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127話

「なるほど。アタシも間が悪いッスねえ……」



 テーブルに着いたコリーは、ロレッタたちから現状を説明され、苦笑した。

 ロレッタは、はす向かいに座るコリーをなぐさめるように、言う。



「元気を出してくれ。まだ、死ぬと決まったわけではない」

「……だったらその悲壮な表情をやめてほしいんスけど……まあ、病気云々はともかくとしても、アレクさんに話すことあったんスけどね。そのアレクさんがいないのは、間が悪いッス」

「また修行でもしようと?」

「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや」



 激しく首を左右に振る。

 種族の特徴である、垂れた耳が首の動きに合わせて揺れる。

 あと、薄着のせいで、胸もかなり揺れた。


 ロレッタは。

 彼女をじっくり観察し、つぶやく。



「……ふむ」

「……なんスか急に」

「ひょっとしたら、あなたは私の理想かもしれないと思ったのだ」

「ちょっと意味がわかりませんけど」

「背が低く、かわいらしく、胸が大きい……うらやましい」

「はあ……っていうかそれ、ドワーフの女性だったらだいたいあてはまるんスけど」

「ドワーフか……将来はドワーフになりたいな」

「ロレッタさんがヤバイ……あの、マジで、マジで、家帰った方がいいッスよ」

「しかし修行中でな……というわけで私はしばらくこの宿にいるので、アレクさんに言づてがあるならば、うけたまわってもいいのだが」

「いやあ、わかんないと思うッスよ」

「専門的な話なのか」

「はいッス。こないだご注文いただいた商品について、ちょっと……簡単に言うと、じいちゃ……親方がかなりはしゃいじゃって、予定より早く完成しそうっていうね。ただその、不足する素材も出て来たんで」

「不足する素材? アレクさんの腕力に耐えきれる剣でも作っていらっしゃるのか?」

「いえ、それはもう作ったんスよ。ああ、でも、最近『その剣でしか斬れない金属製の箱』を注文されたッスね。もう納品したッスけど」

「……金属製の箱?」

「そうッスね。ノワちゃんとかブランちゃんならすっぽり入る大きさッスよ。外から鍵がつけられる仕組みで……金属製の棺桶って感じッスかね?」

「……監禁する用途しか思いつかないのだが」

「ま、まあ……あの人の目的とかはあんまし聞きたくないっていうか……あ、そうそう。今不思議なもの作ってて、じいちゃんがそれに夢中なんスよ。じいちゃんが『ハイホー!』とか言うの初めて聞いたッス」

「……無口なおじいさまだという話はさんざん聞いていたが……なんなのだ、その無骨な職人にさえ『ハイホー!』などと言わせてしまう代物は」

「そう言われると……なんなんスかね? じいちゃんが引いた図面では、鳥の羽根みたいでもあり……ちょっと変わった剣みたいでもあり……獣の爪と言われたらそんな気もするような」

「……よくわからないということは、わかった」

「あ、ところでアタシの打った剣、アレクさんは装備とかなさっていないんで?」

「…………そういえば、今朝、旅に出る時に見慣れない剣を差していたな。青い光が鞘から漏れた、美しい……」

「ああ、それッス。よかった。死蔵されるのはイヤッスからね」

「しかしあの人の腕力に耐えきれる剣を作ったのか。素晴らしいな」

「いやあ。それほどでも……あるッスけどね!」

「今度、私の剣も注文していいだろうか?」

「いいッスけど、今はかなり予約入ってるッスよ。三年待ちッス」

「……………………繁盛しているようだな」

「まあ、じいちゃんがアレクさんからの注文にかかりっきりなんで、そのせいなんスけどね。もう刀剣を打つのはほとんどアタシの仕事になってるんスよ。今、二号店を建造中で、できたら刀剣の依頼は全部そっちになる感じッス。で、あたしはそこの親方の予定」

「その若さで店を任されることになるのか。つくづくすごい」

「まあ、腕だけじゃないッスけどね。最近、じいちゃんとの付き合い方を覚えたッスから」

「ほう?」

「あんまりしゃべってないのに『無駄口叩くな』って言われたら、『会話に混ぜてほしい』ってことなんスよ。で、突然『聞きたいことはあるか』って言われたら『ちょっと話がしたい』ってことなんスよ」

「……なんというか、かわいらしい、おじいさまだな」

「アレクさんは『ツンデレ』って言ってたッス。ウチのジジイはツンデレッス」

「ま、まあ、なににせよ、うまくいっている様子で安心した」

「……そんなに心配されてたんスか?」

「あなたは口を開けばおじいさまの文句ばかりだったからな……たいそう気にされているのだというのが伝わってきた。つまり、私から見れば、あなたも『ツンデレ』ということになる」

「うわあ……ジジイと一緒かあ……すげえイヤッスね……」

「仲はいいのだろう?」

「いいんスけどお……一緒にされると微妙っていうか………………いや、職人としては尊敬してるッスよ? でも同じ性格だって言われると……ロレッタさんもないッスか? 尊敬している相手でも、性格同じって言われたら傷つくみたいな」

「私は、母と似ていると言われると嬉しいが」

「…………そうッスか」

「まあ、そもそも、生前の母を知っている人が、もうあまりいないのでな。言われる機会はほとんどない」

「……あー、その、変な話題を振ってしまったッスね」

「気になさらないでくれ。それで、朝食だが……」

「用意できないんスよね? あ、でもヨミさんの治療をノワちゃんがやってるってことは、目覚めるのは時間の問題なんじゃないッスか? 魔法じゃ原因がわからない病気には対応できないみたいッスけど、あの人たち、なんでもアリでしょ?」

