第二十話 新たなる力を!
「カッ!」
投げ縄が鳥に巻き付いたことを確認すると、手繰り寄せてピンッと張らせる。
そしてそのまま――
「カカカッ!」
ひゃっふうッ!!!!
縄を頼りに、穴の中へと身を躍らせる。
猛烈な風が耳元で唸り、骨の身体全体がヒュウと鳴る。
気分は大きなブランコ。
鳥は突然私の体重がかかったことに驚きつつも、落ちることなく踏みとどまってくれた。
さすがに、身体がデカいだけのことはある。
私はそのまま反対側の壁近くにまで振られ、また戻っていく。
のわッ!!
暴れるんじゃないってば!
邪魔っ気な縄を振り払おうと、いきなり鳥が暴れ出す。
縄の先にしがみついている私は、グワングワンッとめちゃくちゃに揺れた。
ええい、こうなったら首根っこ押えるしかないわね!
身軽さにモノを言わせて縄を登ると、抵抗する鳥の足に手を掛ける。
「クゥアアアアアッ!!」
足に触られるのが、よっぽど嫌だったらしい。
鳥はその身体に見合ったドデカイ鳴き声を上げると、右へ左へとめちゃくちゃに飛ぶ。
ぐえ、気持ち悪い……!
人間だったら確実に吐いてるところね……!
あまりのめちゃくちゃさに目を回しながらも、絶対に手だけは離さない。
むしろ、暴れるたびに力を強めてやる。
するとさすがの鳥頭も学習したのか、無理に抵抗することをやめた。
よーしいい子だわ!
あとは背中に上ってっと……。
出来た、鳥使いシースちゃんの完成ッ!
翼の上にまたがると、首の付け根をがっしりと掴む。
もはや諦めたのか、鳥は「クァァ……」と大怪鳥らしからぬ情けない声を出した。
「カカカッ!」
さあ飛べ、地の底を目指してッ!!
鳥の首を無理やりにこちらへ向かせると、下へ行けとジェスチャーをする。
すると、見た目の割に賢いこいつは首を縦に振って分かったと返して来た。
さすがは私、鳥とすぐに友達になれるとは。
真に心を通じ合わせるためには、言葉なんていらないってことね!
私の指示を受けて、下に飛び始める鳥。
きっもちィッーー!
最高の気分だわ!
空を飛ぶのがこんなにもいいものだったとはね。
この鳥さんとは、穴を脱出した後でも仲良くしなきゃ!
頬を撫でる風の感触に、たまらず大歓声――と言っても骨を鳴らすだけだけど――を上げる。
そうして調子よく底を目指していると、周囲の鳥がいきなりこちらへ向かって来た。
私に向かって、くちばしが勢いよく突っ込んでくる。
危ないッ!!
羽毛にしがみつき、どうにかギリギリのところで回避をする。
そう簡単に、先にはいかせませんってか?
鳥に乗っちゃうなんて、ズルもだめってこと?
ええい、そっちがその気ならこうだッ!!
――ファイアーボールッ!!
掌に魔力を集め、放つ。
進化した私のファイアーボールは、ゴブリン程度なら丸焼きにする威力がある。
そう、ちゃんと攻撃手段として使えるぐらいになったのだ!
さらに攻撃回数も増えて、一日につき二十発ぐらいなら打てる。
この飛び道具さえあれば、怪鳥なんぞ……!
「クアアッ!!」
鳥は翼を翻すと、錐もみしながら素早く進路を変えた。
げッ、思った以上の旋回性能だ。
仕方ない、こうなったら連続で撃つしかないわね!
ファイアーボールッ!
ファイ――
うわァッ!!
突っ込んできた鳥を回避して、集中が途切れる。
くっそ、そんなにかわるがわる突っ込まれたら魔法を撃つ余裕がないじゃない!
鳥頭の癖に連携なんぞしてからに!
進行方向を見やれば、底はまだ見えない。
あとしばらくはかかりそうだ。
何とか、そこにたどり着くまでの間は凌がないと!
再びこちらを追いかけてくる鳥たちの方を見やると、カチッと歯を鳴らす。
ファイアーボールがダメとなると、遠距離魔法はもうない。
鳥が突っ込んでくる瞬間を狙って、ナイフで切り付けてやろうか。
……いや、それはダメね。
こんな不安定な足場でナイフを下手に食いこませると、身体が持っていかれるかもしれない。
私の身体は軽いのだ。
踏ん張りがきかない場所では、そのことをとにかく意識しなくちゃ。
けど、このままずーっと攻撃を回避するのも厳しい。
何とかしなければ。
けど、どうやって?
ファイアーボールは速度が遅いから、簡単に回避されちゃうし……。
そうだ、もっと速度の速い魔法を使えばいいのよ!
魔力も上がったことだし、今なら違う属性の魔法だって使えるはずッ!
掌をかざすと、意識を深く自身の内へと沈める。
体内の魔力の流れをはっきりと感じられるようになった。
今度はそれを掌へと集め、変換するイメージだ。
とにかく速そうなもの――そうだ、雷が良い。
バチバチと、弾ける稲妻を放とう!
頭の中で、轟く雷鳴をイメージする。
すると、掌に集まっていた魔力が少しずつ変化してきた。
これだ、この感触だ!
手ごたえを感じた私は、変質した魔力を一気に解き放つ――!
――サンダーボルトッ!!!!
にわかに青い稲妻が迸る。
バチバチバチッと、木の幹を無理やりに引き裂いたような炸裂音がした。
稲妻は瞬く間にこちらに迫る鳥の身体へと殺到し、翼を焼いた。
肉を焼かれた鳥は絶叫すると、すぐさまこちらを離れていく。
他の鳥もその様子を見て、次々と離脱していった。
大成功ッ!!
こんな極限状態で新しい魔法を覚えるなんて、私ってば天才!
才能が開花するのがちょ-ーっと遅かったけど、これは将来の大魔導師間違いなしッ!!
こうして自画自賛をしていると、何やら下の方が明るくなってきた。
いよいよ穴の底か?
急いで進行方向を見やると、そこには――
「…………カッ!?」
一面の緑。
迷宮の中らしからぬ、大密林が広がっていた――。
仮眠を取るつもりが寝てしまった……!
というわけで、更新時間がいつもより遅め(むしろ早いのか?)です。
いつの間にやら20話突破ですが、これからもよろしくお願いします!
感想・評価などを頂けるとやる気が出ます。