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セーブ&ロードのできる宿屋さん ~カンスト転生者が宿屋で新人育成を始めたようです~  作者: 稲荷竜
五章 ソフィの『おばけ大樹』探索

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79話

「では、『おばけ大樹』に入る方法ですが」

「はいです」

「今のあなたでも、森で見張りをしている方々の監視に捉えられず進むのは難しいと、俺には思えます」

「はいです」

「なので、強行突破します」

「はいです?」

「真っ直ぐ進んで、普通に見つかって、走り抜けましょう。俺たちの脚力でしたら射かけられる矢より速く『おばけ大樹』に入れるでしょう」

「……」

「ここから、全速力で五分も走り続ければ余裕ですね」

「…………」

「では、行きますか」



 翌朝。

 しばしの移動をしたあと、そんな会話をした。



 目の前には『エルフの森』がある。

 うっそうと木々が生い茂るだけの場所。

 ……その昔、ここで生まれ育った時期があった。

 そして、ここから飛び出した時に、森を振り返ったことがあった。


 郷愁。

 二度と戻れないという、愛惜。

 あとは、少しだけ、この森に住まうエルフたちへの、恨み。

 そんなもので、当時は、たいそう特別な景色に見えた。


 でも、今見ると、普通の森にしか見えない。

 心が壊れてしまったのだろうか。

 あるいは。

 最初からなにも特別なんかではないと。

 色々とおかしなことをしてきたお陰で、故郷の森を冷静に見ることができるようになったのかもしれない。


 奧も見えない森の前。

 姿はおろか気配さえうかがえないが、見張りのエルフが樹上に待機していることだろう。


 見つかれば、矢を射かけられる。

 それなのに。

『全力で走れ』

 アレクの示した行動指針は、それだけだった。



「無理があると思うですが……それに、エルフを走って振り切ることができても、『おばけ大樹』の中まで追いかけてこられたら捕まるです。それとも、神格化された『おばけ大樹』ならエルフたちも入ってこられないという判断なのです?」

「その判断もないではありませんが……まあ、どうにかしますよ」

「……心強すぎて恐ろしいです。あの、でも、噂ですと、アレクさんはあまり過剰に宿泊客に手を貸さないという話です」

「そうですね。なので『おばけ大樹』の探索は一切、手を貸しません」

「エルフの森への侵入を手伝ってもらうというのはアレクさんの行動方針と違うのではと心配なのです。それとも……それとも、わたしにだけ、多く力を貸してくれるというような、事情があったり……?」

「そういうのはありません」

「…………じゃあ、なんでです?」

「ソフィさんは、『ダンジョン攻略』と聞いてなにを連想されますか?」

「はい? だ、ダンジョン攻略、です……?」

「そうですね。どのようなことを想像されます?」

「え、えっと……『モンスターとの戦い』『依頼品の探索』……あとは『ダンジョンマスターとの戦闘』…………です?」

「そうですね。あとは『マッピング』『トライ&エラー』『レアアイテム掘り』『数日間こもって経験値稼ぎ』『無我の境地でエネミー狩り』などでしょうか」

「マッピング以外なにもわからないです……」

「ですので、大丈夫ですよ」

「……ですか……?」



 発言の意味は、不明だった。

 でも、彼がそう言うならば間違いはないのだろう。


 ふと、アレクは思い出したように「そうだ」と言う。

 そして、背負っていた包みを一度下ろして、なにかを取り出す。



「こちら、『おばけ大樹』内部のマップになります」

「そ、そういえば作ったとか言ってたですね……ありがたく受け取るです。……でも、本当に今のわたしで大丈夫ですか?」

「と、おっしゃいますと?」

「レベル的には、大丈夫と判断したのだと思うです。でも……神格化されてるですから。祟りとかそういう、神様に触れる時には、なにか、あったり」

「マップをごらんください」

「は? はあ、わかったです……えっと、それなりに複雑ですが、最奥部に行くには右ルートと左ルートの二本みたいですね」

「はい。左が宝は多いがモンスターも多いルート、右が宝は少ないが道も単純でモンスターも少ないルートになっています。探索とのことで両方回るのでしょうけれど」

「です」

「どうでしょう、内部は普通のダンジョンに見えませんか?」

「……見えるです」

「神格化されているとのことですが、王都周辺のものと比べればやや難易度が高いダンジョンという程度でしかありません」

「……」

「神は人の噂が創り出す幻想にすぎないと、俺は思いますよ。それでもあの『おばけ大樹』がなんらかの神そのものかもしれないとおっしゃるのなら、一つ、質問が」

「なんです?」

「その『神』は俺より強いでしょうか?」

「…………」

「いるかもしれないし、いないかもしれない『神』よりは、さすがに俺の方が強いという自負があります。ここまできて、そのような幻想に踊らされるよりは、今まであなたがしてきた修業の成果を信じていただいた方が、有益だと、俺は思いますよ」

「………………そう、ですね。そうです。アレクさんの言う通りです」

「思いっきりやっちゃいましょう。今のあなたの弓ならば、神だって殺せますよ」



 たしかにそうだ、とソフィは思った。

 神がいかほどのものかは知らないけれど。

 きっとその脅威は、彼ほどではないだろう。



「……わかったです。覚悟は決めたです」

「結構。……まあ、俺も個人的にエルフの最長老様とはお話したいこともありますし」

「です?」

「個人的なお願いをしにね。あとはまあ……色々ですよ。あなたの話を聞いて気になったことがあるんで、確認をしようかと。さすがにエルフの森で活きるような伝手は、俺にもありませんからね」

「は、はあ?」

「とにかく、行きましょう。昨日色々大きな音も出しましたから、向こうだって『近くに誰かいる』程度の警戒はしているはずです。突入するなら早い方がいいでしょう」

「……そういえば、そうなのです。そんなこと考える余裕もなかったのです」

「余裕があっては修業になりませんからね」



 アレクが地面におろした包みから、なにかを取り出す。

 それは。

 銀の毛皮のマント。

 そして、不思議な意匠の仮面。


 それらを装備したアレクの雰囲気は、今までと少し違って見えた。

 今までは、ほんのわずかに見えそうで見えなかった感情らしきものが、一切感じられない。

 ソフィは怖くなって声をかける。



「あ、アレクさん?」

「はい? どうされました?」

「い、いえ、なんでもないです……えっと、その装備は?」

「これは装備と言うほどたいそうなものではないですよ。強いて言うなら……」



 彼は悩む。

 そして。



「拘束具、みたいなものでしょうか」



 相変わらず意味不明なことを言って。

『おばけ大樹』へと走り出した。

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