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転生怠惰譚~ゆるゆると生きてたい~  作者: おばあさん
第一章~転生して良くも悪くもめんどうくさい~
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二話 〃 ―③

皆が言うイブってなんでしょう。

 そうして課題を見つけてから数ヶ月。

 季節はもう冬だ。寒い。


 寒いから僕はお母さんと一緒にお昼寝中です。

 お母さんの大きくなったお腹をポンポンと叩く。

 叩きながら、暖房の効いた部屋でゆるゆると微睡におち――。


 ――ない! 危ない。うっかり本当に寝るところだった……。


 僕はゆっくりと起き上がってお母さんを窺う。

 ……ぐっすりと寝ているようだ。

 一度寝ると起きないから、しばらくは大丈夫だろう。

 とりあえず、タオルケットを掛け直して冷えないようにしてあげる。


 次に、僕は家の中に人がいるかを、魔力(“力”の名前がそうであると、本で知った)の探知で探る。

 まあ、人って言うのはサヴァさんだよね。


 しばらく探知を続けてみるけど、反応はずっと僕を含めて二つのままだった。

 つまりサヴァさんは今の時点では外出中。

 買い物かな。都合は良いけど、あまり時間はないかな?


 僕はとてとてと今を後にし、書斎へと向かう。

 浮いていかないのは、メンドウだけど魔力の節約だ。

 実験をするつもりだから……できるだけ使いたくない。


 滞りなく書斎に着く。

 ここは、居間と違って冷え切っている。

 思わず体がぶるりと震える。


 これからもっと寒くなるのかなぁと考えると、ちょっと憂鬱になってくる。

 温度上昇の魔法は自然系統らしいから、僕には使えないんだよね。


 まあ、暗くなっても仕方がない。今は実験だ。

 イメージの鍵はお母さんからもらったから、忘れないうちにやってしまおう。


 僕は適当に一冊の本に手を掛けて、引っ張る。

 やはり動かない。


 次に浮遊魔法を使って動かす。

 やっぱり、魔力の消費は著しい。

 今までずっと使い続けて成長してなお、相当減ってる。


 最初の三日ぐらいはこれらの本と同じように、持とうとすると消費が著しいものを家の中で調べていた。


 その結果……やはりと言うべきかなんというか、重量が原因だった。

 僕よりはるかに重い物体を持ち上げようとすると、何倍にも消費が膨れ上がるんだ。


 で、その原因についてなんだけど。

 これはたぶんだけど、僕の浮遊魔法のイメージの根幹が念動力と水上浮遊なのが原因だと思う。

 この二つのイメージを使ったデメリットのような部分が上手く重なっちゃってるのが、魔力の大出費に繋がってるはずだ。


 まず前者に関しては、単純に出力を上げようとして大量に魔力を使うのが原因だ。

 念動力で持ち上げるのに足りてない膂力をムリヤリ補おうとするからそうなってしまう。


 そして後者は……なんだっけ。

 あいつ。えっと……そうだアルキメデス。

 あれの原理だと思う。

 よく覚えてないからそれで説明はできないんだけど、多分それ。


 僕でもできる説明だと……鉄球は水に沈むのに、水銀には沈まない感じ。

 僕の現在の魔法では、僕が浮き上がる分には水(海水のような)のフィールド(が魔力でできていると仮定する)で十分。

 だけど、僕より重いものを浮かせるには水銀みたいなフィールドを作らないといけないので、その分の魔力を消費してしまうんだ。


 その二つが合わさった結果……極悪燃費ができてしまったわけだね。


 なので、これを解決すれば万事解決――とはいかない。

 その方法は、今まで通り地道にやっていくぐらいしかないからね。


 だから、この二つのデメリットが生まれないような、別のアプローチが問題解決には必要だった。

 それをずっと考えてたんだけど、僕は先ほど、そのもう一つのアプローチをようやく思いついた。




 ――“重力”だ。




 ☆




 さっきのお母さんとの会話を思い出す。


『おかあさんのおなか、おおきいねー』


 なんて子供っぽく言いながら、僕はお母さんのお腹をぽんぽこ叩いていた。

 お母さんはその様子を見てニコニコしながら。


『赤ちゃんがこの中で育ってるからね~』


 と、僕と一緒にトントンとお腹を叩く。

