間話 〃 ―②
そして下働きになったんだが、僥倖とか思った自分を殴りたくなった。
――怠い・面倒・眠い。
なんて言葉を口癖レベルで連発するベルは、予想とは違ってかなり怠惰であった。
お父さんお母さんに言われたことはとりあえずやっておくけど、神様へのお祈りと家族のお願い、惰眠以外を積極的に行っているところは一切なかった。
たまーに本を読むぐらいだ。
彼の日常の姿勢のことはそのぐらいのことしか分からない。
なのに、俺はこう、アーケディア家の重すぎる愛を一身に受ける羽目になった。
お父さんに稽古付けられ、リア姉さんにタコ殴りにされ、お母さんの買い物に連れられ、ルナちゃんには避けられる。
唯一の癒しはサヴァさんに教わりながらの下働きという……色々とおかしいことは自覚してるが、下働き意外と楽しいんだこれが。
紅茶ってな、時間とか蒸らし方とかが重要なんだよ。
それも茶葉によって全然違うからまたこれが……。
……げふん。まあ置いておいて。
そんな一週間を過ごしてどうしようかと悩みながら孤児院に赴いたんだが……そこで少しベルの印象は変わった。
『おはなししてあげてほしい』
俺以外の殆どの人に使う、子供のような舌っ足らずな言葉で、フラワにそう言ったベルは、確かに自分の妹のために動いていた。
その時はフラワが一つ成長したことが嬉しくて――そしてなんとなく不安になってしまって、そんなこと頭になかった。
だが、その後色々とあってベルフェルミナという人間がいい意味で計りかねるようになった。
弱音を吐いた俺を鼻で笑いながら、やるべきことを気づかせてくれたそいつは。
妹のためにと動く中で一言も『怠い』などと言わなかった彼は。
妹たちの成長に一緒に笑いあったベルフェルミナという少年は。
なんというか、俺となんら変わらないのではないかと思わされた。
☆
その後日。
もう何度目かになる祈りの最中に、今までになかったことが起きた。
『やほお』
『……?』
聞き覚えのある声。
周囲に気を配ってみるが、気配はない。
『辺りにはいないよお……頭の中に直接語りかけてるからさあ……』
『……セポーセか?』
『そうだよお……』
俺が一応崇めてる神様が、語りかけてきた。
ベルから聞いてはいたが、本当にあるんだな。
こいつ直接脳内に……! がマジでやれるとは。
『だ~いぶみてたけどお……どお?』
どうやら今までの経過を聞きに来たようだ。
ああ、やっぱりアイツなんだと思いながら、俺はぶっきらぼうに返した。
『どうって……見てんなら別に言う必要ねえだろ。……今んとこ、危ねえところは魔法以外に見当たらねえよ』
『だったねえ……面倒だしこっから先も見てるだけでいいかもねえ……』
この神様、絶対にベルと一緒にしちゃいけねえな。
いや、一緒にしても問題ないのか。
引き合わせたところで何も起こらないだろう。
起こらなさすぎるだろう。
『まだ野放しにするには無理があるか?』
『ミルの謹慎がもうあと一年で解けるからあ……任せれば多分、放置でいいと思うなあ』
ミル……ミルイニ、様か。
『大丈夫なのか?』
『どーみても相思相愛って……ルンが』
ルン? ……ああ、ルンヴィだったか?
ベルが良く話す神様だったな。
ミルイニ様の友達なのは分かってたけど、まさかセポーセとも話せるとは。
かなりアクティブな神様なんだな。
『……それに、ミルなら大丈夫だあ』
『そんなに信用あるのか』
『わたしのかんー』
俺の中では信用ゼロだわコイツが。
『まあ、俺は俺でしばらく様子見るから』
『……そう。じゃあ、お願いねえ。……あ』
俺の意識から消えかけたセポーセが、ふと思い出したように呟いた。
『……一つだけ、教えてあげよお』
『どうした突然』
『いやあ……今まで特に気にも留めなかったけどお……祈られるのって、案外心地よかったからさあ……お礼に一つ、魔法を教えてあげる』
『……まあ、教えてくれるなら、ありがてえけど』
『じゃあ教えてあげる――』
教えられたその魔法。
そしてその使い方を教えてもらって、俺は言った。
『無茶苦茶な魔法だなおい』
『君なら、頑張れば使えると思うからあ……頑張ってねえ?』
『……はいはい』
今度こそセポーセは消えた。
……教えられた魔法を反芻しながら思う。
どうやって練習すっかな、これ。
☆
「――じゃ、『いちについてヨーイ、ドン』ね」
「……“位置について”までは余計じゃね?」
「そう? じゃあそれで」
……悠然と波打ち際で立つベルを見据えて、俺は腰を落として構える。
分からない。
最初に疑問を持ちかけたのは俺だが、この展開が分からない。
面倒を嫌うコイツが、どうして突然こんなことを?
薄ら笑いのそいつを見据えて、疑念を深めていく。
単なる余興……なのだろうか。
昼間にリア姉さんと帰ってきた時、色々言われてたみたいだし。
あの人のことだから、戦えとでも言われたんだろう。
そして姉に弱いベルが俺を使って練習……が一番妥当か。
それとも、他に何か企みがある?
もしそうだとしたら、少し厄介だ。
見極める必要がある。
そのために――この戦いは、勝たなきゃいけねえ。
企みを止めるために、前世のことを知るために。
……なんか本当は本当の本当にくっだらない理由の所為だと思うのは、気のせいか?
「よーいドン」
「――≪ライフ・リィンフォース≫!」
まあ、いい。
勝てばこっちのものだろう。
そう思いながら、強化魔法を用いて突っ込んだ。
祝五十部(ただしまだ十一話+α)
次回戦闘




