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セーブ&ロードのできる宿屋さん ~カンスト転生者が宿屋で新人育成を始めたようです~  作者: 稲荷竜
四章 トゥーラの近衛兵入隊

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65話

 ソレは混乱していた。

 扉を開いたのだ。

 見つかるのは、仕方がない。


 けれど、ここは王宮だ。

 警備も多く、女王の部屋までたどり着ける侵入者など、そうそういない。


 だから、近衛兵たちはきっと、自分の来訪に戸惑い、おどろくだろうと思っていた。

 しかも予告状まで出ているという話なのだ。

 きっと、演説会の時の襲撃を予想して、日付が変わったばかりの今は油断しているはずだった。

 だというのに――見事としか言い様のない、迎撃を受けた。


 ソレは己が優れた存在であると疑っていなかった。

 くぐり抜けた、いつ死んでもおかしくないような修羅場が、ソレの自信の源だった。



 だから、ソレは知らない。

 近衛兵たちはみな、『いつ死んでもおかしくないような修羅場』どころではなく、『必ず死ぬような修業』を終えた猛者たちだったのだと。



 予定外の出来事に、ソレはおどろく。

 けれど、すぐさま冷静な思考を取り戻した。


 近衛兵は、要人警護が仕事だ。

 つまり、要人が狙われれば、身を挺して守る。


 ソレはおどろきながらも、本来のターゲットに目を向けた。

 金銀財宝で散らかった部屋の中央。

 高級そうなソファに横たわる、うまそうな肉のカタマリ。

 女としても、きっと美味だろう。

 けれど、その命の味わい、失った時国民の心に開く空洞といったら――

 想像しただけで、たまらない。



 ソレは無骨なナイフを握る。

 おおよそ、刃物としての用途を為していない、分厚い金属のカタマリ。



 毛皮のマントをたなびかせ、ソファに寝そべったまま微笑を浮かべる女王へ攻撃を開始――

 する、と見せかけて。

 本当の狙いは、女王を守るため飛び出してくる近衛兵だ。


 狙い通り、近衛兵は女王を守ろうと動く。

 黒髪。

 小柄。

 きっとまだ、成人してもいない。

 ――その将来を想像する。

 明るく幸福な未来を思い描くことができた。

 だからソレは、女王と自分のあいだに割りこんだ近衛兵の首筋に、万感の思いをこめて、ナイフを突き立てようとする。

 しかし。



「お見通しであります!」



 美しい、紋様の刻まれた剣で、ナイフを阻まれる。

 まるで最初から、自分が狙われるとわかっていたかのような対応。


 ソレは混乱を強める。

 目の前の、まだ幼い近衛兵。

 彼女の動きは要人を守る者のそれではない。


 周囲から満遍なく迫る敵意を、敏感に察知する者。

 狙いが自分なのか、それとも他の誰かなのかを、鋭敏に感じ取る者。

 まるで。

 ダンジョンに挑む冒険者のような。



 二つの予想外。

 襲撃を予測されたこと。

 狙いを察知されたこと。

 そして。


 そして――三つ目の、予想外。

 近衛兵が。

 異常に、強い。



「……チッ」



 ソレは、襲撃前に立てたプランがなに一つ役に立たないと判断した。

 素早く撤退を開始する。


 近衛兵たちは、追ってこない。

 当然だろう。

 向こうは襲撃者が一人きりだとは考えていないはずだ。

 そして、主な任務は要人の警護である。


 だから女王の警備を薄くしてまでおいかけてはこないだろう。

 ソレはそこまで判断し、一目散に逃亡した。


 城内を通り。

 城を抜け。

 ねぐらへ帰るべく、走り続ける。


 自分を追う気配はない。

 今日の襲撃が失敗した理由は、あとでじっくり考えればいい。

 だから――帰ろう。


 勝手に予告状を出した師に、文句の一つも言ってやりたい。

 そう思いながら、ソレは駆ける。



 その後ろ姿を。

 音もなく、狐面をかぶった者が、追っていた。

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