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転生怠惰譚~ゆるゆると生きてたい~  作者: おばあさん
第一章~転生して良くも悪くもめんどうくさい~
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十二話 〃 ―②

 ――六匹の水蛇が両腕の一薙ぎで全て切り払われた。


「……ナニ、“アレ”」


 それには流石の僕も驚愕を隠せなかった。


 それらが切り落とされたことでは、ない。


 道路や砂浜に落ち染みる水を無視して僕が見つめるのは。




 彼が両手で剣のように握る――何もない空間。




 いや、ある。

 そこには、何かしらある。

 だけど、不気味なほどに何もないように見える。

 そうとしか見えない。


 空想の剣をバカみたいに振るう子供のようにしか見えない。

 けど、彼は確かに最強の剣のような虚空を振るっている。


 ……そろそろ自分が何を言ってるかも、分からなくなってきた。

 だから一つだけ、単純明快な結論を下すとしよう。


 ――どうしようもなくアレはヤバい。


「ちっ」


 瀑音とともに大蛇を三匹、蛇を六匹。

 無理をして背後に備える。

 同時に彼も真っ直ぐに駆け出していた。


 多角的に蛇をけしかける。

 けど、やはり剣の一振りで蛇は両断される。

 水を切るという“極芸”を、彼は児戯のような振るい方でやってのける。


 断ち切られた先の水が一瞬制御下から離れる理由もまた分からない。

 繋いでいた魔力が急に“引き剥がされた”ような、“切り離された”ような感覚があったのは分かるんだけど……。


 ……ああ、そうか


 砂に染みていく海水を尻目に、迫る彼をどうにか遅らせながら、ようやく結論が出た。


 そう言えば彼は、魔法名を口にしていた。

 じゃあれは、魔法だ。

 空間魔法だ。


 だとしたら、現象と考えられる効果は――たった一つ。


「ふざけた切り札(ジョーカー)だね」


 切り落とされて水になった蛇をもう一度象りながら、何度も何度も彼に喰らい付く。

 その都度両断されるけど、どうしようもないからそれを続けるしかない。 


「殺す気かよー怖いなー」


「やられたくなきゃ、どうにかして止めるか降参しやがれ!」


「やーなこった」


 蛇をもういくつか背後に生みながら、しかしそれは使わずに線ではなく面で――波を用いて足止めを画策する。


 予想が正しければ、“アレ”に斬れないものはないだろう。

 “虚空”を押し付けるあの何もない棒っ切れだか板っ切れに触れたら、間違いなく綺麗に切断される。

 いや、もしかしたら物理的な色々を無視して削り取られるのが正しいのか?


「らぁっ!」


 その虚空の剣を前に突きだして彼は邁進する。

 どうやら七歳男児の背丈を覆うほどはあるらしい。


 ……ほんと、馬鹿げた魔法だ。

 なんて代物を出してくるんだよ。

 当たったら本当に、間違いなく死ぬよね。


「まあ、当たらなきゃいいんだろうけど」


 そして負けなければいい。


 波の維持を止めて僕は一斉に――けれど僅かな時間差をつけて蛇をけしかける。

 未だ周囲を囲む波と、大小様々な水蛇。


 その強力な魔法の燃費が良いなんてことは、その焦る様からしても流石に無いだろう?


