41話
――二回目。
「まだご満足いただけないでしょうから、もう一度、やりますか?」
「ふぁ? へ? あれ、あたし、今、死……」
「ロードされたので、命は大丈夫ですよ。それで、どうなさいます? もうやめますか?」
「や、やめ、やめねーよ! 今のはちょっと調子が悪かっただけだ!」
「そうですか。では、攻撃をどうぞ」
「やってやらあ!」
――三回目。
「おかえりなさい。さて、どうなさいます?」
「え、死……胸、穴……穴……」
「ああ、鎧に穴を開けてしまいましたね。勝負が終わったあと、必要であれば弁償します。それでどうします? 続けますか?」
「え? つづける? つづけるってなあに? ホーはね、もう、よくわかんないよ……」
「勝負ですよ。ご満足いただけるまで、何回でもお付き合いしますと、申し上げましたので」
「なんかいでも? なんかいでも?」
「そうですよ。ところでしゃべり方が変わっていますが、大丈夫ですか?」
「ハッ!? え、えっとね…………しょ、勝負中に敵の心配とは余裕じゃねーか……?」
「ひょっとして、普段の口調は無理をなさっているので? 冒険者をやっていると、乱暴な口調に憧れる方もいらっしゃいますので、ホーさんもそのタイプですか?」
「無理とかしてねーよ! あたしは産まれた時からこんな、えっと、うちのババアみてーなしゃべり方だ!」
「……そうですか。作戦タイムも必要でしょうし、どうぞ。そちらが仕掛けるまで、俺は動きませんから、ごゆっくり。何度やっても結果は変わりませんが納得までは試行錯誤も必要でしょうからね。やめたい場合は、そうおっしゃってください。どうぞ、無理をせずに」
「無理なんかしてねーって言ってんだろ! やるぞ! まだやる!」
――四回目。
「今回はちょっとロードまで時間がかかりましたね」
「腕、足、な、なく……血が、血が」
「ああ、鎧の手足部分が消滅してしまいましたね。先ほども申し上げましたが、必要であれば弁償させていただきますので、勝負のあと、おっしゃってください」
「あと? あとって?」
「あなたが満足されたあとですよ。それとも、もう負けて、修行に移りますか?」
「ま、負け、負けてねーよ! まだ負けてねーよ! だって生きて……あれ、でも、死んで? なんであたし生きて……?」
「どうぞ、ごゆっくり。お付き合いしますよ。何時間でも、何度でも。あなたの理解を得られるまでずっと。――そう、ずっとね」
「ひっ」
「やめますか? やめませんか?」
「来るな……来るな来るな来るな来るなあああああああああ!」
――五回目。
「あのね」
「はい」
「ホーね、おはなやさんになりたいの」
「そうなんですか」
「うん。おはな、きれいでね、すきなの。ドライアドはね、おはなさんのこえがきこえるって、おばあちゃん、いってたんだよ?」
「それは素敵なことですね」
「うん。そうなの。ね、おにいちゃんも、おはなやさん、すてきだって、おもうの?」
「はい。宿屋ですからね。花を店に飾る機会もありますし」
「うん! おはな、きれいだもんね。おはな、すき」
「それでどうされます? ご満足はされましたか?」
「まんぞく?」
「そうですよ。俺の強さをたしかめたかったのでしょう? それはもう充分かなとおたずねしているのですが」
「けんかするの?」
「はい。そのようなご依頼だったかと、思いますが」
「けんかは、やだよ……こわいもん。ぼうけんしゃさん、みんな、らんぼうで、きらい。おはな、すき」
「では、これでご満足いただけたということでよろしいですか?」
「うん。よくわかんないけど、いいよ」
「そうですか。では、あなたの回復を待って、修行に移りましょう」
「うん!」
「それまでお花屋さんでも見ていましょうか」
「いいの!? ホーね、おはな、だいすき!」
「そうですか。よかったですね」
「うん!」
こうして。
ホーは四回の敗北を経て、修行を受けることになった。




