第百話 自分語りって長くなるわよね!
「我がアルバラン家は結構大きな商家でね。国が絡んでくるような大商いとかもしてたわ。まー、はっきり言ってかなりのお金持ちね」
「意外だな……。お嬢様育ちだったのか」
『得体の知れない野生児だと思ってたのですー』
「失礼ね! これでも子どもの頃は、ドレスを着て語尾に『ですわ』ってつけてたりしたのよ?」
私がそう言うと、ディアナはすぐさま腕組みをして考え込み始めた。
薄く開かれた唇から「ですわ、ですわ」とつぶやきが漏れる。
やがて彼女は真ん丸な目で私を見つめると、いきなり破顔一笑した。
「シースが『ですわ』か! ちょっと考えてみたが、似合わんな!」
「もう、それぐらい自覚あるわよ!」
「でもなぁ……!」
『僕にもちょっと、想像できないのですー! 一度、ですわって言ってみてほしいのですよ!』
「絶対言わないからねッ! ったく、重要なのは家族のことでしょ? 私がお嬢様かどうかなんて、関係ないじゃない」
頬を膨らませると、腹を抱えているディアナからプイッと視線を逸らす。
こいつらの中で私のイメージっていったいどうなってるのかしらねッ!
もしかして、生肉をバリボリ食べる蛮族みたいな感じに思われてるのか……?
まったく失礼なやつらね!
前までは「シースちゃんはお行儀いいわね」って、おばちゃんたちから評判になるぐらいだったんだから!
……このダンジョンに来てからは、背に腹は代えられないからいろいろしてるけどね。
「い、家柄とかは相当に重要だぞ! 先祖にもしかしたら聖女の資質がある人物がいるかもしれないからな! 本当だ!」
「どうかしらね……? ディアナが、私の家のこと気になってるだけじゃないの? 噂好きなおばさんみたいにさ」
「お、おばさん!? この私がか!?」
ビクンッと肩を震わせ、盛大に戸惑った声を上げるディアナ。
いやいや、年齢的に考えればおばあちゃんなんてもんじゃないからね?
歳を取りすぎてミイラになってるぐらいのはずよ。
ま、見た目は二十歳そこそこぐらいにしか見えないけどさあ……!
そこまで動揺されるとぶりっ子めいたものを感じてしまう。
そんなキャラじゃないことぐらいは、分かってるんだけどねェ。
「……まあまあ、落ち着いて。えーっとそうね、うちの先祖で聖女っぽい人か。商売を始める前は騎士の家だったって言うけど、家系図とかは残ってないからなあ。何代か前の先祖が酷い遊び人でね。苗字だけは残ったけど、品物はみーんな売っぱらっちゃったのよ」
「ほう。さすがシースの御先祖だな……」
『シースにも、ちゃんと受け継がれているのですー』
「ちょっと、それどういう意味よ!」
「た、他意はないぞ。父や母はどうなのだ、何かないのか?」
「特にはねえ……普通の人よ。強いていうなら、おじいちゃんが凄い変わり者ってところかしら」
おじいちゃんの赤ら顔を思い出しながら、ふうっと息をつく。
冒険者になってから見てないけど、元気してるかなあ。
殺しても死なないような人だから、生きてることだけは間違いないけど。
「変わり者?」
「ええ。我こそは伝説の騎士の生まれ変わりとかあっちこっちで言いふらしてるわ」
「それ、何か根拠はあるのか?」
「それがほとんどないから変なのよ! そのくせ、精神力とか強さとかが半端じゃなくってさ。私も、おじいちゃんにだけは頭が上がらないわね。唯一の天敵よ」
「シースがそう言うか。さぞかし凄いのだろうな……!」
「そりゃもう。でも別に、仲が悪いわけじゃないのよ。良く一緒に出掛けたしね。思い出すなあ……」
天を仰ぐと、顎に手をやって物思いにふける。
おじいちゃんには、本当にいろいろなことに連れて行ってもらったものだ。
品物の買い付けから、モンスターの討伐。
果ては……行きつけの怪しい酒場まで。
特に、酒場はいろいろな意味で凄かったなあ。
際どい格好をした女の子が接待してくれる店に、十代前半だった私を堂々と連れて行ったのよね!
それで酒まで飲ませようって言うんだから、流石の私も勝てないわ。
「……うーん、我が家について考えれば考えるほど聖女から遠ざかるわね。孫娘の前で堂々と尻を揉むおじいちゃんが、聖女の属性なんてもってるわけないわ」
『それはむしろ、魔の属性を持っている気がするのですよ!』
「ううむ、聖女どころか女の敵であろう……」
青ざめた顔をすると、すかさず胸をガードするディアナ。
実にいい判断だ、おじいちゃんならディアナの胸は絶対狙うだろうからねえ。
孫娘である私の胸や尻ですら狙ってくるし。
「ま、これはあれよ。聖女の資質って言うのはさ、家系とかに由来するものじゃないんだわ。私個人の清らかな心と行いの正しさがこの結果を招いたのよ! あと、しいて言うなら聖女にふさわしい美貌を持ち合わせてたってところかしらね!」
「……本当にそうなのだろうか」
『そうやって言うところが、うーん……。何か他に理由がある気がするのです』
「もうッ!! 実際になった以上は、そういうものってことよ! ふ、あんたたちには私のすばらしさは分からないってことね……」
まったく、これだから感性がお子ちゃまなのはいけないのよ。
私はやれやれと両手を上げる。
そして、石のテーブルをダンッと叩くと力強く言う。
「それよりも! 今は考えないといけないことがあるわッ!!」
「ん、何だ?」
「どうやって第五階層に行くかよ! ベルゼブブを倒したけど、ちっとも道が開かないじゃないッ!!」
私がそう言うと、ディアナは忘れていたとばかりに手をついたのだった――。
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