「さあ、正念場だ」


「ぐっ……」


 気圧されたか、邁進を止めて下がっていくアシ。

 別にこちらとしてはいいけどね。

 そのまま魔力が切れるまで、子供のように剣を振ってくれれば――。




 彼の姿が、掻き消えた。




「……なっ」


 ――そして、彼は僕の目の前にいた。


 握っていた拳は、握りこまれている。

 振りかぶったその手には、もう剣が握られていないのは明白だった。


「へへ」


 魔力を剣の維持じゃなく移動に用いたのか。

 まあ、あんな剣でオーバーキルするよりも余程合理的か。


「俺のぉ……」


 でも、その拳は当たったら痛そうだね。

 僕のプリティーな横っ面にジャストミートじゃないか。


 僕は静かに冷ややかに、彼をよく観察して。


 そして悟った。


「勝ち――」




「惜しいね」


 もう彼にそれ以上の手はないことを。




「――だばぁ!?」


 ――砂色の濁流が、僕の眼前に立ち昇った。


「な――」


 砂まみれになりながら、吹き上がった水柱に打ち上げられたアシを、さっきスカッた水蛇らで飲み込んで受け止める。

 球形にして、顔だけ出してやりながらアシを水の中に閉じ込めた。


「ぶほっ! ぺっぺっ! くそ……砂が口に」


「いやー危なかった」


 ちょろっと水球から鞭を生やしながら、ペチペチと彼の頬を叩く。


「意表をつかれたよ。あんな強烈な切り札見せておいて、まさか殴りかかって来るんだもん。普通に()()忘れてたし、良い手だったと思う」


 僕はニコニコと彼に尋ねた。


「ねえ、どんな気持ち?」


「……腹立って仕方ねえよ」


「何が足りなかったか分かる?」


「魔力感知だろ。……そこまで強調されて、分からないわけあるか」


「だーいせーいかーい」


 アシを下ろして、海水を全て海に返す。

 宙にあったものも、蛇を象ったものも。

 ――そして最後に、砂浜に染み込んでいたものも。

 見せつけるようにして海に戻した。


「使い慣れた【重力】じゃない【水】を、半ば力任せに使ってたから、頑張れば君でも分かったと思うんだけどな」


「させないために態々でけえ蛇とかで気を逸らしてたやつが言うかよ」


「あ、バレた」


 結局のところ、僕と彼は同じ作戦を用いて、同じミスをしたのだ。

 勝敗の決め手だったのは、フィニッシュに向かったのが先かどうかだ。


「ったく……」


 服に染み込んだ水を絞りながら、アシが苦く悪態づいた。


「でも、僕の真下の水が最後の砦だったのは確かだ。ほら、誇れよ」


「素直に誇れるかっつの」


 まあ誇ったら【重力】で叩き潰したけどね。


 それはともかく、だ。

 ……リアねえとやる時には、もっと手加減が必要だな。

 最初の大津波とかやったら、普通に死んじゃいそう。

 小さめの蛇とかが丁度いいかな。


「とりあえず、君の負けだ」


「ちっ……」


 そろそろ立つのが億劫になったから、浮いとこっと。

 イルちゃん(僕命名)置いてきちゃったから、様にならないなあ。


「負けんのは二回目か」


「僕なんかに二回も負けてんのかよ」


「うっせ」


 彼はがしがしと濡れた頭を掻きむしりながら、悔しげに言った。


「おら、なんでも聞けよ。答えてやっから」


「んー? ……別に聞くのはいいや」


「は?」


「僕のお願い事は、そうだなあ」


「待て待て待て」


 なんだ急に。

 初めて聞いたみたいな顔してさ。


「どういうことだ? お前が聞いたことになんでも答えるって内容じゃなかったか?」


「何言ってるんだよ。全然違うよ」


 ずいとその端正な童顔に詰め寄る。


「僕のBETは『神様にすら教えてない僕の前世かこ』だ。君のBETは――『僕の言うことを一つだけなんでも絶対に聞く』だ」


「はっ? ――ああ!? ああああ!!!???」


 思い出したアシが素っ頓狂な声から悲壮な絶叫を上げた。


 近所迷惑な叫びを聞くまいと耳を塞いで、僕は言った。


「……ま、お願いの内容は明日までお楽しみね?」


 凍りついた彼をぺしぺし叩きながら、魔力すっからかんのアシを見てどう帰るかを考えることにした。

もうちょいド派手に長くしたかったけどちょっと面倒だった

20150204_誤字修正

県→剣

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