第二十四話 そりゃあ、無理ってもんよ!
敵と戦ううえで、相手の力量を知ると言うことは極めて重要だ。
相手の力が分からなければ、勝てる戦いにも勝てやしない。
冒険者ギルドがわざわざモンスターや冒険者をランク分けしているのは、依頼を割り振る際に便利だからというだけではない。
冒険者たちに、どのモンスターがどれくらいの強さで、自分たちとはどれくらいの差があるのかを具体的に分からせるためでもある。
例えば、私が戦ったゴブリンキング。
こいつが強いということはランク制が導入される前から良く知られていたのだけど、たかがゴブリンの親玉と舐めてかかって死ぬ馬鹿が結構居たらしい。
でも、ランク制が導入されて「Bランク」と分類されてからはそういう事故はかなり減った。
ゴブリンキングの強さがはっきりとした指標で示されたので、無鉄砲な初心者とかでもちゃんと警戒するようになったらしい。
ただこのランク制度、万能ではない。
私みたいな天才スケルトンはまれだと思うけど、モンスターにだって個体差がある。
例えばウルフとかは、群れのリーダーと下っ端では相当の力量差があったりする。
ロード種と下位種くらいの違いになるとランクも分けられるのだけど、さすがにそういう細かいところまでは対応していない、というか出来ていない。
そんなことを言い出したら、流石のギルドでも管理できないからね。
モンスターの魔力量を、細かい数字で把握できる。
モンスターの戦闘力はだいたい魔力量に比例するから、これはモンスターの戦闘力を把握するに等しい。
うん、凄い。
派手さはないけど、メッチャクチャ使える能力だ。
力がないからってこんな技を編み出すとは、この精霊さんなかなか侮れない。
可愛い声してるけど、実に渋くていい仕事してくれている!
「喜んでもらえたようで、嬉しいですー。お気に召してもらえたようですねー!」
「ええ、素晴らしいわよこれ! ちなみに、この数字は何を基準にしてるの?」
「ノーマルなスケルトンを、10ってことにしてます―」
「……む、ということはあの動物はスケルトンの三倍近く強いってこと?」
見たところ、人畜無害そうな草食獣を見やる。
タヌキのような姿のそいつは、体も小さくて見るからに弱そうだ。
雑草を幸せそうにはむはむするその姿は、体のあちこちに泥や枯葉が付いていなければ、何かのマスコットにでも収まっていそうなほど。
凶悪な奴にはおよそ見えない。
「はい。ブラウンタヌーは、怒ると強烈な体当たりを食らわせてくるのです。細い木ぐらいなら折れちゃうのですよー。怒らせなければ大人しいモンスターですけれども」
「あー、そういえばそんなモンスターも居たわね……。しかし、三倍……」
上流階級の奥様が、首に巻いて居そうなタヌキで三倍。
改めてスケルトンの弱さに絶望するわね……。
ま、スケルトンはスケルトンでも私は進化してるから結構強いはずなんだけどさ。
でも……ねえ。
「ちなみに、ゴブリンとかだとどれくらいの数字?」
「15くらいなのですー。でも、連中は武器を使うので実際にはもうちょっと強いはずなのですよー」
「……Fランクの中でもかなり格差あるわね」
「スケルトンは、僕が知るモンスターの中ではたぶん最弱なのですよ」
「…………分かって居たけど、改めて言われたくない事実だわ」
どよーんとした雰囲気を漂わせながら、ため息をつく。
どうせ生まれ変わるなら、さっきのドラゴンみたいなやつとかが良かったなあ。
空中からガオーって人をビビらせるのとか、凄い気持ちよさそうだ。
あー、でもそれだと人間に戻る見込みが全くないか。
うーん、でもこの弱さはね……。
「あ、スケルトンさんは結構強いのですよ?」
「スケルトンさん? ああっと、私のことか。これからはシースでいいわ、シースで。紛らわしいったらありゃしないから」
「ならお言葉に甘えて。シースさんは結構強いのですよ、数字出してみましたけど『158』って出ているのです!」
「おおおッ!!!!」
約十六倍ッ!!
私がスケルトンになったのが、だいたい一か月くらい前だっけ?
日付感覚がほとんどないけど、まあそんなもんだったはずだ。
一か月で、十六倍!
トイチなんてもんじゃないわね!
……ああ、とっさにそろばんを弾いてしまった自分がちょっと乙女的に悲しい。
けどまあ、成長したのはいいことだ!
「契約、してもらえますか?」
「もっちろん! 素晴らしいわよ精霊さん!」
「良かったですー! 僕も、この『エコー』を苦労して編み出した甲斐があったのですよー!」
えっへんと胸を張る精霊さん。
わざわざ技に『エコー』なんて名前を付けてるあたり、相当愛着持ってるみたいね。
しかし『エコー』か、使う時に言ったらカッコいいかも。
相手に聞こえたら台無しだから、ささやく感じだけど。
「それで、精霊さんの方は何が欲しいの? 私、見ての通り裸一貫って感じだから魔力ぐらいしか渡せないけど」
「魔力は大丈夫なのですよー。それよりも、ちょっとして欲しいことがあるのです」
「なに? エッチなこと以外ならだいたいいいわよ」
「骨にそんなことお願いしないのですよ……。実は、僕の造った大事な果樹園がモンスターに狙われてまして。それをちょっと、守ってほしいのですー」
ん、果樹園?
それって、さっき私が果物を集めた場所のことよね。
モンスターって、もしかしなくても私のことを言ってる?
そ、それは……!
「……そういえば、シースさんの足元にある果物にちょっと見覚えがあるような?」
「え、これ? やだなあ、さっき森で拾って来たのよ! 落ちてたからもったいなくて! もしかして、あなたの果樹園のあたりだった?」
「むむ、落ちていたのです?」
「え、ええ。モンスターにやられちゃったのかもしれないわね。それで、せっかくだから冷やして食べようと思って川に入れてたんだけど、流しちゃって」
……ごくり。
これで、上手く誤魔化されてくれるか……!
にわかに体温が跳ね上がったような感じがした。
頼む、気づかないで……!
「そうだったのですかー、回収してくれてありがたいのですー!」
「ど、どういたしまして!」
やった、誤魔化せた!
ふ、精霊なんて純粋過ぎる奴、私にかかればチョロイもんだわ。
心の奥が、針で刺されたようにチクッとしたけれど。
嘘はもうやめよう、心臓があったら破裂してそうだ。
「そ、それでさ。狙われてるって、どんなモンスターに狙われてるの?」
「森のモンスターは、だいたい果物が好きなので荒らしに来ちゃうのですが……。一番ヤバいのは、ぜーんぶ食い尽くそうとする狼王ラーゼンさんですね!」
…………ん、こいつ今なんて言った?
何だか、凄いヤバそうな単語が聞こえたのだけれども。
「……えっと、そのラーゼンとかっていう奴は数値どれぐらいなの?」
「あいつが出てくる前になるべく避難するので、詳しくないですが……1000は超えているでしょうか」
精霊さん、あんたやっぱり馬鹿だわ……!
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