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最弱骨少女は進化したい! ――強くなれるならゾンビでもかじる!――  作者: kimimaro
第三章 はるか下を目指して!
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第三十五話 ついに、ついに!

 ……ふわァ、すっかり寝ちゃってたわね!

 どうやら襲われなかったみたいだけど、あいつらまだ喧嘩してるのかしら?

 狼の戦闘本能って、私が思ってるよりも……って!

 なにこれ、どうして狼の死体が私のすぐ隣に転がってるのよ!

 ラーゼンは分かるけど、他のちっこい奴も十頭近く倒れてるじゃない!

 誰が倒したのよ、これ……ッ!


『あ、目が覚めましたかー?』


 動揺していると、すぐに精霊さんから念話が飛んできた。

 もしかしなくても……この惨状は精霊さんの仕業よね。

 いくら錯乱状態にあっただろうとはいえ、狼をこれだけ倒せるなんて。

 小さいし弱そうだけど、ホントはかなりヤバい奴なのか?

 考えてみれば、今までずーっと一人で生き延びて来てるわけだし……。


『……あんた、よくこれだけ倒せたわね。すっごい弱ってる感じだったのに』

『ああ、それはですねー。シースさんの持っていた魔石から、魔力を貰ったのですよー』

『それって、ラーゼンの息子の奴?』

『ですよー。ほら、これですー』


 そういうと、岩陰から紅の魔石が飛んできた。

 ……あれ?

 何だか、明らかに小さくなってない?

 ちっこいビー玉くらいのサイズになっちゃってるんだけど……!


『ちょっと! 私の魔石をどんだけ使ったのよ! 半端なく小さくなってるじゃない!』

『し、仕方ないのですよー。僕だって結構消耗しちゃってましたし、狼さんたちを倒すのにも魔法を使いましたし!』

『だからってね、人の持ち物を許可なく使い潰すってどういうことよ! せーっかく進化できるって思ったのにッ!』


 思いっきりジタバタする私。

 精霊さんの事情は分かるわよ?

 動けなくなった私を守るために、身体を回復させて魔法を使う必要があったとかさ。

 分かるけど、けどッ!!

 ここでその魔石を使われちゃったら、この後どーするのよッ!!

 身体はボロボロだし、進化できなかったら生き残れないっていうのにッ!!

 このひどい状態で狩りとか、下手すりゃウサギにも負けるわよ……!


『ああ、もう! やだやだやだ! どうしてこういうことになるのかなァ!! 美しすぎるから、運には恵まれないってことなの……ッ!!』

『そ、そんなにジタバタしなくても大丈夫なのですよー! 進化したいのなら、ラーゼンの魔石を使えばいいのです。それで、たぶん足りるはずですよー』

『……あ! そういえばそうだったわね!』


 ポンッと手を叩く。

 すっかり忘れていたけれど、ラーゼンにも魔石はあるはずだ。

 そうと決まれば、とっとと死体を解体して……!


『あ、剣を使うのですか!?』

『そうよ? 今はナイフ持ってないし』

『肉の感触とか、ちょっと気持ち悪いので出来れば遠慮してもらえると助かるのですー』

『だったら、剣から出ればいいじゃない!』

『それが……ですね。どうにも、出られなくなっちゃったみたいなのですよー』


 ……何ですって?


『ど、どういうことよそれ! その剣、一本しかない私の大事な大事な剣なのよ! 出られないってどういうことよ!』

『どうやら、魔法剣を撃った時に剣と一体化しちゃったみたいなのですー。時間を掛ければ出られると思うんですけど、しばらくは無理っぽいですねー』

『ですねって、そんなの困るッ!! あんたみたいなのが剣に憑いたら、うるさくってかなわないじゃない! 私はね、人とずーっと一緒にいるとストレス感じるタイプなのッ!!』


 出なさい、このこのッ!!

