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最弱骨少女は進化したい! ――強くなれるならゾンビでもかじる!――  作者: kimimaro
序章 大ダンジョンのスケルトン
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第一話 遥かな谷底にて

 気が付くと、そこはひどく昏い場所であった。

 空気もどんよりとしていて、湿気がひどい。

 ほのかに墓土のような匂いもして、辛気臭いことこの上のない場所だ。

 ここが、噂に聞くあの世ってやつ?

 そう思って天を仰げば、かすかにだが光が見えた。

 黒い空を引き裂くように、白い筋が走っている。

 どうやら私は、あのまま谷底まで落下してしまったらしい。

 

「――カカッ!」


 ……今の音はいったいなんなんだ?

 ため息をつこうとしたら、小石を打ち鳴らしたようなかるーい音がした。

 状況の深刻さに合わせて重い重ーいため息をつくはずが、完全に調子が狂ってしまう。

 落下した時に喉をやられたのかしらね?

 そう思って声を出そうとすると、今度は「スースー」と風が抜けるような音がする。

 こりゃ、完全にダメだわ。

 冒険者をやめて、歌姫でも生計が立つような美声だったと言うに。

 我ながら、その喉をやられてしまうとはなんとついてないことだろう。

 いや、むしろ死んでいない分だけツイていると考えるべきだろうか?

 光の弱さを見るに、この谷の深さときたら相当なもののはずだ。


 とりあえず、他に怪我をしている場所はないだろうか?

 あまりにもひどい怪我の場合、痛覚がマヒしてしまって意外とその存在に気づかないと言う。

 とっさに全身を見渡した私は――ビックリしすぎてひっくり返りそうになった。

 あろうことか、手足の骨が剥き出しになっていたのだ。

 両手両足!

 よくよく見れば、肩の部分まで!

 肉がすっかりと削げ落ちて、骨が露わになってしまっている。


「カカカッ!!」


 悲鳴の代わりに妙な音を響かせながら、お仕着せのドレスを脱ぎ捨てる。

 腹もそうだ、くびれがない!

 自慢の……私の自慢のHカップも綺麗さっぱり消えてる!

 それどころか全身のあらゆる個所から、肉が削げ落ちて骨だけしかなかった。

 どこをどう捜しても、肌色が見当たらないッ!


「スーコー……」


 ゆっくりと息を整える。

 ……ちょっと、待ってほしい。

 に、人間こんな状態になっても生きられるものなのか……!?

 冷静になった私は、驚きを通り越して恐怖心が沸き上がってきた。

 普通に考えたら、これだけ骨が見えてしまっている時点で死んでいるはずである。

 これはあれか、頭だけ無事で体は全滅しちゃったとかなのか?

 とっさにそう思うが、それにしては立っているのが不思議だ。

 もしそんな状態なら、ベッドの上で寝たきりのはず。

 第一、医者や治療術師の手助けもなしにそんな状態の人間が生存できているはずがない。


 では、今の私はいったい何なんだろう?

 とにかく正体を確かめなきゃ。

 懐に手をやって短剣を取り出そうとするが、運が悪いことに落下した時にどこかへ落してしまったようだった。

 あれがあれば、すぐに顔を見ることが出来たのだけど……。

 仕方ない、触って確かめるとするか。

 ゆっくり顔に向かって手を伸ばすと、人差し指が眼のあたりから顔の中へ入ってしまう。

 本来なら眼球があるはずの場所へ、何の抵抗もなくスルッとだ。


 ……うーん、これはもはやね。

 間違いなさそうだ。

 いや、でも認めたくない。

 絶対にそれだけは嫌だ。

 それを認めてしまったら、文字通り人として終わる。

 ぶっちゃけ人として終わってもいいんだけど、あいつらの一員にだけはなりたくない。

 だって、気持ち悪い魔物ナンバーワンなんだからね、あいつらッ!!


 そう熱く思ったところで、私の足元が揺れ始めた。

 地震かと思って壁際に避難すると、地面から何かがせり出して来る。

 ……骨だ。

 カチカチっと耳障りな音を鳴らしながら、人骨が次々と湧いてくる。

 一本や二本ではない。

 視界のあちらこちらから、人骨が数百本単位でわらわらッと出現する。

 やがて骨は数か所に集まると、見えない誰かがパズルでも組み立てているかのように、お行儀よく組み上がっていった。

 こうして出来上がった見事な人体骨格は、すぐさまよろよろと歩きだす。


 ……スケルトンだね、どう見ても。

 人骨の魔物なんて言ったら、こいつぐらいしか思い当たらない。

 他にもリッチとか高位の連中もいるけど、こんな十把一絡げな感じで生まれてくるのはこいつだけのはずだ。

 ここはどうやら、谷底へ転落した人々がスケルトンとして再生するポイントらしい。

 先ほどから感じている嫌な雰囲気も当然だ。

 スケルトンが湧いてきてしまうポイントというのは、負の魔力が溜まりまくっているのだから。


 ……となれば、私の正体は一つしかない。

 認めたくない。

 冒険者として、あいつらに気持ち悪さを感じていた身としては絶対に。

 だけど、だけど……それしか考えられないんだよね、もはや。

 誠に遺憾ながら、現実とそろそろ向き合わなきゃいけない。

 逃げたところで、どうしようもなさそうだしね……。


 私、シース・アルバランは実に残念なことに――スケルトンになってしまったようだ。


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