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最弱骨少女は進化したい! ――強くなれるならゾンビでもかじる!――  作者: kimimaro
第二章 紅くて速くて強いヤツ!
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第三十一話 狼王

 ――狩りの時間が始まった。


 森を響き渡る遠吠えには、そう思わせるだけの重みがあった。

 間違いない、これは狼王だ!

 王が眷属どもに向かって、狩りの号令をかけているのだ!

 その地鳴りのような声に呼応して、森のあちらこちらから遠吠えが聞こえてくる。

 いったいどれほどの数の狼たちが、王の命を待ちわびていたのだろうか。

 遠吠えはしばらくやむことが無く、空高くまで響いていく。


 ――マズイ、今の私は獲物だ!

 ――猟師の矢の前に立つ、哀れな小鹿と同じだ!


 背筋が冷えた。

 森全体から、にわかに強い視線を感じてしまう。

 鳥たちの飛び立つ音が、嫌に大きく聞こえた。

 私も、早くどこかに行かなければ危ない。

 このままここに立っていたら、血に飢えた狼どもの群れが襲い掛かってくることだろう。

 数十――下手をすれば、数百頭単位で。

 今の私なら狼ぐらい多少は何とかなるけれど、数の力は脅威だ。

 四方八方から飛びかかられたら、流石に捌き切れないかもしれない。


 ――勇者の隠し部屋なら、きっと安全だ。


 そう算段を付けた私は、振り返って洞窟の中を見やった。

 すると、それまで感じていた聖気のようなものが途絶えていることに気づく。

 地面に刻まれた結界に、何かあったんだ!

 舌打ちの代わりに、歯ぎしりせずにはいられない。

 ノートも譲り受けたし、墓を壊されてはさすがに寝覚めが悪いってものだわ。

 ええい、忌々しい狼め!

 私が来た入口以外に、一体どこから入り込んだって言うんだろう!?


 どうしたものだろう?

 洞窟なら場所が狭くて数で攻められないし、空中戦に使うための足場も豊富だ。

 普段から練習に使って居るから、地の利は私にある。

 さらに、私のスタミナは魔法さえ使わなければほぼ無尽蔵。

 一対一ならずーっと続けられる。

 こうなったら、隠し部屋の安全を確保するためにも相手してやろうじゃないのッ!

 それで結界の壊れた部分をさっさと元に戻さなきゃ!


 ――殺されるッ!!


 洞窟に足を踏み入れようとしたところで、強烈な殺気を感じた。

 あまりの圧迫感に、私ははじき返されるような感じになってしまう。

 一体何なのよこれは!

 何が、何が居るっていうのよ!

 危機を感じた身体が、混乱して戸惑う心をよそに動いた。

 近くの草むらに、気が付けば飛び込んで身を隠していた。

 

 やがて洞窟の入口から、白い大きな獣が出て来た。

 グレートウルフ……違う、この風格はフェンリル種か?

 狼の癖に、馬などよりもよっぽど大きな体躯をしている。

 王だ。

 この風格と威圧感は、明らかに覇者のもの。

 そこらの獣に出せるようなもんじゃないし、第一に纏っている魔力が半端ではない。

 実体化してたまに火花を散らせるほどの魔力なんて、ただの狼に出せてたまるか!


 ――いつの間にこんなところに!


 毛皮についた土埃と小石からして、恐らく洞窟の中へは壁を突き破って入ったのだろう。

 小さな山だから、あれだけの獣がぶつかれば破れないことはない。

 しかし、さっきの遠吠えはかなり遠いところから響いてきていた。

 まさか、ほんの一分ほどの間に駆け抜けて来たとでも言うのか?

 いくらフェンリル種が神速って言われるほどとはいえ、それはちょっと……。

 私が疑いの目を向けると、それに気づいたのか王は不敵な笑みを浮かべた。

 そして――


『しゃぶりがいがありそうだが、貴様は後だ』

「カッ!?」


 こいつ、念話が使えるのか!

