異世界で最初にやることと言ったら...
『ザーーッ、ザザザーーーーーー、ザーッ。』
『ん?回線不良か、まぁ今運営は対応に追われてるだろうし、しゃーねぇか。』
最後になるであろう、背後の世界に別れも告げられず、秀疾は目を閉じた。
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「おりゃぁー!」
雄叫びと共に先頭にいたオークの体にタックルを食らわせる。
「カナちゃんぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!」
ピンチの彼女にどうやら赤髪のナイフ使いが助けに入ったようだ。カナはそのまま2人に檄を飛ばす。
「お前らぁ!なんでこうなったんだよ!!」
「うぇ〜〜〜〜〜〜ん、ごわぁがっだよぉ〜。」
「訳は後で話します。とりあえず前の豚どもを殲滅しなければ。」
一度はたじろいだオークたちもすぐに体勢を立て直してきた。
「さて、カナ。どうする?この馬鹿は使い物にならないし。」
ミリィは泣き噦っていて何を言っても要領を得ない。
「それ、あたしに聞くぅ?」
こちらも手詰まりのようだ。
「じゃあ、どうする?」
「決まってるじゃない?」
次の瞬間、3人の背中はモンスターの方を向いていた。
「"逃げあるのみ!"」
潔さだけは息ピッタリの3人だった。
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「おいおい...ここどこだよ。」
本来、DGOにログインした時には"始まりの街 転移門"にインするはずなのだが、どうやら古い建物のような中に転移したようだ。
「しかし驚いたな、妙に視界がリアルに感じる。しかも装備は初期装備、メニューバーも開かない、お陰でステはまだわからんけど。」
秀疾は可能性の低い仮説から潰していこうと、 手持ちの短剣で手のひらに切り傷を入れた。
「あれぇ?ち、血のエフェクトって、ここここ、こんなにリアルだっけぇ?」
同時に 、滴り落ちる紅の血は一つの答えを教えてくれた。
「ここ、ゲームのなかじゃねぇな。」
思考が深く沈み込む前に、悲鳴が秀疾の耳を劈いた。
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遺跡の最下層、祭殿。
「巻いたようだけどここにいるのはマズイな。」
「そうですね、ここは遺跡の主の部屋、目を覚まされてはひとたまりもありませんね。」
「ねぇ、マリア、カナちゃん、もしかして、それってS級クエのの管轄ってことになるの!?」
口をワナワナと震わせ体を携帯のように震わせたミリィはもう意識を保っているのもやっとのようだ。剣を握る手にはもう力と呼べるものは入っていない。
「絶体絶命、万事休す、いや〜、死後の世界って本当にあるのかなぁ?」
「はっ倒しますよ、カナ。」
でも、実際に危機的状況であることには変わりなく、打開策もないままただ単にエリアボスが目覚めないことを祈るしかない。
だが、彼女たちの会話から察するにこれは、
【"死亡フラグである"】
「"ドドドーン、ガラガララララ。"」
その時、天井の一部分がすっぽりと抜け落ちた。
『かっ、あっ、えーーーーーーっ!?』
ここでもまた、3人は息ピッタリである。直後、彼女らの視線を集めたのは抜け落ちた天井から飛び降りてきた1人の少年だった。
「ここから悲鳴がきこえたようなきがしたんだけどさぁ?ここで合ってる?」
しかし、少年に集められた視線はもうそこにはなかった。代わりに、部屋の奥にある赤く光る鈍い光に注がれた。
「"貴様ら、我が眠りを妨げし者たちよ。その覚悟、しかと受け止めた。我は今から貴様らを殲滅対象とみなす。"」
どうやら、遺跡の守護者であるゴーレムのようだ。
かくして、死亡フラグの回収は無事になされた。
「赤髪貧乳ナイフ使いと、金髪微乳剣士、そして黒髪巨乳魔法使いか。3人とも歳は俺と大差ないかな。」
腕を組み、少し考え込んだあと、
実に"ゲスい"笑みを浮かべた。
"よしっ!決めた。"
瓦礫を退け、未だ顎関節の限界まで口を開けている彼女たちの元へ歩み、告ぐ。
「お前らさ、あいつどーにかしてやるからさ。この世界での俺の移住食保障しろよ。」
自分と同じくらいの彼女達に、要はこう言ったのだ。
「"俺、この世界でニートするので仕送りよろしく!"」と、
彼女たちはこう答えるしかないのだ、そして、この男はそれをわかって言っている。
『ええ、お願いします。』
選択肢とは時には一択に絞られた非情な方法だと知り、大人の階段を一つ登った彼女たちであった。
「んじゃ、決まりだな。あ、この剣借りるぞ。」
「え!あ、どうぞ...」
ゆっくりと、ゴーレムとの距離を詰める。
それはもう、まるで時が止まっているかのように、ゆっくりと、ゆっくりと、
いつの間にか、この空間の音は秀疾の足音だけになった。
いつの間にか、
「ちょっと待ってください。あの人いつゴーレムの横を通過したのですか!?」
秀疾はゴーレムの横を通り過ぎている。剣を振るそぶりは見えなかった。
「まずは両足。」
亀裂が入り、ゴーレムの動きを止める。それでも、後ろを向いている秀疾にゴーレムの手が、
「んで、両腕。」
両足と同じように亀裂が走る。秀疾は身動き一つしていない。
「えっと、次なんだっけ。あ、パンツだった。」
突如、30メートル離れていた3人のパンツに亀裂が入る。
『へっ!?』
「いーもん見れたぁ!やりぃw」
『"変態!!!"』
彼は気にせず続ける。
「次はブラ!って言いたいけどもう終わりなんだよなぁ。」
再び、ゴーレムの横を通過し呟く。
「END」
ゴーレムが細切れ肉のようにバラバラになっているのを背景に歩み寄る彼に彼女らは、不思議な安心感を抱いていた。