥がしていく。

 で、ある程度毛皮を切り取ったら湖でザブザブ。

 血や肉の残りかすをできるだけ綺麗に洗い流していく。


 スーハ―スーハ―……!

 よし、あんまり臭わなくなった!

 あとは風の当たるところでしっかり乾かせばひとまず大丈夫ね。

 ホントはお日様で乾かすと良いんだけど、まだまだ夜は明けなさそう。

 とりあえずは、焚火でもして熱風を送ってやればいいかな?


 ふと、後方に転がるお肉の山へと目をやる。

 どうせなら、焚火をするついでに焼肉でもしようかしらね!

 これだけあったら、今の食いしん坊な私の身体でも大満足だ。

 フェンリル種のお肉、いったいどんな味がするんだろう?

 ふふふ、ちょっと楽しみになってきた!


 しかし、これだけのお肉を焼くなら薪もいっぱい必要だ。

 この際だし、おうちの一部を取り壊して薪にしてしまおうか?

 下手に立派な拠点があると、この場所にずーっと居座っちゃいそうだしね。

 居心地のいい家は、旅立ちには邪魔になる。

 いざとなれば勇者さんの部屋もあるし、せっかくだからパアッとやっちゃうか!


 決意を固めた私は、すぐさま家の解体作業へと取り掛かる。

 するとここで、腰に差した剣がブルルッと震えた。

 精霊さんが、何か伝えたいことがあるらしい。

 結構な勢いだ。


『なに? 私、今ちょっと忙しいの』

『なにじゃないのですー! シースさんこそ、どうしておうちを壊しているのですか!?』

『え? だって、これから旅立つからね。こんなおうちがあったら、せっかく下を目指して出て行ってもすぐにまた戻って来たくなっちゃうじゃない。私、追い詰められないとダメなタイプだから』

『でもだからって、壊すことはないのですよ! 下に旅立つと言っても、そう簡単に下層へ行けるわけではないのですー』

『……精霊さん、もしかして下層への道知らないの?』

 

 勇者が下層へと向かった時、どこに道があるのか見たんじゃないの?

 私がすぐさま疑問の念を送ると、精霊さんは何やらしょんぼりとした雰囲気になった。

 そして、重苦しい感じで返事をする。


『……はい。フェイルが旅立った時、僕は彼女の後を追おうとしたんですけどすぐに振り切られちゃったのですよ。だから、フェイルがどこから下層に行ったのかは知らないのです』

『でも精霊さんって、この階層にかれこれ千年ぐらい住んでるんでしょ? それならさ、それっぽい通路とかぐらいなら見たことあるんじゃない?』

『それが……上へ行く通路なら知ってるのですけど、下に行く通路は見たことがないのですよー。フェイルの後を追いたくて、これでも昔はいろいろと捜したのです。でも、今までずっと……』


 言葉を詰まらせる精霊さん。

 …………なんてことよ!

 これはつまり、この階層から下へ行くための通路は精霊さんが千年かけても見つからないってこと!?

 そんなの、私がちょっとばかり捜索したところで見つけられるはずないじゃない!!

 ああ、頭痛くなってきた!

 張り切って家をちょっと壊しちゃったけど、これじゃ出ていけない!

 精霊さんが道を知っているとばかり思ってたのに、お先真っ暗じゃないのよッ!

 あまりのことに、意識がちょっと遠くなってきた。

 こんなところで私死んじゃうのか……絶対に嫌ァッ!!

 

 ……でも待って、勇者は確かに下へ行っているのよね?

 それなら、この階層のどこかに下へと続く通路の入口が確実にあるはずだ。

 精霊さんが千年かけても行かなさそうな場所……。

 例えばそう、危険すぎて近づけないとか。

 そういうところに、入り口はあるに違いない!


『精霊さん、千年のうちに行ってない場所ってある? どんな危険な場所でもいいわ』

『え? そんなのないのですよー。あったら、もったいぶらずに言っているのです!』

『ホントにないの? どんなところでもいいの!』

『ないったらないのです! ドラゴンさんの縄張りにだって、ちゃーんと行ったのですよ!』

『でもそれじゃ、勇者だって下には行けないわ。必ずどこかに通路はあるはずなのよ、どこかに!』


 私がそういうと、精霊さんは半ば意固地になったように「ないのです!」と返して来た。

 うーん、となると本当に場所は限られてくるわね……。

 もしかして、精霊さんにはまず行けなさそうな湖の底とかか?

 でもそれじゃ、一応は人間である勇者にも入ることができないだろう。

 この湖、相当な深さがありそうだし。


『うーん……まあいいわ、とりあえずお肉でも食べて後で考えましょ。腹が空いては思考は出来ぬってね!』

『……分かったのですー! ひとまずは、ラーゼンに勝利したことを祝うのですよー!』


 こうして私と精霊さんは、先のことはそこそこに二人だけの宴を始めた。

 将来への不安はあるけど、それより今はお肉の味よね!

 うーん、ちょっと硬いけど味がしっかりしていておいしいわ!

 こんなのがたっぷり食べられるなんて、ラーゼン倒してよかったーッ!!

 舌の上で弾ける肉汁が、ホントにたまらない!

 いくらでも食べられちゃう!


 ……ま、後のことはそのうち何とかなるわよ。

 私は自分で自分にそう言い聞かせると、とりあえずお肉を頬張るのだった。

 この骨ばった体を、少しでも何とかするために――!


果たして、下層への道はいったいどこにあるのか?

次回以降にご期待ください!

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