第十八話 大いなる骨の可能性
……勝った。
あのとんでもないデカブツを相手に、勝った!
勝ってやったわッ!
おぼろになっていた意識が、ゆっくりと戻ってくる。
周囲を見渡せば、キングの屋敷どころか集落全体がすっかり焼け野原となっていた。
火の粉が飛び散り、結局、全部燃えてしまったようだ。
ゴブリンたちもすっかり逃げ出したようで、あたりには全く人気がない。
……ちっさくなったわねェ。
視線を下ろせば、そこには完全に燃え尽きてしまったキングが居た。
たっぷりと付いていた脂肪が綺麗に燃えてなくなり、一回り以上も縮んでいる。
真っ黒になった皮膚に恐る恐る触ってみれば、パラパラと崩れ落ちてしまった。
完全に乾いてしまったその感触は、さながら砂の人形のようである。
私の予想だと、この胸の奥辺りに……あった!
でーっかい魔石ッ!
スケルトンウォリアーの時の五倍くらいはあるわね!
拾い上げるとずっしり重く、手を持っていかれそうなほど。
鉄塊……いや、金塊みたいな重さだ。
掌いっぱいの金塊なんて、今まで持ったことないけどさ。
さてと、今日のところはこれだけ持ってトカゲの洞窟へ帰ろう。
キングを倒したしまず大丈夫だと思うけど、あんまり長居するとゴブリンたちが戻ってくるかもしれない。
……ん、んーッ!!
骨の身体と言えども、流石にあれだけの炎に炙られるのはきついか。
全身からポキポキッと、ちょっとばかり怖い音がする。
このまま過ごしていたら、何かの拍子に骨折してしまいそうだ。
とっとと魔石を食べて、進化しなければ!
進化で損傷が回復するかは分からないけれど、このままだといかにもマズイ。
…………ッたァ!
小指が、足の小指がやられたッ!!
歩き出そうとした矢先に、小指がポロッと逝ってしまった。
この身体が受けて居るダメージは、どうやら私自身が想像しているよりもずっと大きいらしい。
そりゃ、ダメージ受けるだけのことはしたけど……!!
一刻も早く戻らないと、ヤバいッ!!
……それから洞窟までの道中は、あまり良く覚えていない。
気が付けば私は、例の洞窟の入口に立っていた。
満身創痍。
いつバラバラになってもおかしくない身体を、よろよろと壁に向かって横たえる。
……はあ、はあ。
疲れ知らずのはずだというのに、荒い息が漏れる。
死ぬか進化するか、道はもう残されていない。
もしキングの魔石を食べても進化しなかったら、諦めるしかないわねこりゃ。
重くてしょうがない魔石を持ち上げると、口へ放り込む。
それを無理やりに飲み干した瞬間、喉の奥で魔力が爆発した。
旨いなんてもんじゃない!
言い表しがたいほどの衝撃に、身体全体がドンッと跳ねる。
莫大な魔力が見る見るうちに全身へと行き渡り、体の構造を急速に作り替えていく。
これが……進化ッ!
何と、暖かで心地よい感触だろう。
てっきり激痛が走るものだとばかり思っていたけど、まるでその逆だ。
全身がほのかに暖かく、風呂にでも入っているかのよう。
あまりの気持ちよさに力が抜けて、自然と表情が緩んでしまう。
身体が光り始めた。
蛍をかき集めたような燐光が、骨という骨から放たれる。
やがて変化が始まった。
まずは、傷ついていた箇所が見る見るうちに修復されていく。
ひび割れが治り、欠けていた部分がゆっくりと生える。
続いて全身の骨が、沈んだ銀色へと変化した。
これは、スケルトンウォリアーへの進化か?
そう思っていると、身体の変化はそれだけにとどまらなかった。
銀の輝きが見る見るうちに強まり、やがて黒鉄へと反転していく。
さらにそこへ紅が加わり、最終的に血を固めたような深紅となった。
これが、私の新しい体?
色が変わっただけのような気がするけれど……。
というか、こんなスケルトン居たっけ?
モンスターにはそれなりに詳しいつもりだけど、深紅のスケルトンなんて初めて知った。
もしかしなくても、結構な貴重種なんじゃないだろうか?
こういう時は、大百科先生に聞こうっと。
スケルトンのページから、派生種を順繰りに捜して……あった!
『スケルトン・ヴァーミリオン
脅威度:Cランク
深紅の骨格を持つ、不死族のモンスター。
卓越した武人および魔導師の骨から生まれるとされており、その実力は相当に高い。
人間に近い戦い方をすることから、対人戦に慣れていないと苦戦は必須。
別名「冒険者殺し」とも呼ばれており、スケルトンだと思って油断すると痛い目を見るので注意が必要だ。
魔王戦争の際に英雄たちの骨から大量のスケルトン・ヴァーミリオンが産まれたとされているが、近年では目撃例が減っている。
出現率が下がった原因として、冒険者の実力低下が挙げられることもあるが真偽のほどは不明』
おお、かなり強そうな種族になれたじゃない!
これはあれかな、私が弱くても才能にあふれた冒険者だったからなれたってことか?
死して才能が開花するって、何かカッコいいわね!
悪くない気分だわ……へへッ!
このペースで進化していけば、すぐに吸血鬼にでもなれちゃうんじゃないの!?
喜びのあまり、どこかオッサンのような笑い方をしてしまう私。
そうしていると、不意に意識が遠のいていった。
これは……進化するのにエネルギーを使い切っちゃった的な?
いきなり意識が遠のくって、ちょっとこま――。
なすすべもなく倒れた私は、しばらくの間、強制的に眠るのだった――。
主人公、赤くなりました。
これから本格的に物語も進んでいきますので、よろしくお願いします!




