48話
「それでは仲立ちはここまでということで、俺は外でお待ちしますね」
あっさりと。
裏切るようなことを言って、アレクは去って行った。
夜。
冒険者ギルド。
ギルドマスターの部屋。
書類と甘い香りのする煙で満たされた空間に、ドライアドが二人、向かい合う。
よく似た容姿だ。
褐色肌。
幼い体躯。
長すぎる髪。
髪色が白い方がホーで。
緑色の方が、ギルドマスターのクーだった。
クーは部屋の最奥にある椅子に、埋もれるように座っている。
無言で、髪の隙間からこちらをにらみつけるように見ていた。
ホーは後悔する。
やっぱり来るんじゃなかった、と。
自分が祖母を嫌っているのと同様――
祖母だって、勝手に出て行き、勝手に自身を恨んでる孫娘を嫌っているかもしれない。
質問は考えてきたのに、一つも口をついて出ない。
ようするに。
久々の会話が、怖かった。
二人のドライアドはにらみあう。
お互いに、目つきはよろしくない。
しばらく相手の隙を探すような沈黙が続き。
そして。
「あの」
「なあ」
二人は同時に口を開いた。
また沈黙。
それから、笑う。
「……なんだよクソババア」
「そっちこそ話があるなら先に言え」
しわがれた声で促される。
なので、ホーは切り出した。
「……聞かせろよ、あたしのママのこと」
「ふん」
「今まで、少しもあんたから、ママのこと聞かされてねーからさ」
「そっちが聞かなかったから言わなかっただけだよ。聞きたくねえのかと思ってた」
「聞きたくねーわけあるか」
「……自分を捨てた母親のことなんざ、聞きたくねえって、思ってるかもしれねえだろ」
「……」
「話してやるよ。聞きてえならな。あたしと人間のじいさんのあいだに産まれた、魔族の娘のことをな。その代わり、お前も聞かせろ」
「なにをだよ」
「うちから出てって、冒険者やって、アレクの修行を受けて、ダンジョンを制覇して……まあ全部色々だ」
「ギルドマスターとして孫の成果の確認でもしよーってか?」
「違う。……気になるだろ、孫の話は。祖母として」
「……」
「情報は知っちゃいるが、お前がなにを感じて、なにを思ったのかまでは、知らねーからな。教えろよ、生きた話を。聞かせてくれよ。孫の活躍を」
しわがれた声は言う。
ホーは。
初めて祖母が、自分と同じ、血の通った人に見えた。
ギルドマスターという、冷たく固い称号ではない。
そこには普通に、孫のことを心配する、祖母の姿があった。
だから気軽に。
ホーは、言う。
「長くなるぞ」
「かまうかよ」
「ひでー話になるぞ」
「なんだそりゃ」
「……まずは文句からだな。あのな、あんたが五十年前に定めたっていうダンジョンレベルを定める基準だが、アレが不完全なせいですげー苦労した」
「不完全じゃねーよ。だいたい対応できてんだろ」
「でもな、『暗黒空間』っていうダンジョンでな、くらくて、おもくて、どんどん、おもく、おもくなって、からだがね、おもく……」
「……辛かったんだな」
しわがれた声で、クーは同情する。
ホーはうなずいて、話を始める。
それは、ここに至るまでの物語。
無意味な強がりを重ねて、それを打ち砕かれて。
ようやく、自分の影と向き合ってみようと思うようになれた。
覚悟を得るための、つらい、三日間の話を、ホーはした。




