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セーブ&ロードのできる宿屋さん ~カンスト転生者が宿屋で新人育成を始めたようです~  作者: 稲荷竜
十五章 メリンダとリンジィの償い

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214話

 今回のことで一番救われたのは自分なのだろう。

 リンジィはそう思っていた。


 ダンジョンを制覇して帰れば――

 ラウラと会うことができた。


 なにを話したかは覚えていない。

 言葉にならなかった気もするし、色んなことを話した気もする。


 謝ったことだけは覚えてるけれど、必死で、いっぱいいっぱいで――言いたいことがあふれ出しそうで、たくさんありすぎて喉が詰まって、見つめ合った瞬間に泣いてしまった。

 彼女じゃない。

 自分たちに罰を与えたのはラウラじゃないと、見ただけで確信した。


 なぜ突然会えたのか。

 その詳しい理由はわからないが――アレクに事情を教えた途端に事態が動いたことを考えれば、彼がなんらかの遠因、あるいは原因であるような気はした。

 だから――



『銀の狐亭』。

 ダンジョンでどの程度かかったか、ラウラと再会してどのぐらい話したか、詳しい時間はわからないが――とにかく、今は夜。

 カウンター内部で豆を炒るアレクに、リンジィは話しかけた。



「アレクサンダーさん、ありがとうございました」

「はい?」



 彼が豆を炒る手を止める。

 リンジィは、隣にいる妹――メリンダを一瞥してから、もう一度アレクへと視線を戻す。



「なんだかよくわからないけれど、アレクサンダーさんに事情を話した途端に解決しましたから。……なにかされたのかなと」

「こういう時、困りますね。サンプルが二種類ある」

「……?」

「いえ、お気になさらず。今回はまあ――隠すパターンなのでしょう。実際問題、俺はなにもしていませんしね。地味でつらい役割をこなしたのは、モリーンさんですよ。あの方、あなた方のことをずいぶん気にしておいででしたから」

「そうなんですか?」

「はい。まあ、ですので、お礼があるならばモリーンさんに」

「そのモリーンさんは今どちらに?」

「帰って来たロレッタさんに呼び出されて、王都の方の彼女のお屋敷へ。なんでもお掃除のお手伝いだとか」

「……貴族と平民なのに仲がよろしいんですね」

「ロレッタさんは、そういうのを気にしないタイプなので」

「……そういうところが、ラウラと似てたのかな」



 リンジィは妹を見る。

 メリンダは、悩むようにうなってから、



「ロレッタさんは、お姉ちゃんと似てるんだよ」

「そうなの? でも、貴族なんでしょう?」

「ラウラさんは誰とも似てないよ。あんな人そうそういたら大変だよ」

「……あなた、結構言うようになったわね」

「め、メリンダまずいこと言う子になった?」

「……まあ、おどおどしてなにも言わないよりは、いいんじゃないかしら」

「……うん」



 会話が途切れて。

 メリンダが、アレクの方を見る。



「アレクさん、ごめんなさい」

「どうされました?」

「……メリンダはたぶん、最後まで修業できなかったんですよね?」

「ああ……まあ、修業は手段なので。目的を達成できたならば、かたくなに手段を厳守することもないと思いますよ」

「……はい」

「あなたの努力は報われましたか?」

「……はい。……あ、あの、ありがとう、ございます……」

「どういたしまして」



 アレクが笑った。

 リンジィは立ち上がる。



「……店は売らなくてすみそうです。ラウラと色々話して――貴族をやめるみたいです」

「おや、そういうこともできるんですか」

「詳しい手段はわかりませんけど、決意は固いみたいですよ。だから――三人で、薬屋をやっていこうと思います。もともと私たちは冒険者じゃありませんし。私の足は、神様からの『やめておけ』っていう警告だったんじゃないかなって」

「そういえば、あなたが足をケガするまで冒険者を続けた理由――いえ、冒険者を始めた理由はなんだったのですか?」

「……市(いち)に出回る材料だけだと、作れない薬があったんです」

「おや、どんな?」

「傷あとをなくす薬」

「…………なるほど」

「でも、私にはそもそも冒険者は向いてなかったみたいです。……必要な材料があったら、お金をためて、ギルドに依頼を出すことにします」

「その時はロレッタさんやモリーンさんに頼むといいかもしれませんね。彼女たちならば確実に望むものをとってきてくれるでしょう」

「考えておきます。……じゃあ、私たちはお店に帰ります。今までありがとうございました。料金は――」

「カウンターに猫獣人の女の子がいるはずですので、そちらで」

「わかりました。お世話になりました」



 リンジィが礼をする。

 メリンダも立ち上がり、一礼した。

 そして、去って行く。


 入れ違うように――

 十本の尻尾を持つ狐獣人が、カウンター席に座った。



「のうアレク、カウンター席の背もたれが浅くて、わらわにはきついんじゃが」

「……なんですか出し抜けに」

「ほれ、尻尾がな、十本もあるじゃろ? そういう客のためにも、もう少し背もたれなど気をつかってもよかろうと、そういう話をじゃな」

「あなたしかいないと思う」

「ま、それもそうじゃな」

「ところで、調査の状況は?」



 アレクが詰め寄る。

 十本の尻尾を持つ狐獣人――『月光』は牙を見せて笑った。



「なんじゃ、貴様にしては珍しく、焦りが見えるのう」

「……からかうな」

「まあ、任せい。まだ成果は出ておらんが、近いうちになんぞつかめるじゃろ。慌てたところで調査は早まらんわ。もしくは人をもう少し貸せ」

「すでに俺の名前で使いまくっているようだけれど」

「もっと有能な人材がほしいんじゃ。わらわが無能じゃからな、部下は有能でなければならんじゃろうが」

「当然の道理のように言われても」

「――で、今日は家で眠るのか?」



 唐突すぎる話題転換だった。

 アレクは――おどろく。



「……なんで、いきなり」

「最近ずっと夜、家で寝ておらんのじゃろ? どうした? 夫婦間が冷え込んでおるのか?」

「……」

「……今の貴様は割と好きじゃぞ。からかいがいがある――まあ、わらわは調査を続けよう。裏で暗躍させるのが、わらわの正しい使い方じゃ。しかし、わらわは他にも使いでがある」

「……」

「悩みがあれば言うてみ。母が聞いてやるぞ」

「……別に」

「そうか、そうか。……ま、それもよかろう。じゃがな、貴様の気持ちがわかるのは、おそらくこの世界でわらわだけじゃぞ」

「……」

「どうした、気持ちが悪いと言わんのか」

「……あんたは、俺になにを言わせたいんだ?」

「ほう、わらわに言わされそうななにかがあるのか」

「……」

「クックック、楽しいのう。やはりわらわは、攻めに回る方が好きじゃな。しかし本気で怒らせるのも分が悪いでな、わらわは退散しよう。……成果があがればすぐに教える。心配せず、貴様は今のまま、普通にしておれ。それが一番じゃろう」



 言いたいことを言い終わった――

 妙にツヤツヤした顔で、『月光』は席を立つ。


 アレクはうつむく。

 そして――



「たしかに、そうかもな」



 ボソリと。

 誰にも聞こえない声で、つぶやいた。

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