第九話 スケルトンウォリアー
……はあ、はあ。
久しぶりに死ぬかと思った!
隠し部屋に戻り、穴をすっかり塞いだところで床にへたり込む。
全身を見渡してみれば、酸を少し浴びてしまったのかあちこち軽く溶けていた。
すぐに脆くなってしまうほどの傷ではないが、これはちょっと痛い。
進化すると、こういうの治ると良いんだけどな……。
というか、治らないと困る。
しかし、惜しいところだった。
個々の力量では、もうほとんど勝っていたんだけどね。
ネックだった貧弱な腕力も、かなり克服できていたし。
でもあの集団戦術は予想外だ。
ダンジョンで生活してるだけあって、外のゴブリンよりは強いのかもしれない。
冒険者としてそこそこ生活していたが、あんなゴブリンは初めてだ。
噂でも聞いたことがない。
あれをやられてしまうと、ナイフではどうしようもないかな。
ただでさえ、槍やこん棒の射程はずるいのだ。
それをフルに活用されてしまうと、どうにもならない。
こちらも飛び道具は持ってるけど、連射が効かないし、ある程度距離を詰められると対応不能だ。
切れ味もなかなかいいし丈夫だから気に入ってたけど、やっぱりナイフ以外のメイン武器が居るかねえ……。
剣の一本でも、どこかに落ちていればいいのだけど。
このダンジョンに、果たしてそんなものあるかどうか……。
未発見のダンジョンだし、少なくとも冒険者の落とし物には期待できない。
となると、ゴブリンあたりから武器を奪うしかないか。
でもゴブリンの武器って、質が恐ろしく悪いのよね……。
武器を買う金を惜しんでゴブリンの槍を使おうとした知り合いがいたが、一回で使い物にならなくなったと聞く。
それに、ゴブリンを倒すためにゴブリンの武器を奪うのでは本末転倒だ。
こうなったら、近接武器も自分で作るしかないか!
スリングだってなんとか作ったのだし、簡単なものぐらいならば何とかなるだろう。
ゴブリンのものを奪うのと大して変わらない気もするが、多少はマシなものが造れるはず。
不器用だけど、流石にゴブリンよりは手先が器用……だからね!
うん、器用に違いない!
そうと決まれば、早速材料を調達しなければ。
ここらで武器の材料に使えそうなものと言ったら……御同輩の骨かな。
一番長い大腿骨に石でもつけてやれば、それなりの武器にはなるはずだ。
よし、骨を捜しに行こう。
隠し部屋を出て、通路をまっすぐ北へ。
その先の角を西へ曲がったところに、いつもスケルトンが倒れている広場がある。
そこへ向かうと、八角形をした広場の中心付近にたくさんスケルトンが折り重なっていた。
……いつもより、かなり数が多いわね。
どうやらゴブリンたちが、ずいぶんと精を出してスケルトン狩りをしたらしい。
最近何でそんなにやる気があるのかはわからないが、ご苦労なことで。
「……カッ!」
骨の山を漁っていると、ふと眼に光が飛び込んできた。
慌てて周囲の骨をどかすと、骨の隙間から剣が出てくる。
やったーッ!!
生前の武器を、そのまんまここまで持ってきた骨が居たらしい!
なんという幸運、神は骨になった私を見捨ててはいなかった!
早速剣を引き抜こうとする……あれ?
よくわかんないけど、やけにおっもいわね。
両手で剣の背をガッチリつかむと、とにかく力任せに引っ張る。
よいしょ、せーやッ!!
頑張っていると、やがて骨の山の中から一本の腕が出て来た。
その手を見れば、五本の指がしっかりと剣を捉えて離さない。
「スーッ……!」
死してなお武器を離さないとは、見上げた武人である。
でも、もう死んじゃってるあんたに武器は必要ないでしょ!
その剣は今を生きる私にこそ必要なものなのよ!
よこしなさい、というかよこせッ!!
さらに力を入れようとしたところで、骨の山がガタガタと崩れ始めた。
やがてその中から、一体のスケルトンが身を起こす。
これまで見たスケルトンとそいつは、明らかに雰囲気が違っていた。
骨格が全体的に太く、骨がつやつやと光っている。
骨全体に、メッキでもしたかのようだ。
こいつ、スケルトンウォリアーだ!
輝く骨を持つ、スケルトンの上位種の一つである。
通常のスケルトンよりも格段に戦闘力が高く、身体も丈夫。
さらに武器を扱うだけの知恵がある。
さっきから私が引き抜こうとしていた剣は、どうやらこいつの持ち物のようだ。
「ガガガッ!」
うおっと!?
私が手を離すよりも早く、強引に剣が引き抜かれる。
武器を奪い返したスケルトンは、それを腰に構えると私の方を睨みつけて来た。
同族だけど、もはや完全に敵って見なしたわけね。
そっちがその気なら、その剣、あんたを倒して奪ってやろうじゃない!
山の中から状態の良い骨を二本選ぶと、両手で構える。
スケルトンウォリアーはスケルトンの上位種。
さらにちゃんとした武器まで持っているとなれば、まともに打ち合って勝てる相手ではない。
二刀流の手数で圧倒して、ちまちまとダメージを稼いでいくしかないだろう。
――大丈夫、これぐらいの差なんていつものこと。
戦いにおいて、小柄な女の私が力や体格で勝っていたことはほとんどない。
モンスター相手はもちろん、人間が相手の時もそうだ。
ゆえに、デカい奴との戦い方は心得ている。
だから大丈夫、勝てる。
暗示をかけるかのように、そう自分で自分に言い聞かせる。
「ガゴゴゴッ!」
「カカッ!」
上位種VS下位種、骨同士の戦いが始まった――!




