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142話

 サロモン以降も、仲間は増えていく。

 大剣を修理しに寄ったドワーフの村で、ダヴィッドという腕のいい刀剣鍛冶に出会った。

 彼女に刀剣を打ってもらうために、彼女の『愛し子ベイビィズ』――ゴーレムと戦う羽目にもなったけれど、アレクサンダーは死なない。

 死ななければ、どうにでもなる。

 剣をパッキンパッキン折るアレクサンダーに職人魂を刺激され、ダヴィッドが旅に同行することになった。


 特に栄えた港街では、ちまたを騒がす集団と一悶着あった。

 その首領は『真白なる夜』と呼ばれる男性だ。

 純白の髪と肌、左右で色の違う瞳を持っていた。

 色々あったが最終的には武力で解決し、団とその首領である『真白なる夜』が旅の仲間となった。


 森に入ったら、不思議な小さい人々が住まう集落を発見した。

 ドライアドと名乗る種族だ。

 肌は褐色で、大人でも子供みたいな体格をしている。老人は髪が緑だが、若いと白だ。髪を操る不思議な種族で、彼女たちは男性が生まれないことをひどく嘆いていた。

 そこで種族の存続のため、パーティにいた男性たち――アレクサンダー、サロモン、『真白なる夜』を捕らえようとしてきた。

 相手が幼い容姿ということもあり油断していたので、一時は捕らえられてしまう。

 しかしこれもやっぱり、最終的には武力でどうにかなった。

 ウー・フーが当たり前のような顔をして、旅についてくる。


 というか、この人たち、だいたい暴力で物事を解決している。

 カグヤはいつも、傍観者みたいな立ち位置で、アレクサンダーたちのことを見ていた。


 不死身に任せてだいたい力押しをする、アレクサンダー。

 アレクサンダーがどんな状態であっても一瞬で五体満足にしてしまうほどの回復力を誇る、しかし回復に小言がセットでついてくる『口うるさい系幼なじみ』イーリィ。

 無限の魔力で非実体の弓矢を作り出す、『中二病バトルマニアエルフ』、サロモン。

 女性なのに『ダヴィッド兄貴』。

 なにを言っても嘘っぽくしか聞こえない、白々しい『真白なる夜』ことシロ。

『耳年増幼老女』ウー・フー。


 ……一番近くで彼らを見ていたカグヤとして、英雄たちを評価すると、こうなる。

 この評価は多分にアレクサンダーの意見が反映されていた。

 アレクサンダーは人にキャッチフレーズをつけるということを、よくやる。

 たとえば、カグヤがもらったキャッチフレーズなどは――



「お前はアレだな。『私カグヤ。今あなたの後ろにいるの』って感じ」



 気配なく忍び寄って、無言でじっと人をながめるところから、そういうキャッチフレーズが思いついたらしい。

 なんでもアレクサンダーのいた世界の都市伝説のオマージュのようだった。


 ……そうだ、いつも後ろにいる。

 後ろから――見てるだけ。


 アレクサンダーは言うまでもなく不死身だ。

 戦いがあれば真っ先に剣を抜き、敵へと突撃していく。


 傷を治すのはイーリィの役割だ。

 視界に収まってさえいればどのような傷でも一瞬で治せる力は、旅をするうえで負傷者を出さないという偉業を成し遂げ続けている。


 サロモンは、戦いであればなんだってこなせる。

 遠距離からの狙撃、一人での弾幕形成、それに、接近戦だってまず敗北しない。

 普段は無口で、しゃべったかと思えば意味不明な発言ばかりだが、こと戦いにおいて彼より頼れる仲間はいないだろう。


 ダヴィッドは武具の修繕や作成が得意だ。

 また、材料さえ満足にそろうのならばゴーレムだって作成できる。

 彼女の打った剣を持ったゴーレムの軍団は、はっきり言って、ほぼ無敵だった。


『真白なる夜』は高い索敵能力を持っていた。

 おまけに『敵の弱点がわかる』という能力で、強い敵さえアッサリ倒してしまう。

 総合力では劣るが、殺し合いで一番強いのは彼だろう。


 ウー・フーにかんして言えば、戦いではそこまで強くない。

 ただ、彼女の『構造物の内装を読み取る知識』はあらゆる面で役立った。

 アレクサンダーが『オートマッピング』と呼んでいたその力により、初見のダンジョンの構造や中にある物の位置などを、最初から知っていたかのように述べることができた。

 冒険において地味だが重要な役割を担っていたと言えよう。


 カグヤは。

 なにもなかった。


 多少の魔法は使えるが、アレクサンダーたちの前ではかすんでしまう。

 予言は、村を出てから二度だけあった。

 しかしその二つは、役立たなかった。

 一つは『はるか未来の聖剣の打ち手』のこと。

 そしてもう一つは、思い返すのも嫌な、アレクサンダーの助けになるどころか、アレクサンダーに害を成すとしか思えないものであった。


 カグヤの力だけが、他の六人の力とは異質だ。

 自分で自由に発動ができない。

 望んだ結果を得られない。

 アレクサンダーは『イベント用スキル』と言っていた。

 だから、仕方ない、とも。


 ……でも、カグヤだって、役に立ちたかった。

 サロモンが敵を倒すたび。

 ダヴィッドが剣を打つたび。

『真白なる夜』が強敵を屠るたび。

 ウー・フーがダンジョンのマップを作成するたび――


 自分だって、役に立ちたい。

 そういう想いが、止まらなくなっていく。


 最初からアレクサンダーと一緒だったイーリィを除けば、自分が一番、彼と長く一緒にいるのだから。

 あとから来た人たちが活躍するたびに、焦燥は高まっていった。

 置いて行かれるんじゃないか。

 見捨てられるんじゃないか。


 ……故郷の村を思い出す。

 穴蔵の闇が、視界にちらつく。

 予言が降りてこない時、村人にとって、カグヤは『いないもの』だった。


 徹底した、無視。

 触れてはならないという強い意思を感じる、忌避。


 アレクサンダーも、イーリィも、他のみんなもそんなことはしない。

 そう思っている。

 でも。

 不安だけが、募っていく。


 この人たちと一緒にいたい。

 彼のそばに、いたい。


 ……だから。

 ただ、役に立ちたい――見捨てられたくない一心で。

 カグヤは、行動をしてしまった。

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