 力任せに剣を振り回し、どうにか精霊さんを引っぺがそうとする。

 しかし、一体化したと言うのは本当なようで、全く出てくる気配はない。

 それどころか、何とも具合の悪そうな念が飛んできた。


『や、やめてほしいのですー! そんなにぶんぶん回されたら、気持ち悪くなっちゃうのですよー!』

『そんなこと言われてもねえ! とりゃッ!!』

『ぼ、僕が入っていても悪い事なんてないのですよー! そりゃ、ちょっとはお話しするかもしれませんけどー。切れ味が良くなったり、魔法剣を撃ちやすくなったりいいとこいっぱいなのですー!』

『それぐらいじゃ、あんたの相手をする割には合わないわよ! さっきだって、斬るの嫌だってごねたじゃない! これからずーっとそんなこと言われたんじゃ、たまったもんじゃないわ!』

『出来るだけ、出来るだけ我慢するのですー! だから、今すぐ……やめてくださいーッ!!』

『よーし、分かったわ! それじゃ、ついでに加護もつけて。ラーゼン倒したんだから、貰う権利はあるはずよ!』


 剣を振る手を止めると、ちょっと低めの声で言う。

 恐喝っぽいけど、言われたことやったんだから当然の権利だ。

 主張するところはキッチリ主張しなきゃね。

 貰えるものを貰わないのは、貧乏の元なんだから!


『……精霊相手に、えげつないのですよー。分かったのです、加護もあげるのです。ただ、キッチリ定着させるためには進化した後の方が良いので、先に進化をお願いするのですよー』

『よし、分かったわ。ではさっそく魔石を取り出して……おっと!』


 心臓のあたりに剣をやると、骨とは違う硬い何かに当たった。

 急いで手を差し入れれば、それはもう大きな魔石が出てくる。

 赤ちゃんの頭ぐらいはありそうだ。

 光り方も申し分なく、血のような深い紅をしている。


『おお! あとは、こいつを吸収するだけ……! 精霊さん、進化する間の見張りは任せたわよ! さっきの魔石、使い切っちゃってもいいから!』

『任されたのですー!』

『では……!』


 緊張の一瞬。

 息を飲んだ私は、魔石を自分の胸骨へと押し付けた。

 魔物としての本能だろうか。

 飲み込むことができないこの魔石をどうやって吸収すればいいのか、感覚的に理解できたのだ。

 

「カカカッ!!」


 骨に魔石が溶けていく。

 色彩の近い骨と魔石は、互いに混ざり合うかのようであった。

 骨の周囲ににわかに血管のようなものが生じ、全身へと伸びていく。

 ――トクン、トクン。

 魔力を吸い取られ、魔石が激しく脈打つ。

 その度に、全身の骨が軋んだ。

 体中が作り替えられていく異様な感覚。

けれど、それほど不快ではない。

むしろ、妙に気持ちが良くてくすぐったいような感覚だ。


「カカッ! スースーッ!」

『頑張るのですよー! あとちょっと、あとちょっとなのです!!』

「カッ! カカッ……!」


 あは、あはは!

気持ち良すぎて、精霊さんの念に応えることすらままならない!

苦しい、気持ち良いけど苦しい!

どうしてこうも、進化のたびに変な思いをしなきゃならないのかしらね!

 痛いわけじゃないけど、悶えるような感じだわ。


 熱い、身体が燃える……!

 骨が溶けちゃう……ッ!!

 かァ、炎が、炎が見える……ッ!!

 あまりの熱に幻影でも見ているのだろうか?

 私の身体を、真っ赤な炎が包んでいる……ッ!!

辛くはないけど、視覚的にくるものがあるわね……!

 何で炎なんて……!


 ……はあ、はあ!

 やっと収まった。

 いったいどれほどの時間が経ったのだろう?

 私はゆっくりと身を起こそうとして……はたと気づく。

 身体が、明らかに重くなっているのだ。

 これは、もしや……ッ!!


 腕を確かめてみると、あった。

 干物みたいで、しわしわだけれどもあった。

 ここ数カ月、私が探し求め続けていたものが確かにあったのだ。


 ――お肉がついてるッ!!


 苦節数カ月、ようやく私は肉を取り戻したのだった――。


主人公、いよいよ二回目の進化です!

何の種族に進化したかは、次回をお楽しみに!

感想・評価などありましたら作者のやる気が出ます。

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