第三十四話 消し飛べ、超必殺技ッ!
魔法剣を……完成させる?
そっか、精霊さんは私が練習してるところを見てたのか。
人がこっそりやっているところを覗き見するなんて、精霊にしては趣味が悪い。
そういうのは、普通は小悪魔とかの所業だろう。
少なくとも、ピカピカ光ってるような奴のすることじゃないわね……。
今となってはそんなこと、関係ないけどさ。
『魔法剣なら、一応だけど完成してるわ。でも、あいつには通用しそうもない……』
『それは恐らく違うのですよ。魔法剣を完成させるには、魔力を増幅する媒体が必要なんです。その剣やただの木の棒では、そもそも無理があるですよー』
『……なにそれ。それならさっさと言いなさいよ、無駄に頑張っちゃったじゃない……!』
『言おうとしたんですけど、シースさんは僕のこと見つけるとすぐに追い出すじゃないですかー!』
言われてみればそうだ。
練習の邪魔になるからと、姿を見るたびに追い出していたのである。
そうしているうちに、いつしか精霊さんもそのことを学習して、私が居るうちは洞窟に寄りつかなくなったのだ。
亀の甲よりも年の功、こんなことになるならちゃーんと精霊さんの話を聞いておけばよかったかな……。
『で、どうすればいいの?』
『僕が、いまシースさんの手にしている剣に憑依します。こうすれば、その剣は魔力を増幅する媒体として機能するはずですよー。その状態で魔法剣を撃てば、普段とは比べ物にならない威力が出ますよ』
『分かったわ。なんとか、やってみる……!』
『ちょっと待ってください。この技は、威力は凄まじいですが消費も激しいのです。今のシースさんの状態で撃つと、最悪の場合――体中の魔力を持っていかれて、死にます』
いつもの緩さと軽さはどこへやら。
精霊さんは、それはそれは真面目で重苦しい口調だった。
千年近くに渡って生きて来た、経験の重みって奴を感じられる。
……でも、何を今さら。
やらなきゃ喰い殺されるっていうのに、死のリスクも何もあったもんじゃない。
この先ずーっと、頭が禿げるとかなら多少は考えたけどさ……ッ!!
『構わないわ! あいつを倒さなきゃ、将来はないんだから!』
『分かりました。では……』
精霊さんの身体が、剣の中へと吸い込まれた。
途端に、鋼で出来ているはずの剣が聖銀を思わせる輝きに満ちる。
前に冷やかしで名工の剣を見せてもらったことがあるが、あれとも比較にならない。
神秘的で、何より綺麗な光だ。
『何をするつもりだ? まあいい、早々に止めを刺させてもらおう』
『遅かったわね! あんたは私にビビりすぎてたのよッ!!』
全身に魔力を回して、素早く立ち上がる。
そうして剣を構えると、残された魔力を全て回した。
剣の柄から青白い光がほとばしり、剣先へ向かって見る見るうちに膨れ上がっていく。
さながら、持ち手から新たに光の剣が生えてきたようであった。
光によって構成された剣身は、ラーゼンを一刀両断するにふさわしいほどにまで成長を遂げる。
『ば、バカな! なんだこれは!』
『私だってよくわからないけど……行くわよッ!』
剣を振り下ろし、斬撃を放つ――かと思われた瞬間。
私はあえて、途中で動きを止めて突きの体勢に入った。
普通にやったんじゃ、こいつには動きが読まれるからね。
そのまま勢いをつけると、一気に前へ飛び出す。
『おのれッ!!』
避けられないと判断したラーゼンは、口を開き、己の牙でもって私を迎え撃つ。
奴の牙の大きさと来たら、私の身体なんてクッキー感覚でバリボリ砕いてしまいそうなほどだ。
でもここは、駆け抜けるしかない!
大きく開かれた口に向かって、そのまま一直線!
直球勝負よッ!!!!
『貴様、食い殺されたいかッ!!』
『殺される前に、殺せばいいだけの話なのよ! うおりゃアアアアァッ!!!!』
『ウグオオオオッ!!』
ラーゼンが口を閉じるよりも早く、私の剣が奴の肉を貫いた。
このまま一気に……押し込めええッ!!!!
やがて纏っていた魔力が爆発し、巨大な体にドデカイ風穴が開いた。
私はそのままの勢いで、腹のあたりから宙へと飛び出していく。
月に向かって、高く高く。
重さを忘れて飛びあがる。
――勝った!
勝った、勝った勝った勝ったッ!!
遥か上空へと達した私は、そこからラーゼンの死骸を見下ろして快哉を叫ぶ。
あんな化け物に勝った!
骨の私が、圧倒的に強い狼王を倒したッ!!!!
倒したんだッ!!
喜びと安堵に思わず身体が震えた。
こんなに嬉しくて達成感のあること、未だかつて初めてかもしれない。
さーて、王様も倒したことだし、雑魚が来る前に帰らないと……。
ッんぐ!
なんだか急に身体が……。
着地した私は、途端に襲ってきた重力に目を回した。
身体の上に、まるで山でも載っているような感覚だ。
重いなんてもんじゃ、ない……!
小指の先を動かすだけで、全身の体力を使い切っちゃいそう!
やがて襲い来る睡魔に、私はそのまま意識を手放したのだった。
技名を叫ばせようかとも思ったけれど、流石に不自然と思ってやめました。
お約束は次回の使用に持ち越しです。
感想・評価などありましたら作者のやる気が出ます。