「私もそう思っているのだが……さすがにそろそろ、不安になるぐらいの時間は経ったな」

「……こういう時アレクさんがいたらいいんスけどねえ」

「そうだな。セーブさえできれば、死んだら治るだろうに……」

「その発想がナチュラルに出てくる時点でヤバイッスね」

「む?」

「……い、いや、その……ロードしてもいいんじゃないッスかね。死ななくても」

「…………あっ」

「家帰った方がいいッスよ。ここにいると大事なものが失われていくッスよ。ロレッタさん、案外、人の影響受けやすい人なんスから……」

「うむ……しかし修業が……風呂造りはなんとしても覚えたい……」

「風呂と命、どっちが大事なんスか」

「…………」

「そこは『命』って即答してほしかったんスけど」

「……そうだな。今は、生き延びねば。ホーさんがメイド服を着てくれると、約束をしてくれたのだから」

「…………」



 コリーがかわいそうなものを見る目をした。

 視線は、ホーに向いている。


 ホーは慌てるあまり、立ち上がった。

 そして、焦った調子で釈明をする。



「違う違う違う! ロレッタの家を掃除する人員確保が色々厄介だってから、あたしが手伝ってやるってだけの話だよ!」

「ハア、ソウッスカ。ワカッテルッスヨ」

「なんだその棒読み口調!? 仕方ねーだろ! ロレッタがどうしてもって頼むんだから!」

「……ホーさん、どうしてもって頼まれたからって、やってあげるべきことと、たしなめるべきことがあると思うんスよ」

「わかるけどよお」

「ホーさんなんだかんだいって、頼まれると断れない人ッスよね……」

「う、うるせーよ。……あ、相手は選んでるぞ!」

「ホーさん。人は変わるんスよ。もう、あのころの無垢なロレッタさんはいないんスよ」

「いや、でも、でも……考えてみてくれよ」

「『では考えてみましょう』とか……心が抉れるッス。アレクさんはモンスターとの戦いの最中でも平気で『考えてみましょう』とか言うッスからね……死ぬっつーの」

「とにかく、ちょっとぐらい考えてみてくれ。別にメイド服着るぐらいいいだろ? あたしはなにも失わねーだろ? ロレッタが困ってて、あたしがメイド服着るだけで解決するなら、それはいいことだろ?」

「ホーさんはなんつーか」

「なんだよ……」

「トゲトゲしいけど、実際ものすごい甘い人ッスよね」

「…………」

「アタシは好きッスよ、そういうとこ。ただ、まあ、その……相手は選んだ方がいいッスよ。本当にね。いつかとんでもない相手にひっかかりそうでアタシは心配ッス」

「……反省する。つーか、あんたのがあたしより年上みてーだなあ」

「実年齢と精神年齢は違うッスから」

「返す言葉もねーよ」

「ドライアドの人は、他の種族にくらべても成長がかなりゆっくりみたいッスからねえ。甘えてもいいんスよ? 別にこの宿で強がることないっしょ」

「強がってねーよ。あたしはほら、先輩冒険者としての振る舞いをだな……」

「そういうのが……まあ、いいッス。野暮ッスね。なんかあったら力になるッスよ。困ったら声かけてほしいッス。ホーさんを困らせるやつは金床に置いて剣と一緒に叩いてやるッス」

「発想がアレクさんだぞ……」

「おっと、忠告感謝するッス。そんで……」

「朝食か。どうすっかなあ……たしかにロレッタもちょっと思っただろうけど、みんなを置いてよそで食うのも戸惑う状況ではあるんだよな。……ちなみにコリー」

「なんスか?」

「ここで食事をとってない日は、どうしてるんだ?」

「自分ちで作ってみんなで食べてるッスよ。じいちゃんと、弟子のみんなと」



 コリーの答え。

 それに、ロレッタが反応する。



「それはいいな」

「……は? なにがッスか?」

「いや、自分たちで作れるならば、それは、すごくいいと思ったのだ。ヨミさんたちのぶんを用意するには最適な方法に思える」

「……ちなみに、ロレッタさんは料理とかできるんスか?」

「食器洗いは任せていただこうか」

「……まあ、普通、貴族のお嬢さんは料理なんかしないッスよね。ホーさんは……」



 コリーの目がホーを捉える。

 ホーは半笑いで首を何度も横に振った。



「……いや、ほら、冒険者ギルドって酒場が併設されてるじゃねーか。ちっさいころから、腹が減ったらそこでメシ食ってたし……」

「そういやホーさんも何気にお嬢様だったんスよね……ギルドマスターの孫って」

「うちは別に金持ちじゃねーぞ」

「……それはホーさんが自分以下の環境を知らないからッスよ」

「そ、そうなのか……あんたと会話してると勉強になるな……」

「でも困ったッスね。アタシは料理できるッスけど、まずここの厨房の勝手がわからないッス……少しでも詳しい人がいたらいいんスけど」



 コリーが腕を組み、唸る。

 ホーとロレッタもまねするように、腕を組んで唸った。


 と、扉を開閉する音が聞こえる。

 三人はそちらを見た。

 その視線の先で――



「あら、コリーさんもいらっしゃっていますの? ……ってなにかものすごい期待をこめた目でこちらを見てはいませんこと?」



 三人の視線を受けて、若干おののきながら。

 モリーンが、戻ってきた。

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