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第百一話 飛べ!

「第五階層への入口か……。言われてみればな」


 腕組みをすると、深く考え込み始めるディアナ。

 どうやら今の今まで忘れていたらしい。

 まったく、一番重要なことだってのに……。

 能天気というか、何というか。


『でも、ベルゼブブを倒しても、それらしい場所なんて見つからないのですよ?』

「今までのことを考えると、あいつが関係してそうなのは間違いないんだけどねェ」

「ううむ、こうなったら……第四階層全体を片っ端から調べるしかないのではないか?」

「この階層を?」


 サラッと言ってのけるディアナに、思わず渋い顔をする。

 ほとんど何もない場所とはいえ、広さはこれまでの階層とさほど変わらない。

 それを全部捜すとなると、かなり骨が折れるはずだ。

 なにせ、端から端まで歩くだけでも三日ぐらいはかかりそうだからねェ……。

 ちょっとした国ぐらいの広さはある。


「それはちょっと……。ここ、半端ない広さよ?」

「それもそうなのだがな。やるしかないだろう」

「そう言われてもね、当てもなく捜索するのはちょっと無理よ」

「むむむ…………そうだッ!」


 ポンッと手を叩くディアナ。

 脳筋のこいつが何かを思いつくなんて、嫌な予感しかしないわね……。

 自然と背筋がゾワゾワッとする。

 休まなければそのうち何とかなるとか、そんな感じのことを言いそうだ。

 ディアナって、精神論とか大好きだからなあ。


「飛べばいいのだ!」

「…………やっぱり!」


 何を言い出すのかと思えば、そう来たかッ!

 想像の斜め上を行くディアナの発言に、思わずひっくり返ってしまう。

 脳筋どころか、頭の中は完全にスッカラカンなんじゃないのかしら……?

 もしくは、ギャグの経典でもしまってあるとか。


「あのねえッ! 私たちは鳥じゃないのよ! 私、飛べるんだよって叫んだところで、人は大地から離れられないのッ!」

「ふ、甘いなシース」

「何がよ。まさか、精神力が足りないとか言うんじゃないでしょうね?」


 私が目を細めて睨むと、ディアナはチッチと指を振った。

 上から目線で「お嬢ちゃん、分かってないな」とでも言いたげな雰囲気だ。

 そして得意げに笑みを浮かべると、言う。


「ほら、ここの階層に来た時のことを思い出すんだ」

「ここへ来た時? えーっと……」


 軽く天井を見上げながら、ちょうどひと月ほど前のことを思い起こす。

 あの時は確か、タナトスを倒してすぐにこの階層に続く穴へと飛び込んだのよね。

 床が崩れそうになって、息つく暇もなかったのは覚えてる。

 それで轟々と風の吹く縦穴を抜けて、溶岩に落っこちる寸前で上昇気流に受け止められた……って!

 そうか、なかなか良い考えたじゃないッ!


「なるほど! 溶岩からの上昇気流を使うのねッ!」

「そうだ! 凧でも作れば、空を飛べること間違いなしだぞ!」

「いいわね! でも、材料はどうするの?」

「蝿どもの羽を使えばいいのだ。山に行けば、まだ落ちているだろう。あれなら軽くて丈夫だから、良く飛ぶ凧が作れるぞ!」

「おおッ!」


 ディアナが、あのディアナが冴えてるッ!

 ゴホッ、ゴホッ!

 驚きすぎて、ちょっとばかし咳き込んじゃったわッ!

 まさか、こんな良いアイデアを出してくるとは。

 これは彼女に対する評価を、修正しないといけないかもね。

 っと、その前に……。

 ディアナのおでこにそっと触れてみる。


「む、何だその手は?」

「熱でもあるんじゃないかと思って」

「あるわけなかろう! まったく、私だってたまには頭を使うんだぞッ!」

「ああ、ごめんごめん! でも意外よ! よくそんなこと思いついたわね!」

「空を飛ぶのは、私の幼いころからの夢だったからな。昔はよく、背中に羽をつけて飛び降りたものだ」

「……そ、そうなのね!」


 なんか、聞いてはいけないことを聞いたような気がするッ!

 ディアナの名誉のためにも、このことは秘密にしておいた方がいいわね……。

 人にこんなこと知られたら、ただでさえ残念なディアナのイメージがさらにとんでもないことになっちゃう!


「なんか、ずいぶんな顔をしてるな?」

「な、何でもないわ! 空を飛ぼうとするちっちゃい頃のディアナを想像してさ、微笑ましいなって」

「何か気になるが……良しとしておこう。それより早く、山へ行こう! あんなもの持っていく魔物は居ないと思うが、早めに回収した方がいい」

「そうね! さっさと行きましょうか!」


 タンッと床を叩くと、そのまま立ち上がって入口へと向かう。

 ディアナも、すぐさまその後を追いかけて来た。

 こうして二人で洞窟を出た私たちは、すぐさま火山へ歩く。

 やがて山の斜面に達すると、光る羽がそこら中に落ちているのが見えた。


「ほえー! 戦っている最中は気づかなかったけど、ずいぶんたくさん落ちてたわね」

「ああ! これだけあれば、材料としては十分だな!」

「よーし、では骨組みを作って……」


 持ってきた魔物の骨を組み合わせて、四角い枠組みを作る。

 そこに集めた蝿の羽を次々と貼り付けていった。

 流石は、伝説の魔族と呼ばれた者の羽だけのことはある。

 とんでもなく薄くて軽いのに、手で引きちぎろうとしてもビクともしない。

 蝿の羽だと思うと何だかなって部分はあるんだけど……凧の材料としては、確かに適しているわね。

 見た目とか、気にしなければだけど!


「出来たッ!」

「おお、良い仕上がりじゃないか!」


 作業すること数時間。

 出来上がった凧を持ち上げると、なかなかの大迫力だった。

 何せ、人を飛ばすためのものである。

 大人が四人ぐらい、楽に寝転がれる大きさがある。

 蝿の羽も、それなりに上手くごまかしたので透明な膜にしか見えない。

 ちょっとばっちい気はするけど、ま、許容範囲でしょ。


「さあて、これを飛ばして空から探れば早いわね!」

「ああ! それで……どちらが飛ぶんだ?」

「そんなの、言い出しっぺのディアナに決まってるじゃない!」

「え? わ、私がか!?」


 そう言ったディアナの顔は、やけに青ざめていたのだった――。


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