十二話 〃 ―③
「二週間お疲れ様でしたー!」
『お疲れ様ー!』
クラッカーがパパンと鳴って、お誕生日席に座るアシに色とりどりの紙テープが掛かる。
微妙な笑みを浮かべながら頬を掻くアシにを気にも留めず、我が家のエンジンはフルスロットルだ。
「いやー、アキラ君がいるととても楽しかったな!」
「ね! アキと遊べて楽しかった!」
「もっとお買いものしたかったわー」
そりゃ楽しかったでしょうよ。
僕が『動かなくて申し訳ないなー』と思うぐらいには、楽しかったでしょうよ。
怠けん坊の甘えん坊でごめんなさいね。
「あはは……まあ、俺も楽しかったですよ」
苦笑気味の台詞だけど、その言葉に嘘がないことは分かった。
転生者とは言え、彼は親に捨てられた子だ。
フラワちゃんに対する態度に不安になるぐらいさ。
我が家は色々と強かったんだろう。
そうして始まった送別会の名を借りたパーティー。
家族は勝手にわいわいと騒ぎ始める。
アシは下働きとして動けないからか、少しだけ落ち着かなさそうだった。
そして宴もたけなわといった頃合い。
「二週間ってのは、短かったなあ」
「もっといてくれたらねえ」
お父さんお母さんがそう、凄く残念そうに言葉を漏らしたところで。
「――少し、よろしいですかな?」
サヴァさんが静かに、宴の中に声を投じた。
『?』
「珍しいな、サーヴァ。どうかしたか?」
「一つ、ご提案があります」
チラリと僕を見たサヴァさんに、静かに頷きで返す。
「――私事ですが、アキラ・シフト君を私の後継にと考えているのですが」
一瞬、その場が凪いだ。
「アキラ君、どうでしょうか?」
そして水面に、石が落ちた。
「お」
「おお」
『おおおおおお!?』
「それだ! それがいい!」
「そしたらアキはずっとここにいる!?」
「というか、え!? 後継者必要なのサヴァさん!?」
「ああああそうだ。おいどういうことだサーヴァ!」
その名案は、意外とショックな事態だ。
特に、お父さんお母さんには。
サヴァさんは予想していたのか、ゆっくりと僕たちに話した。
「……私はアーケディア家に仕える身です。ですが、私のような老いぼれの身だけでは、限界があります。私の後、アーケディアに仕える者が必要です」
再び喋り出した彼の言葉を、僕たちはただ何も言わずに聞き届ける。
「しかし私には息子のようなものはおりません。今まで考えたこともありませんでした。誰かを見繕うことにも、しっかりとした人材でなければ認められません」
サヴァさんが、アシを見据える。
その眼差しは、とても真摯だ。
「そこに、丁度君が現れました。君になら、私が培ったものの全てを授けられると思うのです。――ですのでどうか、私の後を継いでくださいませんか?」
「……」
宴の席の賑わいも、電撃発言の混乱も。
再び鳴りを潜めて、静寂が広がった。
アシが、重く口を開く。
「……申し出は有難いですが、ちょっと、無理かもです」
「ええ!?」
「な、何か不満でも!?」
その返答にサヴァさんより先にお父さんたちが愕然とした。
「俺がたった独りだったら、断る理由はないんですけど……」
言い辛そうな顔でアシは、頭を下げる。
「フラワがいますし。まだ、そういうの考えられないんですよね」
「……ふむ、そうですか」
やや落胆した声で頷くサヴァさん。
しょうがない。
「――サヴァさん別に、明日死ぬわけじゃないでしょ?」
ポツリと落ち込んだ空気に、拙い言葉で僕から一言。
そして、二言め。
「習い事感覚で、何日かに一回来るだけなら大丈夫でしょ?」
『……』
「そりゃ、そうだけどさ」
「それに、毎日アシがいなくとも、フラワちゃんもルナも成長してるからさ」
「え?」
僕を見たから、僕はフラワに目を向ける。
「ルナ。今度フラワちゃんと一緒に、みんなと遊ぶんだよね?」
「うん。あと、しんぷさんもいっしょ」
ほらね、と言外に伝えつつ、僕は強く口にした。
「だから、さ」
薄らと笑って、僕はアシにしかと告げた。
「僕からもお願いだよ。サヴァさんのお願い、聞いてあげて?」
「なっ……」
分かったか。
分かったよな?
(――別にいいだろ? そのぐらい)
(~~~っ! ああ、もう、わかったよ!)
視線だけでそうやり取りしたら、彼は思い切ったようにサヴァさんに言った。
「分かった。分かりました。……通いで良ければ、その提案、受けさせていただきます」
「……ありがとうございます」
『おおー!!!』
「……いいこと?」
「いいことだよ。友達が増えるのと、同じぐらい」
「そかー」
湧き上がる三名と、きょとんとしたルナ。
僕はそんなルナに抱きついて、リアねえに抱き締められに行きながら、アシを見る。
まだ、気づかないかな?
「……そう言えば、サーヴァさんの後を継ぐってことは、どういうことなんですか?」
「それは、モチロン、アーケディア家に……正しくは当主の手足となるべくその身を捧げることになります。当代であるクロード様には私が付いていますので、アキラ君は次期当主に仕えていただきます」
「ってことはつま……り……」
口の端が自然とゆっくり吊り上がる。
同じようにアシが蒼白な顔でこちらを見る。
震える指で僕を差し、震える声で小さく言った。
「……こいつ?」
大・正・解。
「えーベル、羨ましい!」
「アシ、おにいの“あし”?」
可愛い姉妹に挟まれながら、僕も負けず劣らずの可愛い笑顔を、幸せ者のアシに向けた。
「ご主人様でいいよ?」
「うぼぁぁぁぁぁぁぁ!!!??」
頭を抱えて叫んだアシを、僕はカラカラと笑ったのだった。
まあ家督を継ぐのは長男が基本ですからね。
アーケディア家のこと考えて、次期当主リアねえとどっちにするか悩みましたけどね!




