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第九十九話 私の意外な資質?

「これは……ッ!!」


 どこから血が出ているのか。

 指で辿っていくと、本来なら眼があるくらいの位置で感覚が消失した。


「目が、目がァッ!!」


 ……ない!

 どこを触っても目が、目がないッ!!

 顔の真ん中に、ぽっかりと空洞が出来ている!

 そこから血が少しずつ溢れ出して、頬を濡らしているのだ。

 いったいこれはどうしたことだろう!

 動揺しながらもすぐさま滴を拭きとるが、出血は止まらない。

 拭いても拭いても、すぐに溢れ出してきてしまう。

 やがて諦めた私は、仰向けに倒れてしまった。


「ぐッ……! 何なのよこれは!」

「……どうやら、眼球がないようだな」

「そんなことは分かるわよ! 問題は、どうしてないかってこと!」

『どうしてって、それは人じゃないからなのですよー』


 ……なるほど、ごもっとも。

 私は感心してポンッと手を叩く。

 そもそも人間じゃないなら目が無くても不思議ではないか。

 って、それを言い出したらおしまいよ!


「ああもう、そうじゃなくて! いや、そうだけれども! 何でこうなっちゃうのかなあ……」

「仕方ないのではないか? だいぶ人間に近づけたから、それで良しとしておけばいいだろう」

「でも、これじゃ街には行けないわよ! 血も止まらないし!」


 そりゃ、怪我をして目を失ってしまった人ぐらいは居るだろうけどさ。

 血がずーっと流れっぱなしって人はちょっとね。

 明らかに普通じゃないのが丸分かりだ。

 悪目立ちするにもほどがある。


「眼帯でもつけたらどうだ? 血も、こまめにふき取れば……何とかなるだろう」

「無理よ。しょっちゅう血を拭いてるなんて、誰がどう見たっておかしいわ」

『仮面をつけて、血を流してることをわからないようにすれば良いのでは?』

「流れる血をどうするのよ、すぐに仮面がびしょぬれになっちゃう!」

「怪我をしていることにすれば――」

「そんな大怪我、すぐに病院送りにされるわね。兵士を呼ばれるわ」


 私が素早く言い返すと、ディアナの表情が大きく曇った。

 口の動きが、一瞬だが止まってしまう。


「……難しいな! 精霊さん、何かいいアイデアとかはないのか?」

『僕にはちょっと、いい案を思いつかないのですー!』

「うーむ……」


 ディアナは剣を脇に置くと、腕組みをして考え込み始めた。

 眉間にしわが寄り、喉の奥から呻きが漏れる。

 だがすぐに、頭から湯気を出した彼女はポテッと倒れてしまった。

 仰向けになった彼女は、いっそすがすがしいくらいの顔をして言う。


「ダメだ、思いつかん!」

「……二十三秒か。ディアナにしてはよく考えてくれた方だわ」

「秒数を数えるんじゃない! ええい、やはりもう一度進化をするしかなさそうだ! それしかないッ!」

「……残念だけど、そうみたいね。もうこうなったら仕方ないわ、とりあえず私が何になったのかを確かめましょ」


 やれやれと肩を落とすと、壁際に置かれた布袋へ身を寄せる。

 そのまま手を突っ込み、中から分厚い本を取り出した。

 おなじみの魔物大百科先生だ。

 えーっと、上位不死族のページは……。

 あったあった!


「特徴的に合致しそうなのは……血塗れ聖女ブラッディ・マリアかしらね」

「血塗れ聖女? それはないんじゃないか?」

『そうなのですよー! 聖女なんて、シースに限ってありえないのです!』

「……なに、その呆れた感じは」


 血塗れ聖女と言った途端に、否定的な雰囲気を漂わせる二人。

 ディアナなんて、笑いを必死で押し殺しているようにすら見える。

 こめかみのあたりが、不自然にぴくぴくと震えているのだ。

 そんなに、私が聖女って言うのが不思議なのかしらね……!?


「ほれ、読んでみなさいよ。今の私の特徴と合致するから」

「なになに……。血塗れ聖女、脅威度Sランク。かつて聖女と呼ばれた者が神の無力さに絶望し、堕落の果てに不死族へ至ったとされるモンスター。世界の醜さを拒むがゆえに眼球が無く、血の涙を常に流している。肉体を保つだけの莫大な魔力を有し、さらに見た目とは裏腹の身体能力をも持ち合わせる。また、不死族の弱点である聖属性を一切受け付けない。討伐は非常に困難であり、国家の存亡に関わる……か。なるほど」

『確かに、今のシースの顔と特徴が一致するのですよー』

「だがなあ……」


 どっこいしょと身を乗り出すと、ディアナは私の目をまっすぐに覗き込んできた。

 まだ私のことを疑っているのだろう。

 形の良い眉が、ググッと寄せられている。


「な、なによ」

「本当に、血塗れ聖女なのか? どうにも疑わしいな」

「じゃあ、今の私は何だっていうのよ? 本の特徴とぴったり合うんだから、それしかないんじゃない?」

「そうなんだがな。進化すれば確かに強くなれるが、もともと持っていなかった聖属性をいきなり獲得するなんてことはほぼあり得ないんだ。不死族と聖属性は本来対立するものだからな。だから、もともと素養がないと血塗れ聖女に至ると言うのは考えにくい」

「それってつまり、素質が無きゃ今回の進化はありえなかったってこと?」

「その通りだ」

「なるほどねえ……」


 進化して突然変異したところで、方向性が全く別のものにはなれないってことか。

 そう考えると、私にはもともと聖女っぽい資質が何かあったってことになる。

 でも私って、神様とか教会とか聞くと背中がムズムズしてきちゃうタイプだったからなあ……。

 心の清らかさには自信あるけど、聖女って柄ではあんまりないわね。

 聖属性の魔法も使ったことがないと言うか、使えなかったし。


「何か、思い当たることはないのか?」

「さーっぱり。冒険者なんて血なまぐさいことやってたし。あんまり信心深くもないかな。神の教えとか堅苦しいったらありゃしないわ」

「やはりな……」


 しみじみとした顔つきで、何度か頷くディアナ。

 やはりなって何よ、やはりなって。

 私ってそんなに粗暴に見えるのかしら?

 乙女として、そこまで堂々と言われるとちょっとくるものがあるわよッ!


『もしかすると、シース本人じゃなくて家族に原因があるとかです?』

「そういえば、シースには名字があったな。もしかして、由緒正しい一族だったりするのか?」

『気になるのですー! 教えるのですよー!』


 ……何だか、話の方向性が変わってきたわね。

 図々しいおばさんが、人の家庭事情を根掘り葉掘り聞こうとしてるみたいなノリだ。

 ディアナの綺麗な顔が、ほんの一瞬だけど中年太りしたおばさんに見えておもわずまばたきする。

 ……この二人、サッパリしているように見えてそういうとこ気にするわよね。

 ふうっとため息が漏れた。


「分かったわ。えーっと、我がアルバラン家は結構大きな商家で――」


 こうして、思わぬきっかけで私の自分語りが始まったのだった――。


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