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最弱骨少女は進化したい! ――強くなれるならゾンビでもかじる!――  作者: kimimaro
第二章 紅くて速くて強いヤツ!
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第二十九話 ノート

 心を落ち着けるためには、深呼吸が重要だ。

 ヒッヒッフー……。

 違った、これは出産のときにやる奴だ。

 スー……スー……。

 お腹の底から息を吸って吐いて。

 だんだんと精神を高めていく。


 あの後、精霊さんにお引き取り願った私は一人で魔法剣の練習をしていた。

 まったく、あいつときたらうるさいだけでホントに役に立たないんだから!

 何が「ないのですよー!」だ!

 思わず「もう、あっち行って!」と追い出してしまった。

 ……今となっては、ちょっと強く言いすぎちゃったかなとも思う。

 洞窟を出ていくとき、凄くしょんぼりしたような感じだったし。

 明日も来るだろうから、その時にでも謝ろうかな。


 それよりも今は、修業に集中しないと!

 せっかく洞窟を貸し切り状態にしたんだから、その分だけ成果を上げなきゃ。

 地面に胡坐をかいた状態で、即席の木刀を構えて魔力を纏わせていく。

 木刀の表面を、たちまちオレンジ色の炎が走り抜けた。

 この炎をコントロールして木刀を燃やさないようにするのが、今日の目標である。


「スー……」


 内から外へ、内から外へ。

 魔力の流れを把握し、可能な限り整えていく。

 下手すりゃ握っている木刀が燃えてしまうので、自然と緊張感も高まって行った。

 人間だったら、汗の一滴や二滴は出していただろう。

 

 最初のうちは、木が燃えるからと炎は使わなかった。

 けど今回は、あえて炎を使っている。

 より完全な魔力の制御を心がけるためだ。

 出力と方向の制御さえしっかりできていれば、理論上は木刀で炎が出せるはずなのだ。

 頑張れば、アイスキャンディーでだって炎が出せる。

 ま、アイスで炎を出すのは私みたいな練習を始めたばっかりの人じゃ無理だろうけどね。


 魔力を内から外へ。

 炎を内から外へ。

 順調だ、今のところは燃えていない!

 やっぱりこの身体、昏い場所が本能的に落ち着くみたいね。

 かつてないほど、ゆったりとした気分で修業が出来ている。

 これでこそ、遠出してきた甲斐があるってもんだわ!


「……カカッ!」


 よし、あいつで試し切りしよう!

 天井近くにビッグバットの姿を見つけた私は、にやりと微笑む。

 大きさも手ごろだし、何よりあいつは弱い。

 万が一、魔法剣が失敗してもリスクがないからうってつけの相手だろう。

 さあ、コウモリよ!

 私の斬撃の犠牲になりなさいッ!!


 とりゃッ!!

 地面を蹴飛ばすと、まずは壁に向かって跳ぶ。

 そこで今度は、壁を蹴って方向転換。

 そのまま剣を高く構えると、一気にビッグバットへと肉薄する。

 いきなり思わぬ方向から迫ってきた敵に、バットは飛び立つのが少し遅れた。


 ふ、遅いわッ!!

 炎を纏った剣が、ゴウッと激しい音を立てながら閃く。

 赤い軌跡が、たちまちバットの身体を横一線に裂いた。

 完全に決まった!

 傷から炎が噴き出し、バットはなすすべもなく地面へと落ちる。

 よーし、これで魔法剣の完成――

 あちゃちゃッ!!


 しまった、集中が途切れたッ!!

 燃え始めてしまった木刀を手放すと、私もまた地面へと落下し、のたうつ。

 仕方ないじゃない、燃えなくたって熱いものは熱いんだから!

 掌を抑えながら、地面の上をグルングルン。

 塩をかけられたミミズみたいにのたうち回る。


 ゴッチンッ!

 あたた、頭を岩にぶつけちゃった……!

