呼称『"チート使い"』
廃棄研究所跡、1人の剣士が敵の軍勢と対峙している。
「いやぁ〜、しんどいわw S級クエの単独攻略は縛りプレイの領域を超えてもうアレだな、監禁プレイ(レイプ)だな。」
鼻息を荒くするオーガやゴブリンをよそに、自分が女だという想定で様々なプレイを妄想していた。
「でも、オレってば『漢』ですしぃ〜、穴は2つしかないしぃ〜"1万匹"のモンスタープレイは流石に壊れちゃうのでw」
剣を突き刺し、1万の軍勢を前にモンスタープレイを想像し身をよじらせる童貞16歳。
「ソユコトなんで、お尻の純潔!守らせていただきます!!」
人柄、性格、性癖、etcには目をつぶってもらうとして、この変態が物語の主人公である。自分の純潔、改め、"純ケツ"を守るため剣を振るうその姿はピンチに似合わず、とても楽しげな表情をしていた。
「おーい秀疾!昨日のDGOニュース見た?」
DGOとはディフィート・ガーデェス・オンラインの通称だ。
「あぁ?俺はその頃は1万匹のブサイクちゃんたちと夜のお遊戯の最中だったぜ。よって、見ていない。」
屋上唯一の日陰所に寝そべり背を向けたまま聞かれた質問に素直に?答えを提示する秀疾。
「"1万匹"、"夜のお遊戯"...まさかとは思うが昨日のニュースのバカはお前か?」
「おっとぉ!今のお前の顔を当ててやるぜ!オークやゴブリンにも引けを取らないドン引き顏で目の前のゲーマーを見ているのだろう。ふふふっ、当たってたら今すぐやめていただけると嬉しいです、ええ、精神的にとても。」
秀疾の声は明らかに落ち込んでいた。だが気には止めてもらえない。
「お前な、丁度クエ中に暇だったからラジオ聴きながら経験値稼ぎしてたんだけどゴブリン、オーク連合軍殲滅クエなんて、今のDGOの最高クラスの難易度の無理ゲーだって噂の代物だろ?プロゲーマーでも何日かに分けて1万匹狩り尽くすってのに、ネットでも『"最強のチート使い降臨"、運営早期対応求む』って荒れに荒れまくってるぞ!」
頭、背中、お尻、そして陰部の順にポリポリと搔きむしり気怠げに対応した。
「んで、お前は俺がチートしたと思ってるわけ?」
あくびをしながら聞き返すその姿の前には、一瞬ブラウン管テレビが見えたような気がした。
「いいや、不思議とそう思えない。お前のポテンシャルならいけてしまうかもと思ってる。」
完全に秀疾はこの言葉で親友の健斗への警戒を解き笑いかける。
「さっすが俺の親友!いやっ!心の友よぉ〜。」
「親友から心の友って、もしかして格下げされてる?」
「あのぉ、斗真くん?人の感謝の言葉の曖昧なラインつっついて無下にするのやめてくれます?」
2人は顔を見合わせ、こみ上げてくる笑いを抑えきれなかった秀疾は...
「ぷぅっーーーー!」
屁をこいた。
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とあるネット掲示板。
「おいおい、この間のチート使い、まだバンされてねぇぜ。」
「いや、その件なんだが、ソイツは回復薬すら使ってないらしいぜ。TASを使ってのプレーの線もなしとのことだ。」
「冗談だろ!?ありゃ、プロゲーマーでも1日かかる難易度最高クラスのクエだぞ!?あり得るのかそんなの。」
「しらん、もし本当にあり得るのだとしたら。DGOでゲーム史に残る『神話』が誕生することになるかもしれないな。」
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DGO?内、古代遺跡でのスライム討伐。
「ギャー!ヌメヌメでヌルヌルの液体が近寄ってくる!!!!!」
1人の少女が初級クエの"激闘!スライム討伐"に苦戦しているようだ。
「大変!少し待ってくださいミリィ、回復魔法発動にはもう少し時間がかかります。」
もう1人、魔導師らしき少女はどうやら回復魔法の詠唱を開始したようだ。
「マリア!早く!ひぃっ!もうそこまでヌメヌメがぁ...」
彼女の周りにはスライム5体、魔法での攻撃支援は望めないようだ。だが、少し遅すぎたようだ。
「マリア、もう、私無理かも。」
声のトーンを変え 、落胆するミリィに声をかけようとするマリアであったが、視線の先にあるものを見て置かれている状況を理解し始めた。
そこには騒ぎを嗅ぎつけた、ゴブリン2体、オーク1体が残り30メートルのところまで近づいていた。
残り25メートル
15メートル
10
「ごめんね、お母さん。私死んじゃったかも。」
5
4
3
2
1
少女の視界は暗転した。
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「しかし、こうもネットで騒がれるとやりずれな。」
パソコンの画面をスクロールしている秀疾は自分のやったことにやっと理解が追いついたようだ。
「DGO公式twitterが炎上してやがるww」
内心、運営に謝罪を入れつつ、自分はこのゲームでも長続きしないだろうと悟ってしまった。
『チートだなんて、使ったことないんだけどな。』
数多のゲームで偉業を成し遂げゲーマー達を沸かせてきた秀疾だったが、その度にそのゲームに触れることすらなくなる。
『誰かの手本になれないかと始めたゲームも今じゃチーター扱い。まぁ、確かにそのゲームに生活かけてるやつには俺みたいな存在は邪魔なだけだよな。』
秀疾は思う 、寂しげで、物足りなく、うますぎても疎まれるこの世界では自分が生きる場所があるのかと。
そうして、最後のログインになるだろうと、おもむろにゲーム機をかぶりDGOに別れを告げに行った。
筈だった。