 僕はこの時、子供の無邪気を利用してお母さんに『なんで赤ちゃんはお腹の中から生まれてくるのかな』なんて聞こうとしてた。

 問題解決の事なんて忘れ切ってたんだけど、その時お母さんが。


『お腹が大きくなってくると、動くのがちょっと辛くなってくるのよねー。体が重く感じじゃって……』


 とボヤいた。

 そこで、僕のイタズラ心は鳴りを潜めて共感に埋め尽くされた。

 “あ~分かる。動きたくないよね”と心の中で同調してた。


『どうして重いんだろうね』


 そしてポロッとそんなことを呟いた。

 特に意図したわけじゃない。

 それに、別の答えが返ってくると思っていたから、次に返って来た言葉には衝撃を受けた。


『それはねー。重力っていう力が働いてるから、重いって感じるのよ』




 ☆




 一ヶ月くらい進展なくてすっかり忘れてたんだけど、お母さんのそんな言葉のお陰で一気に覚醒した気分だった。

 今までずっと念動力と水上浮遊の感覚――元々目指していた浮くと言う目的――から頭が離れなくて、もっともっと単純なところを見落としていたんだ。


 問題解決及び浮遊魔法改良の糸口――重力操作。


 僕は先ず、これを実現するために早速書斎にやって来たのだ。

 なお、イメージをはっきりさせたいので、今日はもう浮遊魔法はナシだ。

 重力操作の魔法単体だけでどのくらい消費するのかもはっきりさせないと。

 消費が大きいのに組み込んでも、それじゃ意味ないからね。


 僕はまず、床に置いた本に手を翳す。

 ……本題とは違うけど、とりあえず本自体が軽くなるイメージをしながら魔力を送ってみる。


「……ダメかあ」


 流石にそれではダメらしい。

 魔力は作用せず、そのまんま垂れ流しになってしまう。

 無駄なので一旦止める。


 今のでダメな理由はイメージの不足……だと思う。

 本自体が軽くなるって、自分で想像しておいてなんだけどまるで意味が分かんない。

 原子レベルにバラバラにして構造から変えちゃうとか?

 ぶっ飛び過ぎて僕の頭じゃ絶対無理だ。

 考えらんないしやってらんない。


 なので本命――重力操作の試行に移る。


 本に働く重力――それは下向きの引力だ。

 加速度とかなんとかはよく分かんないけど、まあそれだけ分かってればなんとかなると思う。


 要はそれと逆向きの力にしてしまうか、その力をゼロにしてしまえばいい……はず。


 重力なんてなくなってしまえって思いながら前世は毎日生きてきたんだ。

 僕のイメージ力舐めるなよ?


 そう強く思いながら魔力を注いだら――ふわんと、その一瞬で本が浮き上がった。


「はぇ?」


 呆けちゃって、魔力が止まる。

 すると本は浮上を止めて、ズドンと物凄い音を立てて床に落ちた。


「え? ……え?」


 あまりの出来事に、それしか言葉にできない。

 いやだって……ねえ?

 そんな、こんな簡単にいくはずがない、はずだし……。

 う~ん。でも。


「浮いたよねぇ……」


 本だけが逆様の世界に迷い込んだかのようだった。

 ()()()()()()()()なんてしっちゃかめっちゃかな言葉も相応しいと思う。


「えい」


 半分ぐらいのイメージで魔力を注ぐ。

 今度は浮き上がる様子はない。

 だけど、魔力が無駄になっているわけではない。


 手に取って見ると……ごめん持てはしないや。

 でも、ビクともしなかった本をずりずりと動かすことには成功した。

 表紙やページも捲ることができる。


 注ぐ魔力の量を多くしていく。

 すると、両手で持てるぐらいにまで本は軽くなった。


 重力操作、成功です。……うそぉ。


 本棚から別の本を手に取る。動かない。

 もう一度魔法発動。持ち上がる。


 ……重力操作、成功です(二回目)。


 と、とりあえず喜んでおこうか。


「い、いえーい」


 本を掲げて、遣る瀬無く勝ち誇る。

 とりあえず、今後は検証していこう。


 ……うん。明日からかな。


ああそうそう。ここに出てくる物理はなんちゃって物理学です。

できる限り調べた後に考えて書いてますが、ああん? って思っても見逃してください。

いや、でも、指摘してくれたら次に活かせるし……でも……ああん。


また明日……明日? うっ、頭が……。

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