第三十六話 進化した私の力ッ!
おにく、おにく、おっにくーッ!!
まだまだ骨と皮だけだけど、私の身体にお肉がついた!
やっぱり、私の進もうとしている道は間違っていなかったらしい。
わずか二カ月足らずでここまで回復するなんて、結構凄いんじゃないだろうか?
この調子なら、ギルドカードが失効する前に戻れるかもッ!!
『どう、進化した私のボディは?』
『そうですね、しわしわなのです』
『…………他には?』
『ガリガリですね。あとさっきから妙に胸を寄せてますけど、無駄な抵抗なのですよー。そんな干からびた胸を寄せたところで、何も生まれやしないのですー。逆に見苦しいのですよー!』
『もう! 人が気にしてるところを、そんなずけずけ指摘しなくてもいいわよッ! ちょっとぐらい見栄張ったっていいでしょうが!』
『そんな身体で見栄張っても、仕方ないと思うのですよ……』
ぐぐぐ……!
この生意気な精霊め……!
いつか絶対に、大事な剣から追い出してやるんだから!
今に見てなさいよ!
あー、でも確かにこいつの言うとおりかもしれないわね。
剣の表面を鏡代わりに見やれば、たちまち完全に干からびた私の姿が目に飛び込む。
うーん、人間の年寄りに見えなくもないけど……ちょっと無理があるかな?
骨が浮き出し過ぎていて、いくら何でもちょっとガリガリすぎるか。
「シース・アルバラン、十六歳!」ならぬ「シース・アルバラン、百六十歳!」って感じがする。
老化の限界を、見た感じ少し超えちゃってるわね。
『とりあえず、家に戻りましょ。魔物大百科で私の種族を調べないと』
『了解ですー』
『よーし。じゃあ、この身体の試運転も兼ねて……全速力で行ってみますか!』
ダンッと地面を蹴り、岩場から宙へと飛び出す。
ヒャッフーッ!!
風が気持ちいわッ!!
そのまま岩から岩へと飛び回ると、今度は木の枝へと乗り移った。
そのままビュンビュンッと、枝から枝へ駆け抜けていく。
うーん、最高ッ!!
骨だった時も身軽だったけど、この身体もなかなかのもんだわ!
パワーも出るし、あとは見た目さえ良ければいうことなしね!
瑞々しいお肌、ボンキュッボンッのパーフェクトなボディを早く取り戻したいもんだわ。
こうして走ること十数分、あっという間に湖が見えて来た。
あまりの速さに、自分でもちょっとびっくりする。
やっぱり、種族の差って半端なもんじゃないわ。
『ただいまーっと』
『おお、なかなか立派なおうちなのですー』
『でしょ? ま、もうそろそろ燃やしちゃうんだけどね』
『え?』
精霊さんの驚きをよそに、私は部屋に端に置いてある布袋を漁った。
お、あったあった!
大百科先生を見つけると、すぐさまページを繰っていく。
えーっと、今の私の特徴に合致する魔物はっと……あった!
『死蝕鬼
脅威度:Bランク
肉体を保つだけの力を得た、不死族のモンスター。
長い年月を経た不死族が至る上位種の一つで、わずかながらも血肉があるのが特徴。
俊敏性に優れ、軽い肉体を活かした動きは非常に厄介である。
また、肉体を有しているためスケルトン種よりも遥かに腕力に優れている。
枯れ木のような見た目に油断して、力比べを挑むようなことを決してしてはいけない。
真偽は不明だが、放置していると吸血鬼などへ進化すると言われているため、素早い討伐が必要とされる』
やった、Bランク!!
さすがにAには至れなかったけど、やった!
BとCの壁って結構高いから、一回で超えられるかちょっと不安だったのよね。
進化するって言われてるらしいし、これはいよいよ吸血鬼とかになれる可能性が高くなってきたかな?
万歳、万歳、万歳ッ!!
吸血鬼は見た目は完全に人間だし、そこまで行けたらあとはこっちのもんよ!
今に見ていなさい、ルミーネ!
あんたの血を吸い尽くして、しわっしわにしてやるわッ!
今の私みたいにしてやるッ!!
『うーん、これはちょっと違うような……』
『どうしたの、精霊さん?』
『シースさんは自分のことを死蝕鬼だって考えてるみたいですけど、僕は違うと思うのですよー。だって、死蝕鬼は不浄な存在なのです。でもシースさんからは、むしろ聖なる気配がするのですよー』
『え? そりゃまあ、私の心が清らかだからじゃない? 体は死蝕鬼でも、心は聖女なんだから!』
ふふんッと自慢げに胸を張る私。
精霊さんから何やら疑問の籠った念が送られてくるが、そんなこと言われてもね。
死蝕鬼以外に今の私の状態とぴったり合う種族なんてないし。
穢れに満ちているとかよりはずーっとマシなんだから、ま、気にしないに限るわ。
細かいこと言いだしたら、生前の意識を保っている時点でおかしいんだし。
もしこれが当たり前なら、今頃、私にはスケルトンのお友達が出来てるわよ。
『まあまあ、それよりもさ。約束の加護をちょーだい。ちゃんと進化したんだから!』
『そういえばそうでしたね。ではでは……』
剣を高く掲げる。
するとたちまち、そこからまばゆい光が降り注いだ。
金色の粒となった光は、私の身体を覆い尽くしていく。
枯れ木のような肢体が、にわかに淡い光を纏う。
その様子はさながら、天使の衣か何かのようであった。
『綺麗……ッ!』
『ふう、疲れました。これで完了なのですよー』
『ありがと! これで、私も例のエコーって奴が使えるようになったの?』
『はい! 手のひらから魔力を放出して、エコーって言えばいいですよ』
『じゃあ早速、自分の能力を調べてみようかしら!! エコーッ!』
胸に手を当ててそう言った瞬間、ポーンッと体の中を何かが抜けていった。
魔力の感触……かな?
その直後、視界の端にみるみる数字が浮かび上がってくる。
これが、エコーの能力か!
察するに、相手の身体に魔力をぶつけて、その反発で大体の魔力量をはじき出しているってところかしらね。
『えーっと、数字は……754ッ!!!!』
結構強かったヴァーミリオンから、ご、五倍近くまで強くなってるッ!!
私の驚きの声が、小屋全体に響き渡ったのだった――。
スタート時から比較すると、約七十五倍!!
ドラゴンボールもびっくりのインフレ率です。
これからも成長していくシースを、ぜひぜひ応援してやってください!
感想・評価などありますと嬉しいです。




