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最弱骨少女は進化したい! ――強くなれるならゾンビでもかじる!――  作者: kimimaro
第二章 紅くて速くて強いヤツ!
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第三十二話 狼たちの狂宴

 視界を埋め尽くす、すっごい数の狼。

 そちらから流れてくる風が、獣臭いったらありゃしない。

 自分の臭いには気づかないって言うけど、狼もそうらしいわね。

 鼻の良い種族だってのに、体臭の管理が全くできていない!

 こちとら、鼻がひん曲がりそうだ。


 魔物大百科を読み、準備万端に整えた私は狼たちの住処へとやって来ていた。

 精霊さんの果樹園から見て、ずーっと北方。

 勇者の墓と同じく、天井が崩れて地面に山が出来たところに奴らは住んでいた。

 切り立った崖の前に出来たちょっとした広場のような場所に、続々と狼たちが集結している。

 数百頭規模の群れが互いに呼び合いウォンウォンと唸る様子は、さながら戦場のような迫力があった。

 

「……スー……」


 体の表面に匂い消しのための草をたっぷりと塗り込んだ私は、草むらから狼たちの様子を観察していた。

 居るとは思っていたけれど、実際にこれだけ大集合するとすごい迫力だ。

 足跡を参考に何とかここまで来たけど、こりゃとんでもないことに巻き込まれちゃったかな。

 いろいろ準備はしているけれど、流石にこれだけの数を相手にするとなると気が引けるわね……。

 けど、ここまで来たら撤退するわけにも行かない。

 私が勝つには、奴らが一番油断する時を狙って急襲するしかないんだから!

 まさに一世一代の大勝負ってやつだ。


「ウオオオオンッ!!」


 咆哮。

 それと同時に、山影から王が姿を現した。

 奴はその巨体で軽々と崖を登ると、突き出した岩の上に立って再び遠吠えする。

 その口には光の球――精霊さんがくわえられていた。

 普段と比べて光が弱いけれど、まだちゃんと生きている。

 私の予想した通り、食べる直前まできっちり生かしておくつもりのようだ。

 しかし、かなり弱ってしまっているようでこのまま死んでしまうかもしれない。

 明滅する光が、生命力の弱まりを強く訴えてくる。


 さっさと何とかしないといけない。

 でも、行動を起こすにはまだちょっと早かった。

 もう少しだ。

 王が精霊さんを飲み込もうとする、その瞬間こそが狙い目である。

 獲物を口に入れる時、それが周囲への警戒が最も薄くなる瞬間なのだ。


 ――早く、早く早く早くッ!!


 心が焦る。

 このままでは、震えた身体がカラカラと音を立てそうだった。

 しかし、どうしたわけか王はなかなか精霊さんを食べようとはしない。

 あいつめ、とことんもったいぶるつもりか?

 精霊さんもそろそろヤバいみたいだし、このあたりとするか……!


 背後に積まれた枯葉と植物の山に目をやる。

 大量に集めた煙の出やすい針葉樹の葉に、狼が嫌いな臭いを出すと大百科先生に載っていたドクアシ草をたっぷりと混ぜ込んで作ったものだ。

 あとはこいつに、私の臭いの染みついた毛布の切れ端を入れてやれば出来上がり!

 同じものを風上に三か所用意したので、それに全て火をつけてやれば……ひゃひゃひゃッ!

 

 ――ファイアーボールッ!!


 程良い出力で放たれたファイアーボールは、たちまち葉っぱの山全体を燃やした。

 途端に白い煙がものすごい勢いで出始める。

 よし、次は二か所目だ!

 私は思わず笑みをこぼすと、すぐさまその場を離れた。

 事に気づいた狼たちが何頭かやってくるが、時すでに遅し。

 私は二か所目の山に悠々と火をつける。


 ――よし、いい感じだッ!


 視界が白くぼやけ始める。

 薬草を百倍に煎じたような、何とも薬臭いにおいが漂い始めた。

 それに伴って、狼たちのくしゃみが聞こえてくる。

 私にも結構きついけど、鼻が良い奴らにはもっと答えているらしい。

 キュンキュンと、普段は聞かない泣き声が聞こえた。


 さらに続けて、三か所目へと火をつける。

 視界はいよいよ白く染まり、狼たちの動揺した声も大きくなる。


『この臭いは……スケルトンだ、スケルトンを捜せ! さっき俺様が見逃してやったスケルトンが、襲撃しに来たようだぞッ! 迎え撃つのだッ!!』


 煙幕の向こうの岩場から、王の苛立った念が飛んでくる。

 私の場所に気づいたのかと一瞬ビックリしたけど、どうやら群れ全体に向かって跳ばしているものらしい。

 王の指令を受けた眷属たちは、煙に苦しみながらも必死にあたりを見渡し始める。

 狼たちの耳がピンッと立ち、左右に振られ始めた。


 ――大百科先生にあったとおり、耳が良いようねェ!


 いいぞ、ほぼ完全に私が予想した通りの展開となってきた!

 匂いを煙に混ぜてやれば、勘のいい王が私を捜すことを命じるのは想定済み。

 そして、目と鼻を潰された狼たちが音を頼りに私を捜しだそうとすることも、ちゃーんと織り込み済みだ。

 あとはここで、獣の骨を何本か投げ込んでやれば……!


 ――カランッ!!


 骨が地面に当たった途端、渇いた音が高らかに響く。

 狼たちはすぐさま、音のした方へと勢いよく殺到した。

 何せ、王様直々の命令である。

 その勢いは半端なものではなく、数百頭にも及ぶ群れ全体がうごめいた。

 眼と鼻が利かない状態でそんなことをやれば、一体どうなるのか。

 ま、お察しの通りだ。


「クウウンッ!!」

「ウォンウォン!!」

「バウッ! バウッ!!」


 私に向かって放たれるはずだった攻撃が、すべて狼たち自身を傷つけた。

 牙が、爪が、毛皮を引き裂く。

 互いに傷つけあってしまった狼たちは、その場で向き合うと激しく吠え合った。

 見る見るうちに乱闘が始まり、群れ全体へと伝播していく。


『やめんか、お前たちッ!!』


 王が一喝するものの、動きを止める者は居ない。

 闘争本能が刺激されてしまった狼には、もはや何も耳には届かないようだ。

 容赦のない戦いは次第に流血を伴い、倒れる者まで現れ始めた。


『おのれ、世話が焼ける……ッ!』


 王が重い腰を上げた。

 やつは精霊さんを吐き出すと、岩場を下って広場へと降りてくる。

 そして争いの仲裁をすべく、群れの中に割って入ろうとした。

 けれどここで――


「カカカカカカッ!!!!」


 魔法剣、最大出力ッ!!!!

 私の最大最強の一撃が、油断だらけとなっていた王の首を目がけて放たれた――。


シースは果たして狼王を倒せたのか?

結果は次回にご期待ください!

感想・評価など頂けると作者のやる気が出ますので、ぜひに。

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