 私が驚いている暇もなく、王はドンッと地面を蹴った。

 大きな馬車ほどもある身体が、重さを忘れたようにスッ飛ぶ。

 これなら、あれだけの距離を一気に走ってこられたはずだ!

 大砲の弾のような速さに、私はたまらず息を飲む。

 スルスルと木々の間を抜けていくその様子は、見事というほかはない。


 ……いけない、感心している場合じゃなかったッ!

 あいつの向かった先には、精霊さんの果樹園があるじゃない!

 獲物の気配なんてなさそうな洞窟にわざわざ突っ込んだところを見ると、あいつの狙いはきっと精霊さんだ!

 精霊さんは果樹園が狙われているとか言ってたけど、たぶんそうじゃない!

 果樹園の果物は、精霊さんが居なかったから手を付けただけのこと。

 奴らのホントの狙いは、精霊さん自身だったんだ……!!

 何で今まで気づかなかったんだろうッ!

 精霊さん自身が、前に言っていたじゃないか。

 勇者に生きるすべを教えてもらわなければ、モンスターに吸収されてたって。


 ……不味いわね、私がこの場所にいる以上、精霊さんはまず果樹園に居るはず。

私が食べちゃった分を取り戻そうと、木々の世話に精を出していたことだろう。

 あの速度で迫られたら、少しぐらい逃げたところで発見されてしまう!


 ――精霊さんを助けなきゃ!


 私も王に見つかった以上、逃げるという選択肢はもう存在しない。

 あの王が、ちょっとぐらい見つからないからってそう簡単にあきらめるとは思えないしね。

 戦うしかない。

 でも、今の私がまともにあいつとぶつかったところで勝てる可能性は万に一つ。

 何かしらの作戦を考えないと、間違いなく無駄死にだ。


 しかし、時間はあるだろうか?

 あの足の速さなら、ここから精霊さんの果樹園まで十分と掛らない。

 私が普通に追いつくことは不可能だし、途中で家に寄って何かしらの準備をするなんてもっと不可能だ。

 ではどうする、どうすればいいんだ?

 考えなきゃ、こういう時こそ頭を使おう。

 知恵を絞らなきゃ、ただの骨と同じじゃないか!

 頑張れシース・アルバラン、あんたの頭は何のためについているッ!!

 自分で自分に言い聞かせながら、必死に頭をひねる。


 ……そうだ、あいつの性格だ!

 取るに足らないであろう私に、わざわざ「後で」なんて言うことからして、己の力を誇示したいタイプだろう。

 そして、私があいつが戻るまでの間に何かしらの対策を取ることを考えないあたりからして、己の力を過信するタイプでもある。

 そんな奴が、何か特別なものを仕入れたらどうするか。

 自慢しまくるに決まっている。

 私が知る限り、精霊さんはこの階層に一体しかいない貴重な存在。

 次にいつ生まれるかもわからない、最上級の獲物だ。

 私がもし王だったら、そんな獲物をその場で食うような真似はもったいなくてしない。

 森中に散らばっている眷属どもを集めて、その目の前で見せびらかして食べるはずだ。

 自らの力を、これでもかと誇示するために。


 ――あいつは住処に戻って、眷属を集めてからもったいぶって精霊さんを食べるに違いない!


 王の行動にだいたいの予測を付けた私は、いったん家に戻って準備をすることにした。

 あいつの眷属は森中に散らばっているうえに、軽く数百頭はいるはずだ。

 それを全員集合させようと思ったら、いくら狼の足は速いと言えども時間がかかるだろう。

 家に戻ってあれを読むぐらいの時間は、たぶんあるはず――!


「カカカッ!!」


 待ってなさいよ精霊さん、いま準備を整えて助けに行くからッ!!

 こうして私は、一目散に湖畔の家へと走り出したのだった――。

 

次回からシースVS狼王の戦いが始まります!

ぜひぜひご期待ください!

感想など頂けると嬉しいです!

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