 結構痛かったけど、ヒビとか入っちゃってないでしょうね……?

 心配して、額のあたりを撫でて確かめたのも束の間。

 頭をぶつけた岩が、ズルズルと低い音を立てて動き始める。

 なにこれ、何の仕掛け?

 私が動揺しているうちにも、岩は静かに動きを止めた。

 慌てて裏側を見てみれば、壁に小さな出入口が出来ている。


 おお、隠し部屋ッ!!

 勇者ゆかりの場所らしいし、今度こそお宝があるんじゃないのッ!?

 喜び勇んで中に入ると、またしても生活感のある小部屋が広がっていた。

 石を積んで作った焚火用のスペースに、石の机らしき物体。

 部屋の端には布の袋がポンッと置いてある。

 どうやらここは、勇者が生活していた場所らしい。

 やれやれ……一階層と良い、この迷宮は私にとことん意地悪だ。


「スー……」


 なるほどね。

 ただ洞窟に隠れるだけでは飽き足らず、わざわざ隠し部屋まで作ってたんだ。

 勇者にしろ、第一階層の推定冒険者さんにしろ、用心深いこと。

 これぐらいしなきゃ、この迷宮では安心できないってことなのかしらね?

 しかし、勇者の生活空間ってことは……多少は期待してもいいんじゃないかな!

 あひゃひゃッ!


 自然と怪しい笑みをこぼしながら、布袋を開く。

 するとそこには、物の見事に何も残されてはいなかった。

 チッ、引き払う時にぜーんぶ持っていっちゃったのか。

 他には何かないかな……おッ!

 机の上に、ノートが何冊かある!!


 ノートの表紙には、『日誌』と書かれていた。

 良かった、現代語で書かれてる!

 表紙をめくると、今度は『敵を知るには、まず自分を知ることから!』と達筆な筆致で書かれていた。

 どうやら、これが勇者さんのモットーらしい。

 ほえー、何ともまあ真面目で堅そうなこと。

 あんまりお友達にはなれそうにないタイプね。

 けど、今はそれより――


「……スー」


 手を震わせながら次のページを開いてみると、そこには特に何も書かれてはいなかった。

 ちぇッ!

 勇者の日常とか、そういうのが分かるかなーって思ったのに!

 そりゃまあ、使ってたら普通に持っていくわよね……。

 期待した分だけ、ちょっとがっかりしちゃった。


 ま、仕方ないか。

 ノートを閉じると、そのまま部屋を出て行こうとする。

 だがここで、ふと思いついた。

 炭になっていた木刀を拾い上げると、私はまた部屋へと戻ってノートを手にする。

 

「カカッ!」


 せっかくだし、このノートに私の修業の成果でも書いてみよう!

 勇者も『敵を知るには、まず自分を知ることから!』って言っていることだしね。

 何より、この結構分厚いノートがもったいない。

 千年間持ってるってことは、魔法もかかってるっぽいし。

 そうと決まれば、とりあえず今の私の状態を――


『名前:シース・アルバラン

 魔力量:158(もうちょっと増えてる?)

 魔法:炎魔法・風魔法・水魔法・雷魔法(いずれも初級)

 技:魔闘法・魔法剣(少しは使えるけど練習中!)』


 よし、出来た!

 炭で書いたからあんまりきれいじゃないけど、これで分かりやすくなったわね!

 えーっと、今のところは魔法剣を習得することが課題か。

 見てみると意外と小技が多いし、ドドーンッと破壊力のある技も欲しいかも。

 でも、そこまではちょっと手が回らないかな。


 こうして私は、しばしノートに書かれた自身の能力を前にうんうん唸ったのだった――。


シース・アルバランは『ステータス』を習得した!


……冗談はさておき、日間五位ありがとうございます!

ここまで来るとは予想外でしたが、皆様の応援のおかげです!

これからも頑張りますので応援よろしくお願いします!

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