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転生怠惰譚~ゆるゆると生きてたい~  作者: おばあさん
第一章~転生して良くも悪くもめんどうくさい~
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二話 〃 ―②

 二歳になったからかは分からないけど、最近は人の目のない時間が増えつつある。


 お父さんは仕事で、お母さんはお買いものついでの散歩。

 リアねえは友達と遊んでいて、サヴァさんは家の中の事やたまに外出。

 それぞれの理由で僕から目を離している。


 尚、僕はほとんど外出しない。

 する時は、お母さんとサヴァさんが同時に家にいなくなってしまう時にお母さんについて行くか、お母さんが凄い寂しそうな顔をした時にお母さんについて行くだけだ。

 リアねえやお父さんとは、去年のリアねえの誕生日の翌日に家族で紅葉狩りに行った時ぐらいだなあ。


 ……まあ、まだ二歳だし、これからだよね多分。


 そんなわけだから、僕は今まで以上に魔法に専念できる。

 できるんだけど……。


 つい最近だけど、僕の目指していた浮遊魔法は粗方形になってしまった。


 一時期、手詰まりに近いぐらいに魔法が上手く行かなかったこともあったけど、ミルイニちゃんのお陰でなんとかここまではこぎ付けたのだ。


 『んーもう考えるの面倒だなあ。やだなあ、誰か僕を慰めてくれないかなあ。でも、隠してるからなあ。もしかしたらミルイニちゃんなら褒めてくれるかなあ。ミルイニちゃん元気かなあ。そう言えばミルイニちゃんってなんの神様だっけ? たしか海だったような。ん? 海?』

 

 といった流れで、僕は今までのイメージ――念動力で持ち上げる感覚――に加えて、海上(水上)を漂う、または泳ぐ感覚を元にして浮遊魔法を形成した。

 ミルイニちゃんあんまり直接関係なくないかとか思った人は、まあその通りだけど気にしないでください。

 僕が勝手に感謝してるだけだから。


「ん~。らくだなぁ~」


 両手足をぶらさげて宙を漂う僕。

 出来たばかりであるし、練度が低いからまだ歩くぐらいの速さにしかならない。


 でも、それよりもまずい点が一つある。


 この魔法、燃費が悪いんだよね。

 浮遊できる時間は最大十分程度と結構短い。


 あっちにウロウロ、こっちにウロウロと行くたびに、自分の中の力の源が減っていくのをしっかりと体感できてしまう。


 解決案としては、僕の持つ“力”の最大量を増やしていくか、魔法の更なる改良のどちらかしかない。


 改良に関してはまあ、地道に工夫を凝らすしかない。

 力の最大量を増やすためには、魔法を使い続けるしかない。


 そんなわけで、人目のつかない自分の部屋で、僕は魔法を色んな形で試行し続けているわけだけども。

 なんかもうやり遂げてないのにやり遂げた感がすごいから、軽くアパシー状態になってる。

 だってチマチマした練習ってかったるいんだもーん。


 あーやる気が出ない。

 何もかも面倒くさい。

 ミルイニちゃんに抱きしめて欲しい。


 そんな風にぐだぐだと浮いてたんだけど。


「……あ」


 ちょっと焦りながら、ふわっと僕は床に降り立った。


「――ベル坊ちゃま。おやつの時間です」


 そしてその直後に、ふとサヴァさんが現れた。

 そして告げたと同時に消えた。

 相変わらず神出鬼没な人だ。


 神出鬼没だけれど……僕はいつの間にか、人の中にある“力”を察知することで人が周りにいるかどうかが分かるようになっていた。

 本当にいつの間にかできていた謎の技術なんだけど、これがとっても便利。

 発動できてればサヴァさんでも探知が可能なのだ。

 ……でも、本当ににたまにだけどあの人、“力”の反応も消えるんだよね。

 そこはもうわけわかんないから諦めてるけど。




 おやつの時間を楽しんだ後、家の中をうろうろしていると、一つの扉を見つけた。


「……」


 そういえば、ここの扉はなんだろう。

 客間やお父さんたちの部屋はここじゃないから、それ以外のはずだけど。


 ちらちらと周りを見る。誰もいないみたいだ。


 ……入っちゃおっか。


 ドアノブが届かないから、いつも通りに浮いてからドアを開けて僕は中に入った。


 そこは薄暗い書斎だった。

 古い本の匂いが鼻腔に届く。

 僕は扉を閉めてゆっくりと奥に進む。

 本の匂いに包まれながら、その場に静かに降り立った。


 分厚い本が隙間なく詰められている本棚。

 見上げるのも一苦労なほどそれらは大きい。


「いいなあ、ここ」


 ……ここなら、家族の目もほとんど気にせずに魔法が使えるんじゃないかな。


 それに、本もたくさんある。

 まだまだ読めない字はあるけど、それも含めて学べばいいだろう。


 ここは、とてもいい暇つぶしになりそうだ。


 早速、僕は浮遊しながら色々と見て回る。

 どうにか自分でも読めそうなものを探して――っと。

 これなら読めるかな?

 そう思って僕はその本を手に取った。


「……ん?」


 動かない。ビクともしない。


 これはどういうこと?


 両手を使っても見るけど、全然動く気配がしない。

 おかしいなあ。

 ぎゅうぎゅうに敷き詰められているわけではなさそうなんだけど。


 どう頑張っても僕の腕力では取れないので、魔法で取ろうと試みる。


「えい――!?」


 ごっそりと、僕の中の“力”が大幅に削り取られた。

 今までにない消費量で、維持するだけでもどんどん減っていく。

 動かしたら、それはもう湯水どころか瀑布の如く“力”が流れていく。


「そーっと、そーっと……はぁぁぁぁ……」


 どうにか“力”が尽きる前に床に本を下ろすことはできた。

 けど、原因が全く分からない。


 僕は、もう一度腕の力だけで床に置いた本を持ち上げようとする。

 が、だめ。全身を使ってもこの本を持ち上げることは僕にはできなかった。

 他の本も全部、同じくらい重いからか棚から取り出せない。

 ついでに本を読もうとしてみるけど、表紙が既に重すぎる。

 なんとか魔法で捲ってみたけど、絵本を読んでる時の数倍は消費が激しい。


「重いほど消費が大きいのかなあ……?」


 でも、それだけなのだろうか。

 ただ重いだけで、いつもの二倍三倍以上の消費量になるのか?

 そうだとして、どんな原因なんだ?


 浮遊魔法の問題点が浮き彫りになった。


「これは困ったなあ」


 これだと、本を読むのに苦労してしまう。

 もっと楽に本を取れるように、そして燃費の向上のために魔法を改良をするべきだろう。


 アパシー状態だったけど、なんだかやる気が出てきたよ。


 いいね。よし。


「あしたからがんばろう」


 でも今日はもう予想外に疲れたからお休みにします。

明日から。

明日から。

明日から。

……延々と続くそれ、止めませんか?

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