表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生怠惰譚~ゆるゆると生きてたい~  作者: おばあさん
第一章~転生して良くも悪くもめんどうくさい~
5/55

一話 〃 ―③

明日と言ったな。


あれは嘘だ。

 翌日の、再びお昼過ぎのこと。

 この時までに僕は考え抜いて、ある結論を出した。


 ――なんでもいいから、手本を見なければ。


 それこそ、系統が違ってもいい。

 魔法がどう成り立っているのかさえ分かれば、後はどうとでもなるしどうとでもする。

 怠惰のためには努力を惜しまないよ僕。


 ……それに、だらーんとしてるのは好きだけど、ただただ暇し続けるのはそれはそれで嫌いだ。

 最近、寝付けなくなった時がどうも暇でしょうがないんだ。


 だから、暇つぶしに……ね。


 さて、そんなわけなので、僕は今からある作戦を実行する。それは――。


「ベル。今日もあんよしてみましょっか」


「あいー!」


 ――『あ、転んじゃった! 怪我しちゃったからお母さん魔法で治して!』作戦だ。


 どう? すごくない? ワザと転んで怪我するの。

 前世では友達の女の子によくやったから得意だよ。

 そしてよく怒られたね。しまいにはもっと酷い怪我させられちゃった。

 今世ではやり過ぎないように気をつけてやろう。


「いくわよー? いち、に。いち、に」


 母の掛け声を合図に、僕は手を取られて歩き出す。

 いちにの合図で足を出すだけ。


 ここまではいつも通り。


 作戦は、手を離されてからだ。


「いち、に。手を離すわよー。さん、はいっ! いち、に!」


 よし、ここだ!


 僕は数歩進んだ後、ぐらりと横に崩れる。

 肘を突く形で手を出し、擦り傷を作る気満々だ。

 そうすればお母さんの魔法が見れる、受けれる!




 そして――ぽよんと。

 いつもの嬉しい感触が。




 ……あれ?


「あらあら。危なかったわねえ」


 横には、いつの間にかお母さんが座り込んでいる。

 僕はそのお母さんのおっぱいにまた埋もれたようだ。


 ……お母さん。カバーが早すぎ。どうやって動いたの? どういう反射神経なの?




 その後、何回か試みたけど未然に防がれちゃって、とうとうお昼寝の時間になった。

 因みに今日の絵本は元通り英雄譚だったから、申し訳なく思いながら寝たふりしちゃった。


 どうしよう。お母さんが素晴らしくて怪我ができない。

 喜ぶべきことだけど、これは参ったよ。


 何か解決策はないかなあ。


 魔法を見るには、今のところ怪我をして治してもらうくらいしか方法がない。

 というか、これ以外だとあんまりよく分からないと思うんだよね。


 だから怪我をしたいんだけど……お母さんが見てる内はどうしても怪我が出来ないからなあ。

 困ったなあ……お母さんの目がなければ……。


 …………。


 ……うん?


「いあ!」


 アホだなあ僕! 誰の目にもつかない今がチャンスじゃないか。


 さあどうする、と周りを見る。

 そこにあるのは、転落防止のための柵、柵、柵。


 考えられるのはえっと……だ、打撲?

 柵を思いっきり殴って、打撲でいく?

 でも、打撲は嫌だなあ。擦り傷か切り傷がいい。


 擦り傷、切り傷……おっ。

 丁度届く高さに良いかどがある。

 ここに手を掛けて……体重掛けてグイッと!?


「いったい!」


 思わず声に出たよ。本当痛かった。やり過ぎた感あるよこれ。


 僕は掌を見る――ザックリ切れてた。


 ここまで切れるの?

 ちょっとこのベッド安全性に問題あるよ?

 角は残しちゃダメだよ、もう。


「い~~~~!」


 僕はとりあえず唸った。そして角を睨んだ。

 お前は許さないぞ。自分からやったことだけど、許さない。

 お前なんかサーヴァさん……もといサヴァさんに頼んで丸くしてもらうからな!

 ここで呼んだらあの人直ぐに来ちゃうんだからな!?


「サー!」


「――――呼びましたかな? ベルお坊ちゃま」


 わあ。え? 本当に来た。

 自分でやっておいてなんだけど、超ビックリだよ。

 とりあえず僕はサヴァさんに掌を見せつけながら、別の手でベッドの柵の角を指差す。


「成程。柵の角に手を掛けて、切ってしまったのですね。これは油断しておりましたなあ」


 分かるんだ今ので。すごいなあ。なんで?


「角は後程削り取って丸めましょう。今は手当てが先ですね」


 サヴァさんが僕の手を取る。

 これは予想外だ。

 サヴァさんも治せるのか。何でもできるなあ。

 ……っといけない。


 僕は集中する。

 サーヴァさんと、僕の手。

 どちらにも意識を張り巡らせておく。


 さあ来いサヴァさん! 


「――≪ヒーリア≫」


 サーヴァさんの口から何かが紡がれる。


 直後に、確かに何かの“力”の感覚を、僕は正しく知覚した。


 サーヴァさんの中にある何かの“力”が、彼の言葉を引き金に形を変えて、彼の手を伝って僕の掌に注がれていく。

 その変化した力が作用し、僕の掌の切り傷はみるみるうちに塞がっていくのだ。


 そしてそれを元にして僕は同時に、自分の中にもそれと似た力の巡りと、その源泉のようなものがあるのを感じ取ることに成功した。


「このぐらいでしょう」


 時間にして数秒だっただろうね。

 たったそれだけで、僕の怪我は消えてなくなった。

 中々すごいね。魔法っていうのは。


「さて。ここは少々危険な個所があると分かりましたので、いったんルミナス様――お母さんの所へ移動しましょう」


 ……え。なんで。


「そのまま、一緒にお昼寝をしていてください。その間に私が、あの角を丸めておきますので」


 ……まあ。それなら、しょうがないかな。僕がやったことで発覚したことだし、甘んじて受け入れるしかないよね。


 この感覚を覚えた今のうちに、いろいろやっておきたかったんだけどなあ。


 僕はサーヴァさんに抱えられて部屋を後にする。

 その間、僕はじっと掌を眺めながら、内で巡る力の存在を確かめたのだった。


角は丸めたとしても、ぶつけたら痛いですからね。

気をつけてくださいね。私は脇腹を抉られましたから。


続きの更新は翌日朝八時です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